2020-07-16

サトウキビ搾りかすの化学分解により抗ウイルス物質を生産

緑茶以外にも、ウコン(ターメリック)、きのこ、たまねぎ、大豆、コメなどから、ニンニク、ブドウ、生姜など、一般的に体に良いと言われているものが多く、これらは、抗ウイルス作用も保持している食べ物のようです。リンク

緑茶を始め多くの植物(食用植物)には、抗ウイルス作用があるようです。

このような「植物の力」を活用した病原性ウイルス対策 の研究が進められています。

今回は、サトウキビ搾りかすから抗ウイルス物質を生産する方法 を開発した研究を紹介します。

京都大学の研究成果 より。

サトウキビ搾りかすの化学分解により抗ウイルス物質を生産
  ―ウイルスの感染対策やバイオマス利用に貢献―
京都大学生存圏研究所 木村智洋 博⼠課程学生(大学院農学研究科)と渡辺隆司 同教授は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所 藤田尚志 教授らと共同で、化学反応によりサトウキビの搾りかす(バガス)から抗ウイルス物質を生産することに、はじめて成功しました。

~中略~

1.背景

地球温暖化および人やモノの移動のグローバル化により、病原性ウイルスの蔓延が非常に深刻化しています。現在は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっており、病原性ウイルスのパンデミックが人類の生存を脅かす事態となっています。これまでに、2018 年の豚熱ウイルス、2010 年の⼝蹄疫ウイルス、2005 年の高病原性鳥インフルエンザウイルス、2002 年の SARS コロナウイルスなど、人や家畜に対する病原性ウイルスへの感染症対策が喫緊の課題となっています。

植物細胞壁成分であるリグノセルロースそのものは生理活性を持たないために、リグノセルロースを生理活性物質へと変換する研究例は非常に限られています。これまでに、化学反応のスクリーニングによりリグノセルロースから抗ウイルス物質を生産する方法を見出した報告例は無く、これが達成できれば、バイオマス利用の促進とウイルス感染症対策に同時に寄与する新技術となります。

また、植物バイオマスを石油に代わって利用する研究が現在盛んに⾏われていますが、普及にはバイオ燃料などの安価な生産物のみでなく高付加価値物を生産することが鍵となっています。植物バイオマスからの抗ウイルス物質の生産は、石油に依存した現代社会を植物バイオマスに根ざした持続可能な社会に転換する大きな原動力となると期待されます。

2.研究手法・成果

本研究では、製糖過程で排出されるサトウキビの搾りかす(バガス)を、酸またはアルカリを含む水溶液または水と有機溶媒の混合溶液と混合して、マイクロ波加熱を用いた化学反応を行い、分解物を抽出分画しました。そして、それぞれの画分の脳心筋炎ウイルス(EMCV)に対する増殖抑制活性を測定し、抗ウイルス物質の生産に適した反応系の探索を行いました。

その結果、バイオディーゼルの副産物でもあるグリセロールの酸性水溶液中の分解反応により、抗ウイルス活性が強く、かつ試験した条件では細胞毒性が検出されない物質の取得に成功しました。生産したこの抗ウイルス物質の構造解析により、リグニンが構造変換されることで抗ウイルス活性が発現することが明らかとなりました。この構造変換を受けたリグニンは、分子量が 2,000 程度と人や動物の細胞内に侵入するには分子サイズが大きいため、細胞毒性が極めて低いと思われます。また、このリグニンはウイルスと直接接触して作用することにより、抗ウイルス活性を発現します。

3.波及効果、今後の予定

植物細胞壁成分であるリグノセルロースから、化学反応のスクリーニングにより細胞毒性が非常に低い抗ウイルス物質を生産した報告例はありません。大量に存在する農産廃棄物などから安全で安価な抗ウイルス剤が生産されれば、抗ウイルス剤を動物畜舎などに散布することによりウイルスの蔓延を抑⽌することが可能となります。これは、家畜のウイルス感染症の防御になるのみではありません。

人の命を奪う多くの病原性ウイルスは、動物-動物、動物-人、人-人感染を通して広がるため、発生段階での動物間のウイルス感染を抑制することは、人の感染性ウイルス対策にとっても重要となります。現在、EMCV 以外のウイルスに対する増殖抑制活性の評価および作用機構の解明に取り組んでおり、⼀層大きな枠組みによる共同研究により実用化を目指しています。

~中略~

<用語解説>

サトウキビバガス :
製糖過程で排出されるサトウキビの搾りかす。最も大量に存在するリグノセルロース系農産廃棄物のひとつである。

リグノセルロース :
木材や草本など植物の細胞壁を構成するバイオマス。多糖類であるセルロース、ヘミセルロースと芳香族高分子であるリグニンからなる。

リグニン :
セルロースに次いで最も豊富に存在する有機資源。芳香族化成品の原料をはじめ、様々な利用用途の開発研究が⾏われているが、現在の利用の大半が燃焼利用に留まっている。

脳心筋炎ウイルス(EMCV) :
ピコルナウイルス科に属する。エンベロープを持たない RNA ウイルス。幅広い動物種に感染し、脳炎や心筋炎をはじめ様々な症状を引き起こす。現在、ピコルナウイルスに対して特異的に作用する医薬品は存在しない。

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  図1 地球温暖化抑制とウイルスの感染抑制に寄与するサトウキビの搾りかすからの抗ウイルス剤の生産
砂糖製造工程の副産物であるサトウキビ搾りかすから、高付加価値な生理活性物質を生産することにより植物の栽培を促進し、地球温暖化抑制に貢献。併せて、動物から始まるウイルス感染の連鎖抑制にも寄与すると期待される。

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 図2 サトウキビの搾りかすをマイクロ波反応で分解し、ウイルスと直接作用して増殖を抑制する物質を生産
植物細胞壁を固める成分リグニンの構造を化学反応により変化させることにより、抗ウイルス活性を賦与できることを発見。

(以上)

List    投稿者 seibutusi | 2020-07-16 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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