2021-08-26

シナプスを介さない情報伝達場「細胞外電場」

これまで脳は、ニューロンのシナプスを介した配線によるコミュニケーションを中心に理解されてきたが、脳のすき間っである細胞外スペース(参照記事)に注目すると、多様な伝達様式があることが見えてきた。

ニューロンー0826

細胞外スペースを介した脳内駆動物質の拡散によるコミュニケーションや、細胞外スペースを満たす細胞間物質の流れが物質を運ぶ役割を担っている可能性が高まっているが、さらに。細胞外スペースを電気が伝わるワイヤレス伝送を行っている可能性も見えてきた。

電気的な活動が周囲に影響を及ぼす環境を「電場」といい、細部外スペースを介して影響を与える電場を「細胞外電場」と呼ぶ。神経突起(軸索と樹状突起)の一点に電気刺激が与えられると膜電位の変化が突起に沿って広がる。しかし、一般的な細胞膜の電気抵抗は完全な絶縁物ほどには高くなく、また神経突起は良導体である細胞外液中に存在するので、与えられた電気量は細胞膜を横切って細胞外に流れ出る。つまり、あるニューロンが自身が発生させた電場を形成し、細胞外電場を介して周囲の細胞に影響を与え、自分以外のニューロンの活動が集合電位として巡り巡って自分自身の活動に影響を与えることになる。

ラットの脳を使った実験だが、海馬に電気刺激を与えると、海馬の表層と深層で電気活動の山と谷が反転し、シータ波を作ることが確認されている。この領域のニューロンは縦に整列し、相互にシナプスで繋がってはいない。それにも係わらず、シータ波を作するは、ニューロン自身が発生する微弱な細胞外電場が近接するニューロンに影響を与えると考えられている。また、ニューロンは縦に整列している(束になっている)脳組織では振動する細胞外電場の振動に、対する感受性が高くなる可能性も考えられている。

細胞外スペースは、間質液で満たされ、間質液は、神経活動の結果生じる電気的な信号を伝える細胞間媒質として機能している。脳に刺した電極が記録しているのは、あくまでニューロン集団が発生し電気信号が、脳組織を通って細部外媒質を伝わったのである。脳の電気的な性質を正確に知ることは、脳の活動を理解する上で、必要不可欠と考えられる。

また、このように、細胞外電場が脳の機能に重要な役割を担っているとすると、身の回りの機械が発生する電磁波が作る電場が、脳に与える影響は、無視できないと思われる。特に、第五世代移動通信システム(G5)や、さらに高周波のテラヘルツが、脳に与える影響の図りしれず、まだ分かっていないことが多い現状では、飛びつくことは避けるべきだろう。

参考:ブルーバックス『脳を司る「脳」』毛内拡著

List    投稿者 seibutusi | 2021-08-26 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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