2021-09-12

「褒める教育」は本当に根拠があるのか?

「褒める」教育や子育てを推奨する教育学者は数多い。
しかし、「褒める教育」にはそれを支える普遍的根拠があるのであろうか?
哺乳類以降の動物たちにさかのぼって、検討してみた。

①哺乳類
哺乳類(オオカミやライオン)の母親と子どもの関係を見る限り、例えば子どもが何かができるようになった時に、母親が何か特別の鳴き声を発することや、体を舐めるなどの「褒め」を示す行動は見られない。まして「褒め」のために、子供にえさを与える行動も、見て取れない。
親の姿勢はあくまで見守りであり、余程危険なことでもしない限り、子どもの行動には関与しない。

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例えばライオンのメスは子供がある程度大きくなると狩りの訓練を始める。最初は母親が練習台になり、ライオンの子供は母親に飛びついて引き倒したり、首の周りをかむ真似をしたりするが、あくまで練習台になっているだけで、上手く出来たからと言って、特に「褒め」を示す行動を取ることはない。
また、犬の子供は生後何日か経つと、オスの子供同士ケンカ(じゃれ合い?)を始める。その間お互いに傷を負ったりすることもある。しかし母親は同じく「見守る」だけである。親が止めなくても、子供に犬歯の生え始める24日後には、同じようなケンカを続けていると致命傷になることを自ら自覚するらしく、子どもは自然とケンカを止めるようである。その後はいわゆるじゃれ合いになる。その間親はあくまで見守りに徹している。

恐らく哺乳類の子供には親の真似(模倣行動)をすること(そして真似ができるようになること)で自ら充足する回路が備わっていると思われる。
実際鳥には模倣すべき対象(例えば成鳥の鳴き声が聞こえると)が現れると、脳中枢より運動を制御する回路に向けてドーパミンを分泌し、成鳥の聴音が記憶され、模倣を促す仕組みが備わっているという報告がなされている。また哺乳類の模倣行動の脳回路上の仕組みは、未解明だが、人類には脳中枢から運動回路に向けてドーパミンが分泌されるという、鳥と類似した仕組みが存在する。
また、真似できた際に用いられる分泌物質は、同じく未解明だが、鳥の場合であれば成鳥の聴音が記憶されていることからして、同じように運動回路を制御できた時=自ら発した鳴き声が同じ聴音である時に類似物質が分泌されると推定される。
ドーパミンは充足系の物質である。つまり哺乳類(あるいは鳥類)の子供には真似すること、さらには、真似ができた時、その達成感によって自ら充足する回路が備わっており、ことさらに親の「褒め」は必要ないということらしい。
別の角度で言えば、哺乳類は成長に従がって親離れする本能が備わっており、仮に親の「褒め」などで充足する回路が主(たる活力源)となっていれば、むしろ親離れを阻害する致命的な問題をはらむ可能性さえある。

②類人猿
動物番組の子育ての映像などを見ていても、類人猿も同様で、特に「褒め」を示すような行動は見られない。しかし、子どもの行動がうまくいった時に親が「喜び」とも取れるような表情を見せることはある。類人猿には一般哺乳類と異なり、共認機能(相手の感情に同化する機能)を有している。従って、親の充足表情は、子どもはすでに自ら達成することによって充足を感じており、それに対して母親も反応=共鳴しているという事を現わしていると考えられる。つまり「褒め」によって子供に充足を与えることと、「喜び合う」こととは、一方的な評価か、喜びの共有かという点で、微妙にして決定的に異なると考えられる。感情の共有であれば対象は親との間だけでなく、仲間に対しても可能であり、より普遍性を持つ。

③人類の子供
子どもの遊びの中での充足感は、一体感、うまくいった=何かを達成できた時の充足(感の共有)が中心である。また子どもが何かしたときに、褒めてもあまり嬉しそうなな顔をしないという事例も多々見受けられる。後者は子ども自身は真似できた=達成目標のイメージがあり、それができていないことは自分でよくわかっているからだろう。

上記よりサル・人類の最大の充足は一体感の充足(感情の共有)であり、褒めることが活力になるという主張は、原理的に考えて、大きなずれをはらんでいる可能性がある。
動物において、褒める→ご褒美を与えるという行為は、人間が動物に芸を仕込むとき、或いは本能に反して思い通りにさせようとするときに、ほぼ限られるという事である。本能に沿ったものであれば、高等哺乳類であれば、達成すれば自ら充足する仕組みになっているはずで、褒めるという行為は管理(統制)特有の手法である可能性がある。
多くの教育学者が、褒める教育の根拠に、動物の求報奨性(報酬によるモチベーション)を挙げているが、それが大きな偏りを持つものであることは言うまでもない。

List    投稿者 kitamura | 2021-09-12 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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