2019-06-20

生物の脳細胞の進化の方向性 

 
人間が未知の探求に収束する理由は「脳細胞の戦略」
によるものであると考えられる。
【脳細胞の戦略:脳内の神経細胞は新たな世界にチャレンジする集団細胞であり、過剰に作られ、新たな回路を見つけた神経細胞は生き残れるが見つけられない神経細胞は死んでいく。】
大隅典子エッセイ集 https://norikoosum.exblog.jp/より
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第二話:脳の発生
【どのようにして脳の細胞たちは生まれてくるのか。】

☆始まりは“神経管”
 ヒトの始まりは卵子と精子が受精してできる1個の受精卵である。このたった1個の細胞が何度も何度も分裂して、約1週間後、数百の細胞からなる“胚(はい)”として子宮の壁に着床する。この胚は将来の身体を作る部分と、胎盤や胎児を包む膜になる部分に分かれる。身体を作る部分は、まず2層の細胞層となり、外側の「外胚葉(がいはいよう)」と内側の「内胚葉」に分かれる。外胚葉の一部の細胞は内胚葉との間に入り込んで「中胚葉」となる。大雑把(ざっぱ)に言って、外胚葉からはこのあとお話しする神経系と皮膚が作られ、中胚葉からは骨・筋肉・血液などが、内胚葉からは消化器や肺などが生みだされる。
 受精後、約3週間までの間に、外胚葉の中心部が盛り上がって「神経管」という管が作られる。これが私たちの脳や脊髄(せきずい)、すなわち中枢神経系の基となる原基である。神経管の前方部は膨らんで脳になり、後方部が脊髄となる。身体全体が大きくなるとともに、神経管も長く、大きくなっていく。第5週までに前方部はさらに区画化されて前脳・中脳・後脳となり、第7週までには前脳はさらに将来の大脳皮質・大脳基底核注1)・海馬(かいば)注2)などを生みだす終脳と、視床や視床下部を生みだす間脳に分かれる(図)。第8週の時点で脳の基本的な枠組みは出来上がっているが、大脳皮質にはまだ皺(しわ)もなく、さらに膨大な数の細胞が産み出されていく。脳の多くの領域の神経細胞の産生は出生前までに終了する(ただし、海馬などでは一生涯、神経細胞が作られる。このお話はシリーズ後半で……)。その後、1月号で紹介したアストロサイトやオリゴデンドロサイトなどのグリア細胞が産生されるようになる。

☆神経細胞の移動
 生まれた神経細胞たちの多くはその場所にとどまらず、遠方まで移動する。大脳皮質を例に取れば、神経幹細胞は内側(脳室側)に存在しているが、産生された神経細胞は脳の表面側に向かって移動する。その際に、大脳皮質では後から生まれた神経細胞が、先に生まれた神経細胞を追い越して、さらに脳の表面側に配置されることが知られている。ちょうど、建築物が順々に積み上がっていくように、同じ誕生日の神経細胞たちがそろって移動して大脳皮質の層が形成されるのだ。
 さらに遠い距離を移動する神経細胞もいる。今述べた大脳皮質の神経細胞はグルタミン酸という神経伝達物質を使う種類の細胞たち(興奮性神経細胞)なのだが、GABAという別の種類の神経伝達物質を使う細胞群(抑制性神経細胞)は、実は大脳基底核の領域である脳の腹側(下側)で作られ、そこから背側(上側)に向かって移動する。最終的に大脳皮質で働く神経細胞であれば、最初から抑制性の細胞も大脳皮質で作ればよさそうなものだが、細胞の種類ごとに、それを作るために働く分子が異なるために、このように作る段階では分けておいて、後から必要なところに配置する、という戦略が採られている。

☆神経回路の形成
 では、どのようにして神経細胞から神経回路がつくられるのだろうか? 脳の中でつくられた神経細胞は、「軸索」という突起を伸ばして、結合すべき相手方を探す。軸索の最先端部は手のひらのような形をしており(成長円錐(すい)と呼ばれる)、どちらに進むべきかのセンサーとして働く。「こっちの水は甘いぞ」「こっちの水は苦いぞ」と軸索を誘導する物質を感知し、苦い方を避けつつ、甘い方に向かって軸索が伸びていくのだ。この誘引・反発物質は神経細胞の移動にもかかわる。また、ところどころに標識を持って立ってくれているようなガイド役の細胞もいる。「ここで背中側に曲がって下さい」などの指示を出すのである。神経細胞は集団として行動するので、パイオニアの神経細胞が正しく軸索を伸ばした後に後発隊が続いていくのが常である。
 神経細胞が相手方を見つけると、成長円錐は形を変えて「シナプス」となる。このプロセスにおいては、相手方とくっつくための“糊(のり)”として働くような物質が何種類もあり、それぞれ重要な役割を果たす。

☆神経細胞の生存競争
 神経細胞は必要以上に産生されることが分かっている。その中で、正しく神経結合できたものは生き残れるが、そうでない神経細胞は死んでいく。これは、神経結合した相手方から「栄養因子」を受け取ることができるからである。あらかじめ無駄となる細胞も作っておくという点でエコではない戦略だが、その方が正しい神経回路を確実につくることが可能となる。

 以上、脳の発生がダイナミックなプロセスであり、工業製品のように最適化されたデザインに基づいた作られ方とは異なることを示した。
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  投稿者 seibutusi | 2019-06-20 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

