2022-09-18

分子系統学がわかる(3)~上手くいかない分子系統学?!~

この間の調査で、分子系統学の可能性が見えてきましたが、そう簡単ではないようです。まだまだ分子系統学にも課題が残っているようです。今回は、上手くいかなかった事例、上手くいっているの?事例を調べてみました。

■■■珍渦虫(ちんうずむし)は、系統的にどの生物に近縁なのか?■■■

珍渦虫は,その単純な体性から原始的な動物と言われ,その系統学的位置は長らく不明であったようです。その最新情報情報です。引用は、東京大学・上島励・准教授の記事です。引用有難う御座います。これを読んでも本当に決着したのか?まだまだ課題がありそうです。
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珍渦虫のDNA による分子系統解析は1997年に初めて行われ,軟体動物の二枚貝類に近縁であるという驚くべき知見が報告された。しかしその後,この知見は珍渦虫そのものではなく,「珍渦虫が餌として食べた二枚貝」の混入であったことが判明し,「本物」の珍渦虫のDNA による分子系統解析がやり直された。その結果,珍渦虫は後口動物の一員であるという,またまた驚くべき知見が発表された。この新知見にもとづき珍渦虫に対して新しい動物門(珍渦虫動物門)が創設され,この問題は解決したかと思われた。

その後,扁形動物の一員と考えられていた無腸形類が珍渦虫に近縁であることが示唆され,両者を統合した珍無腸形動物門が新たに創設された。しかし,その系統学的位置については,後口動物説だけでなく,「前口動物と後口動物が分岐するよりも前に出現した原始的な三胚葉動物(左右相称動物)である」という新たな説が発表され,さらには珍渦虫と無腸形類は近縁でないとする説も出るなど,状況は混沌としてきた。

2016 年の1 月にNature 誌に2つの論文が発表され,珍渦虫と無腸形類は近縁であること,これら(珍無腸形類)は三胚葉動物の最も初期に分岐した古いグループであることが強く支持された。しかし,今までに述べた説は,全てDNA の分子系統解析にもとづいている。餌の混入であった「軟体動物説」はともかくとして,その後の論文ではいずれも複数の遺伝子情報を用いていたにもかかわらず,なぜ解析結果が二転三転したのだろうか。これまでの研究で問題となっていたのは,珍渦虫の分子データ(遺伝子の種類)が少ないこと,解析対象となる分類群の多様性が充分でなかったこと(特に無腸形類)である。今回発表された論文では,これらの問題をクリアする多くのデータを用いており,珍無腸形類の系統学的位置は今度こそ決着したと思われる。

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■■■ヒトに最も近い類人猿は?チンパンジー?オランウータン?■■■

ヒトと類人猿の関係はいろいろ議論されていますが、分子系統学の追求の結果、ヒトに一番近いのはチンパンジーであると、1990年代にほぼ確立されたようです。ただし、調べてみるとそう簡単ではなさそうです。まだまだ課題がありそうです。

(1)形態的特徴との違いは?

チンパンジーとゴリラが地上を歩くときに、共通したナックル歩行という歩き方があります。これに対し、オランウータンやテナガサルはナックル歩行をしません。ヒトの二足歩行にどう繋がるのか?

また歯のエナメル質は、ヒトとオランウータンでは厚いのに対して、チンパンジーとゴリラでは薄くなっています。その他、ヒトの体との類似点が、チンパンジーは2箇所、オランウータンは28箇所(例えば白目黒目)と言われています。

まだまだ、その謎はまだ解決されていないようです。

(2)分子系統学の方法で異なる?

ヒトに最も近いのはオランウータン?:異説・珍説の扱い方(”むしのみち”さん引用有難う御座います)

最節約法を使って、現存大型霊長類(ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン)とアフリカ、アジア、ヨーロッパの化石大型類人猿との間での(形態形質による)系統関係を調べた。

>解析の結果、現存大型霊長類は単系統で、二つの姉妹群(ヒト+オランウータン、チンパンジー・ボノボ+ゴリラ)が検出された。ヒト+オランウータンには、化石人類および中新世の類人猿が含まれていた。

つまり、ヒトとオランウータンには(アフリカの類人猿をのぞく)共通祖先がいた可能性がある。その共通祖先は、少なくとも1300万年前までは広い分布をもっており、その後の分断分布(Vicariance)によって、東アフリカのヒト科人類や、スペインから東南アジアに分布する中新世の類人猿へとなったのかもしれない。

今回は以上です。まだまだ分子系統学も課題がありそうです。次回は、~分子系統解析の課題~です。

List    投稿者 hirosige | 2022-09-18 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

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