[性の進化史] 「性」はなぜ存在するのか? 1~無性生殖と有性生殖
ヒトを含め、有性生殖をおこなう動物のほとんどは、男と女、雄と雌という二つの性を持っています。そして、雄の精巣で作られる精子と雌の卵巣で作られる卵子によって、次世代の子孫に自分たちの遺伝子が受け継がれていきます。では、そもそもなぜ「性」は存在するのでしょうか。今回は、無性生殖と有性生殖という2つの生殖方法から、「性」について考えてみます。
■無性生殖と有性生殖
ヒトや、犬、猫などを見る限り、雄と雌という二つの性があり、それらが作りだす精子と卵子が受精することによって子孫が生みだされます。このように、性と繁殖は密接に結びついたものですが、だからといって異なる性が存在することが繁殖に必要不可欠かというとそんなことはありません。また、発生や成長など、生物が生きていく上でも性は必ずしも必要ありません。そう考えると「性」は、およそ40億年前に生命が誕生した後に新たに出現したものと言えます。
生物が子孫を作りだす様式としては、「無性生殖」と「有性生殖」と呼ばれる二つの様式があります。文字通り無性生殖によって繁殖する生物に性はなく、細胞分裂で自分の分身であるクローンを作りだすことによって、自分の遺伝子を後代に伝えていきます。最初の「原核生物」は約8億年前に誕生したと考えられています。
原核生物とは、生物進化の初期に出現した、核膜でおおわれた核を持たない細胞からなる原始的な生物です。原核生物には性はなく、すべて無性生殖によって増殖します。 その後、大きく遅れて約3億年前に誕生した「真核生物」は、核膜で囲まれた核と細胞小器官を持つ細胞からなり、動物、植物、菌類、原生生物などがこれに属しています。真核生物のゲノムDNAはむき出しではなく染色体の中に収納され、細胞分裂によって新たにできた「娘細胞」(一つの親細胞から作られたまったく同じ二つの細胞)に、そして、有性生殖によって配偶子を介して次の世代に受け継がれていきます。
■酵母の生命サイクル ビールの醸造に使うビール酵母やパンを作るのに使うパン酵母は、真核生物で、菌界子嚢菌門の単細胞生物ですが、染色体を持つ真核生物です。カビなどと同じ子嚢菌門でですが菌糸はありません。このカビの一種は、無性生殖と有性生殖の両方で自らを増殖させます。
無性生殖の世代では、「出芽」という方法で増殖することから、「出芽酵母」と呼ばれています。細胞の一部分に芽のような膨らみができ、成長した後にそれが切り離されることによって娘細胞が作りだされます。一方、「分裂酵母」と呼ばれる別の仲間は、細胞が真二つに分裂して増殖します。 これらの酵母は、栄養が十分にある時は、単に細胞分裂だけで増殖できる無性生殖によって増殖しますが、栄養の不足などによって生育環境が悪化すると、有性生殖をおこないます。
※画像はコチラからお借りしました
酵母にも接合型という「a細胞」と「α細胞」という異なる2種類の性があり、栄養分が枯渇するとフェロモンによって相手を区別し接合が起こります。接合すると、細胞が融合して2倍体(2n)の細胞になります。2倍体の細胞は、栄養条件が良いときは出芽して増殖しますが、栄養条件が悪くなると互いの遺伝子を混ぜ合わせて(組換えと減数分裂)、新しい遺伝子の組み合わせを持つ1倍体の「胞子」という配偶子をつくります。
■無性生殖と有性生殖の違いと特長
有性生殖は、酵母などの微生物からヒトに至るまで、性を持つ全ての生物において、子孫を残し、種を存続させる上では重要な手段ですが、生物全般を見渡すと無性生殖による繁殖法が多数派であり、人類のように雌雄が決まっていて有性生殖以外に繁殖方法を持たないタイプは一部に過ぎません。また、酵母など真核細胞生物や植物の多くは、無性生殖と有性生殖を使い分けます。
[有性生殖と無性生殖の比較]
有性生殖 | 無性生殖 | |
増殖の能率 | 能率が悪い ×・雄と雌が出会わないと子をつくれない。 ・卵(卵細胞)や精子(精細胞)などの生殖細胞をつくる必要がある。 | 能率がよい ○ ・1個体で子をつくれる。 ・体の一部が分離して子ができるので、わざわざ生殖胞をつくる必要がない。 |
遺伝子の構成 | 新個体の遺伝子は、両親のものを半分ずつ受けつぐので、いろいろな組み合わせができる。親や兄弟と同じではない。 | 新個体の遺伝子は親とまったく同じ。 |
形質 | 新個体の形質はさまざま。親や兄弟とすべての形質が同じになるわけではない。 | 新個体の形質は親とまったく同じ。 |
様々な環境に 対する適応力 | 適応力が大きい ○ ・個体により少しずつ形質が違うので、様々な環境に適応していくことができる。 | 適応力が小さい × ・すべての個体の形質がまったく同じなので、生育環境が変化すると全滅するおそれがある。 |
このように有性生殖と無性生殖どちらも有利な面と不利な面があり、一概にどちらがすぐれているとはいえません。
では、なぜ私たちヒトを初め多くの動物は、有性生殖以外に繁殖方法を持たないのでしょうか? 次回、「雄雌の役割分化」という切り口から、この点を考えてみます。 参考:松田洋一著「性の進化史」
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