2022-09-20

分子系統学がわかる(4)~分子系統学の課題~

今回は最終回です。まだまだ分子系統学にも課題が残っているようです。具体的な課題についていくつか調べてみました。(参考にしたのは、『生物を分けると世界が分かる』岡西政典さんです。有難う御座います。)

■■■分子系統解析の注意点~偽遺伝子の罠~■■■
分子系統解析における相同とは由来が同じ遺伝子のことで、これを解析に用いなければ、間違った結果が生み出されることになる。

たとえばDNAには遺伝子重複といって、ある遺伝子が、生殖細胞を作る際の複製ミスによって本来より余分に作られてしまう例が知られている。死に直結しそうな複製ミスだが、生物の中には、この余分な遺伝子を保持したまま子孫を残してきたと思われるものがいる。

その原因はさまざまだが、たとえばアフリカツメガエルでは、祖先種において全ゲノム重複が起こったと考えられている。このカエルでは、他の近縁のカエルに比べて、生体内のすべての遺伝子がそのままそっくり2倍になっている。これを『倍数体』と呼ぶ。このような2倍に増えた遺伝子のうち、機能を持ち続けるものは、ほとんどの場合、どちらか一方だけ。そして機能を持っているほうは、変化が起こりにくい。機能しているということは、すなわち生存に関わっているということであり、変化すると致命的になり、死亡して次世代 が残せないから。

すでに機能している遺伝子があれば、使われない残りのもう一方は変化が起こってもその個体に害を及ぼさない。したがって、使われないがゆえに、倍数体の遺伝子の片方は、その配列情報をどんどん変化させていくことになる。このとき、機能を持ち続ける遺伝子は他の近縁の種が持つ遺伝子と「相同」であり、もう一方の変化していく遺伝子は「偽遺伝子」と呼ばれる。

この偽遺伝子の変化が十分に起こっていない場合、PCR法によってターゲットとしていた相同遺伝子でなく偽遺伝子の配列を得てしまう可能性がある。実験の性質上、PCR法では配列が似ているものを誤って拾ってしまうことがあるからだ。
PCR法では、増幅する遺伝子を特定する際に、その遺伝子を囲む特定の数十塩基を指標にする。もし偽遺伝子でもこの指標部分が相同遺伝子からほとんど変化していない場合は、こちらを増幅してしまう可能性がある。これは系統解析のエラーの原因となる。

■■■分子系統解析の注意点~進化速度の罠~■■■
また、生物によっては塩基置換の速度が異なり、これが系統解析に影響を及ぼす場合がある。たとえば他の生物の体内に寄生する生物は、宿主から十分な栄養が得られるため、感覚器官や 運動器官、さらに消化器官まで退化して失くしてしまい、生殖器官だけを発達させているものが多い。こうして生殖に特化した寄生生物は産卵数を増加させる。生物の塩基置換は生殖細胞を作る際に起こるため、卵数の増加=塩基置換を持った子の数の増加ということになる。また、寄生虫は一般に体が小さいため、赤ちゃんから成熟するまでのスピード=次の子を残すまでのサイク ルも速くなるらしい。おそらくこのような理由から、塩基の置換が蓄積されるスピード=進化の速度が速まることになる。

そうなると、本来まったく関係のない分類群のはずなのに、配列の変化が大きいというだけで、このような進化速度の速い生物同士の系統と近いと判断される場合がある。進化速度が速いということは、比べる配列に塩基置換が多いということである。なぜなら分子系統解析では、塩基置換をシグナルと捉える。もし10種を比べる中で、(本来は系統的に遠い)2種だけ塩基置換が群を抜いて多い(=シグナルが多い)ものがあれば、その類似点によってこの2種が近くなってしまうのである。進化速度の速い遺伝子を持つ生物は系統樹上で枝が長くなるため、この現象は『長枝誘因』と呼ばれ、分子系統解析における一つの主要なエラーの例として知られている。
これらのエラーは、注意深く解析していけば克服可能である。たとえば、枝の長い種を除くのではなく、解析する種の数を増やしていくことによって配列の偏りのエラーが薄まるという研究 などが知られている

このような追求課題が残っています。分子系統学の長所を活用しなから、今までの知見(例えば形態学)も踏まえて総合的な判断が求められている気がします。有難う御座いました。

List    投稿者 hirosige | 2022-09-20 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

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