多細胞生物の進化:「遺伝子」依存から「遺伝子機能発現システム」の多様化へ
ゲノムの塩基配列の解析が進み、50年ほど前に、DNAのATGC並び方(塩基配列)が、アミノ酸の並び方を決め、こうして細胞に必要なタンパク質が作られれることが分かり、そのようなはたらきをすることからDNAを遺伝子と呼んだ。
当時、DNAの全てであるゲノムを解析したら、そのほとんどは遺伝子として見えてくるだろう、その遺伝子のはたらき調べれば生き物のことがよく分かるに違いない、と研究者は期待した。
ところが、思いがけない事実が見えてきた。
大腸菌、酵母、ヒトのゲノム解析により分かった「ゲノム中に占める遺伝子領域の比率」を比較すると、
ゲノムサイズ | タンパク質コード遺伝子 | |
大腸菌 | 4.6Mb | 84% |
酵母菌 | 12.0Mb | 75% |
ヒト | 3000Mb | 1.5% |
※タンパク質コード遺伝=「遺伝子」と考えてきた部分
【大腸菌(原核単細胞)】
・ゲノムのほとんどが「遺伝子」
【酵母(真核単細胞)】
・ 「遺伝子」の部分が少し減るが、大半は遺伝子。
【ヒト】
・ 「遺伝子」、つまりタンパク質の構造を決める部分が全体の1.5%。そのたらきを調整する部分が全体の44%。
・残り、全体の50%以上が、まだはたらきがわからない遺伝子ではない部分。
タンパク質をつくるといっても、ヒトのような多細胞生物ではとくに、それをいつ、どこで、どれだけつくるかが大切であり、その調整がとてもの重要となる。細胞の分化には、遺伝子の働きを調整するところ、その他まだ働きが分かっていない部分が関与しているだろうと想像できる。恐らく、「エピジェネティクス(世代を超えて情報を伝える仕組み)(リンク)」なはたらきを制御する部分も含んでいるのだろう。
多細胞生物は、「遺伝子」だけに依存するシステムから、「遺伝子機能発現システム」を多様化させ、より環境変化への適応力を高める方向で進化してきたのではないだろうか。
(以上、中村桂子著「絵巻とマンダラで解く生命誌」を参考に作成)
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