2022-05-14

【番外編】クロロフィルとヘモグロビンの関係②

前回の『クロロフィルとヘモグロビンの関係①』では「ヘモグロビンの構造とクロロフィルの構造はほとんど同じ」ということを述べてのですが、実際のところ、なぜ植物のクロロフィルと動物のヘモグロビンの分子構造がとてもよく似ているのかとても不思議です。

これらが同じ起源と考えるのが自然だと思うのですが、一体どのあたりで同じ起源で、どのあたりで分かれたのでしょうか?

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◆化学的な構成
「ヘモグロビン(血色素)」は、「ヘム」と呼ばれる色素部分(補欠分子族)「グロビン」と呼ばれるタンパク質部分で構成される色素タンパク質複合体に与えられた名称です(典型的にはヘテロ四量体構成(α2β2))。これに対し、「クロロフィル(葉緑素)」は、生体内では色素タンパク質複合体として存在して機能する複合体の色素部分に与えられた名称です。

この二つの色素タンパク質複合体のタンパク質の部分はお互いに全く異なっています(遺伝的に無関係)が、へモグロビンの色素部分であるヘムとクロロフィルの構造は類似しております。両者の構造骨格は、「ピロール」と呼ばれる窒素を含む単位構造が四個縮合してできる環状の有機化合物で、「ポルフィリン」と総称されています。

ポルフィリンは、Fe、Mgを始めとする多くの元素と安定な錯体を形成する傾向にあり、金属がFeである場合がヘム(Feポルフィリン)、Mgである場合がクロロフィル(Mgポルフィリン)と呼ばれます。

なお、化学化石の中にはバナジウムやニッケルを中心金属とするポルフィリン類が多量に含まれており、また、自然界ではマグネシウムの代わりに亜鉛を結合した(バクテリオ)クロロフィルをもつ光合成細菌が見つかることがあるようです。

 

◆クロロフィルとヘモグロビンの関連
クロロフィルが吸収する光エネルギーを利用する光合成反応の副産物として発生する酸素が、進化の後の段階で呼吸における電子受容体として活用されることとなり、時が経過して酸素呼吸の効率を高めるための補助過程としての酸素運搬をクロロフィルに類似する分子であるヘモグロビンが担うに至ったと言うストーリーには因縁の深さを感じさせるものがあります。

他方、生体内でのポルフィリン化合物の合成には葉緑体やミトコンドリアなどの細胞内小器官が関与し、一般にはヘムとクロロフィルの合成は途中の段階までは共通の経路を辿るとの事実があります。

それにも関わらず、クロロフィルとヘモグロビンの関連は、細胞内の比較的ありふれた分子である金属ポルフィリンの類が、それぞれの分子的特性によって、場合によっては光捕集や電荷分離に、場合によっては酸素の運搬に使われる結果に至ったものとして理解することが出来ます。

 

◆動物はブドウ糖だけを燃料にする生物マシーンではなく、光を採取するハイブリッド
科学界で信じられてきたのは「人間は完全にブドウ糖に依存しており、太陽光からエネルギー補給することはできない」という考え方です。

しかし生命それ自体の非常に高い知性と限りなく複雑なデザインを考えた時、太陽光のように豊富で手に入りやすいエネルギーを利用すべく進化してきたと考えるのが自然なことのように思えるのです。そのように進化する方が生存にも有利です。生命にとって生きることより大切な意義はありません(こう考えると、動物の命を奪う食事ではなく、植物を食するヴィーガンやジャイナ教徒の食事は理に適っていると思うのですが、いかがでしょうか)。

哲学者カール・ポパーが述べているように、「反証が可能な場合にのみ」その論理は科学と呼ぶことができます。実際、人間は従属栄養生物であるとする科学的論理は、「哺乳類も太陽光から直接エネルギーを抽出できる」という最近の経験的証拠により覆されたのです。

ここで、論文の要旨(アブストラクト)を一緒にみていくことにしましょう。

太陽光は地球という惑星において最も手に入りやすいエネルギー源であるにもかかわらず、太陽光をアデノシン三りん酸(ATP)という生物エネルギーに変換する能力は光合成生物の葉緑体(クロロフィルが含まれている)に限られているとされてきた。しかし、哺乳類のミトコンドリアにクロロフィルの代謝物が混合すると、採取した光からATPを合成することができることがわかった。

シノラブディシウ・エレガンス(線虫の一種)にクロロフィル代謝産物を与えて光に曝すとATP合成は増加し、同時に寿命も延びる。またマウスやラット、ブタといった哺乳類にクロロフィルを豊富に含むエサを与えたところ、体内に蓄積したクロロフィル代謝産物が光をエネルギーに変換する可能性を示唆した。

この結果から推測できるのは、クロロフィル分子はミトコンドリアにおけるATP合成という複雑なプロセスにおいてコエンザイムQ還元の触媒として作用し、その調節機能を担っていることだ。つまり植物の色素であるクロロフィルを利用して動物もまた太陽光から直接エネルギーを生成できることになる。

この研究が明らかにしたのは「哺乳類を含む動物の生命はクロロフィルやクロロフィル代謝物という”植物の血液”の持つ光を摂取する能力を利用することができ、ミトコンドリアによるATP生産は光によってエネルギーを与えられている」ことに他なりません。

参考サイト
日本植物生理学会「クロロフィルとヘモグロビンの起源について」
フルーツ・オブ・エデン「驚くべき発見:植物の「血液」が人体の細胞による太陽光エネルギー利用をサポート」

 

List    投稿者 m-yoriya | 2022-05-14 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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