川や海洋だけではない!大気中を移動するマイクロプラスチック

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                    画像はこちらよりお借りしました。

西欧科学の産物の一つ、プラスチック。
マイクロプラスチックの拡散状況について、最近の報告を2つ紹介します。

1.世界の6つの海溝に生息する生き物からマイクロプラスチックを検出
世界の6つの海溝(日本海溝、伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝、ケルマデック海溝、ニューヘブリデス海溝、ペルー・チリ海溝)に住む深海の端脚類(小さなエビに似た甲殻類)から、プラスチックの合成繊維が見つかった。
2.そよ風で移動するマイクロプラスチック 
マイクロプラスチックは少なくとも100キロメートル離れたところから辺境の山地まで大気中を移動するという。マイクロプラスチックの拡散経路は川や海洋だけではないようです。

1.世界の6つの海溝に生息する生き物からマイクロプラスチックを検出
以下「プラスチックの海」より引用。

6つの海溝に住む深海の端脚類(小さなエビに似た甲殻類)から、プラスチックの合成繊維が見つかったことがニューカッスル大学(英)の最新の調査でわかりました(Jamieson et al. 2019)。
さらに、地球上で最も深いマリアナ海溝では、調査した全ての生物から合成繊維が検出されました。

・どんな調査?
同大学の研究チームは、過去10年間で集めた水深6,000 ~ 11,000mに生息する多数の端脚類のサンプルを所持しており、その中からプラスチックが検出されるか調査を開始しました。
サンプルを採取した場所は日本海溝、伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝、ケルマデック海溝、ニューヘブリデス海溝、ペルー・チリ海溝(4つの深度)の合計9ヶ所。
太平洋内の広い範囲を網羅しており、地球の最深部である水深約7,000~10,890mのチャレンジャー海淵(マリアナ海溝の一部)も含まれています。

・調査の結果
解剖を行なった90匹の端脚類のうち、65匹(72%)からマイクロプラスチック122個が検出されました。
海溝別に見ると、最も少なかったのはニューヘブリディーズ海溝で50%、最も多かったのはマリアナ海溝で100%という驚くべき結果に。深い場所で採取された個体ほど多くのマイクロプラスチックを摂取していました。
さらにマイクロプラスチックを分析したところ、そのほとんどが合成繊維でした。
マイクロプラスチックが検出された端脚類の84%が合成繊維を食べており、そういった個体はどの海溝でも見られました。

・プラスチックは海のあらゆる場所に存在する
繊維1つ1つは軽いですが、バクテリアが付着し始めると重さが増し、最終的に海底に沈んでいきます。
海に流れたプラスチックは最終的に海溝に堆積し、それ以上どこかに行くことはありません。
今回調査された6つの海溝は地理的に大きく離れています。
それにも関わらず、全ての海溝の個体からマイクロプラスチックが見られたことを受けて、論文著者のJamieson氏は、「プラスチックはありとあらゆるところに存在すると断言できる。これ以上プラスチックを探す必要はなく、それが生物に及ぼす影響について研究を進めるべき」と述べます。

・生物への影響は?
プラスチック汚染は非常に深い海で広範囲に及んでいます。
しかし、実験室で深海の圧力を再現することは困難です。
海の底に生息する生物がプラスチックを摂取するとどうなるのか、その影響を知ることはほぼ不可能であるとJamieson氏は警告します。
プラスチック粒子はほとんどの生物にとっては非常に小さなもので、そのまま体の中を通り抜けて行くかもしれません。
しかし、今回の端脚類や動物プランクトンといった小さな生物ではどうでしょうか。
体内への影響度が変わってくるのは誰の目にも明らかです(PHYS.ORG Feb 2019)。
(引用終わり)

2.そよ風で移動するマイクロプラスチック
以下「natureasia.com」より引用。

マイクロプラスチックは大気中を移動し、元の放出源から遠く離れた地域にまで到達し得ることを報告する論文が、今週掲載される。

マイクロプラスチックは非常に小さなプラスチックごみの欠片で、川や海洋、「手つかずの」極域でも見つかっている。これまでの研究では、マイクロプラスチックは川に沿って長い距離を移動して海洋に到達し、その途中で水生生態系に影響を及ぼしていることが示唆されてきた。しかし、マイクロプラスチックによる汚染が大気中を移動できるかについては、情報がなかった。

Deonie Allenたちは今回、フランス・ピレネー地域の人里離れた山間地の集水域を5か月にわたり調査した。5回の試料収集期間に大気中の乾燥した堆積物と湿った堆積物を収集したところ、プラスチック片、フィルム、繊維片などの大量のマイクロプラスチックが見つかった。Allenたちは、マイクロプラスチックの1日の堆積速度は1平方メートル当たり365個と測定している。

またAllenたちは、大気シミュレーションを用いて、マイクロプラスチックが少なくとも100キロメートル離れたところから大気中を輸送されたことを示した。
この研究から、大気輸送は、マイクロプラスチックが汚染されていない地域に到達して影響を及ぼす上で重要な輸送路となっていることが示唆される。
(引用終わり)
関連記事:「辺境の山地にもマイクロプラスチック、大気中を浮遊」(AFP

 

 

  投稿者 seibutusi | 2019-06-02 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments »