2021-11-05

哺乳類の知能進化(番外編) ~アドレナリンとは何か?~

これまでのブログで「哺乳類の知能進化」について扱ってきました。その中で、脳の役割とは、

脳の役割は、外識機能(5感)で得たあらゆる外部情報を集約し、状況に応じた適切な判断を下して「行動」を起こすためにあります。つまり、脳は「情報を集約し行動する為」にあるのです。http://www.seibutsushi.net/blog/2021/10/7405.html#more

と定義しました。そして、行動を起こすためには「駆動物質(=情報伝達物質やホルモンのこと)」が必要で、知能進化との関連が深い脳の働き・役割を追求するために「駆動物質とはそもそも何なのか?」は知能進化を解明するための重要な追求テーマです。

※駆動物質について(http://bbs.kyoudoutai.net/blog/2021/10/9158.html http://bbs.kyoudoutai.net/blog/2021/10/9394.html

 

前回のブログでは、駆動物質のひとつで、快感物質で言われるエンドルフィンについて扱いました(http://www.seibutsushi.net/blog/2021/11/7432.html#more)。今回は、興奮・闘争系の駆動物質として知られる「アドレナリン」について扱っていきます。

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アドレナリンについて扱う上で、まず押さえたいのは「ノルアドレナリン」と「アドレナリン」の違い。ぞれぞれの役割と違いについて押えます。

以下引用https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=19672

■ノルアドレナリンとは

人間を含め動物について脳内で一番多く分泌されているのが、ノルアドレナリン。脳内だけでなく、交感神経からもアドレナリンとともに多く分泌されています。アミン系特有の毒性の強い色付き物質であり、全身を奮い立たせる覚醒物質(ホルモン、神経伝達物質)。「怒りのホルモン!」などと呼んでいる人もいるようです。ノルアドレナリンの多い人は怒りっぽい人というようです。

「ノルアドレナリン:A1神経からA7神経と末梢神経の交感神経で神経伝達物質としてはたらいている。A6神経は大脳、小脳、脊髄などすべての脳にくまなく伸びている最大の無髄神経で、その神経核は脳幹の橋のところにあって、青斑核といわれ人間の最大の活動源の一つ。A6神経は覚醒のほかに、学習、鎮痛、排尿、血液循環、ホルモン系の調節、体温維持など多くの機能に関係し、無意識に人間を活動させ、生活させている最重要な神経である。ノルアドレナリンはその強い覚醒力によって、人間の「意識」を維持する役割を担っている。ノルアドレナリンは人間生命の源泉となっている神経伝達物質。」(『脳がここまでわかってきた』大木幸介:光文社より抜粋)

ノルアドレナリン(NA)が「怒りのホルモン」と言われるのは、危機状況に遭遇した時の交感神経による戦いに備えた反応「毛細血管が収縮し、血液は活動しようとする脳の内部と骨格筋に集中して、顔面蒼白になる現象etc」を捉えて言われているのだと思います。また、脳の実験などで、特定の部位の電気刺激やNAの投与に対して威嚇反応を示す場合が多いためでしょう。

しかし、A6神経に代表されるように、脳内(もちろん脳幹から前頭葉にも伸びています)だけでなく体全体に広く分泌される神経伝達物質(ホルモン)です。NA作動系の神経はあらゆるところで他の神経系の興奮と抑制に関わっており、単純に「怒りのホルモン」とは片付けられないでしょう。が、「怒り」を危機突破と捉えれば、生物進化にとって極めて重要な闘争系に関わるホルモン物質であることは間違いないと思われます。

では、アドレナリンとはなんでしょうか?

以下引用https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=19673

■アドレナリンとは

アドレナリンと言えば、神経伝達物質としてではなく、高峰譲吉が初めて副腎から分泌される血圧上昇物質として、世界で最初に結晶化したことで有名な「ホルモン」ですが、もちろん神経伝達物質として脳内でも広く分泌されているようです。

「アドレナリン:A系神経の下部にあるC系神経の神経伝達物質として脳全体に分泌されている。驚いたときや恐いときに、多く分泌される。副腎の内部(髄質)から分泌されるホルモン。副腎髄質は全身を目覚めさせ、活動させ、戦闘させる交感神経の神経節である。神経節は腹の中の小さな脳ともいうべき存在であり、その命令を伝達するのがアドレナリン(20%ほどはノルアドレナリン)。正確にいえば、副腎髄質はその無髄神経部分が神経線維を失っている。つまり、先祖がえりして、元のホルモン分泌細胞に戻っているわけだ。従って副腎髄質から分泌されるアドレナリンは、一般のホルモンであり、神経と神経をつなぐシナプスではなく、血液中に分泌されている。血液中に分泌されたアドレナリンは、人間活動のエネルギー源であるブドウ糖の量を急増させ、全身を活動させる準備をする。」(『脳がここまでわかってきた』大木幸介:光文社より抜粋)

アドレナリンがアミン系では一番古い神経伝達物質であることは間違いありません。アドレナリンが多い人は、こわがりで、卑屈になる傾向があると言われる「恐怖のホルモン」。危機状況での人間の感情で言えば「恐れ」を感じる時に多く分泌される情動ホルモンのようです。ただ、ホヤなどでは変態に関わる重要なホルモンらしいという報告が最近なされています。変態とは体の基本システムを変えるわけですから、極めて覚醒力が強く「状況(おそらく劇的な)変化」に対応するためのホルモンということでしょう。ノルアドレナリンと同様に、闘争系に関わるホルモンであると思われます。

 

ノルアドレナリンとアドレナリン、共に闘争系(=怒りや恐怖)の駆動物質であるようですが、ノルアドレナリンは「意識」、アドレナリンは「身体(ホヤの変態など)」への関わりが強いようです。また、生成過程上は「アドレナリンはノルアドレナリンから作られる」のですが、ホルモン進化上は「アドレナリンが先」で「ノルアドレナリンが後」のため、アドレナリンがより基底的(始原的)であると言えそうです。

以下にヒントがありそうです(http://www.seibutsushi.net/blog/2020/10/6268.html

【ストレス経験の学習による違い】

人の脳には、過去に経験したストレスを記憶・学習する仕組みも備わっています。

何らかのストレスを受ける場合でも、過去の経験の有無によって、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌のされ方が変わります。これは人が『ストレスを学習する』ためです。

例えば、過去にそのストレスと同じようなストレスを経験したことがあり、脳が『このストレスには前回も対処できたから、今回も対処が可能だ』とか、『前回は失敗したけど、なぜ失敗したか原因はわかっているから、今回は前回よりもうまく対処出来るはず』と直感できるストレスの場合は、アドレナリンはあまり分泌されません。ただ、対処可能な場合でも、脳にとっては不快なストレスであることには変わりないので、ノルアドレナリンは依然として分泌されます。

【ストレスの学習は肉体の省エネ機能】

闘争か逃走』を司り、身体機能を向上させるアドレナリンが分泌されるということは、その分、体力の消耗が激しいため、脳としては不要なアドレナリンの分泌は出来るだけ避けたいわけです。

そこで、人が様々なストレスを経験する中で、ストレスを学習して順応していくことが出来るよう、ノルアドレナリンやドーパミンと言った物質が分泌されるときに、『物事を記憶して学習する』という作用を働かせることで、アドレナリンという最終兵器を出来るだけ使わなくても良いような仕組み(恒常性維持機構)になっているのです。

要は、アドレナリンが分泌されるような状況は、肉体が酷使されて疲れるのであまり頻発されるのが望ましくないため、アドレナリンの前駆体であるノルアドレナリンにはストレスを学習することで、肉体を省エネさせる働きがあると考えられるのです。

■まとめ

・アドレナリンもノルアドレナリンも「闘争系(=危機系)の駆動物質」。怒りや恐怖などの感情とそれに応じた行動を起こす。

・アドレナリンは血管や筋肉など、身体への作用が強く、ノルアドレナリンは怒りやイライラなど脳や感情への作用が強い

・ストレス(=不全や不整合)がかかった時に、身体機能を向上させるアドレナリンは、身体を酷使させるためできる限り使いたくない。アドレナリン分泌を抑止させる物質としてノルアドレナリンが出来た(のではないか)。

今回は以上です。次回も引き続き、駆動物質とは何か?の追求を進めていきます。

List    投稿者 t-kenta | 2021-11-05 | Posted in ④脳と適応No Comments » 

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