2014-12-02

常在菌がとりもつ母子の世界 ~常在菌の親から子への継承~

常在菌

 

突然ですが、体重約700kgの牛は、一日どれくらいの牧草を食べていると思いますか?

 

正解は、青草で約50~60kg!

 

牛の胃袋に棲んでいる微生物の中には、セルロースを分解する酵素(セルラーゼ)を持つものがいて、牛が食べた草やデンプンを発酵分解して揮発性脂肪酸(VFA)を作ります。これが胃袋から吸収され、血液を介して牛のそれぞれの組織に送られてエネルギーとして利用されます。牛のエネルギー要求量の60~70%をVFAが賄っていると考えられています。つまり、腸内細菌がいるから、牛は700kgもの身体を作り出すことが出来ているのです。

人も腸内細菌等の常在菌が不可欠という点では同じです。もっというと人類ほど常在菌と共存している種はいないかもしれません。何故ならば、草食動物は肉が消化できず、逆に肉食動物は草を消化することができませんが、人類は草も肉も果物も木の実も根っこも・・果ては、一般動物は決して食べない骨髄までも食べます。雑食ということですね。何でも食べられるということは、言い換えればそれだけ常在菌の種類が豊富であることを物語っています。

DNA変異(分解酵素の変異)よりも、常在菌の獲得による方が遥かに食性の領域≒適応の可能性は広がります。人類の場合は、人類史99.9%が極限的な餓えの時代です。極限的な餓えに適応するために一般生物なら手も出さないような食性を獲得する必要があり、この時代に今の私たちに繋がる常在菌の体系はほぼ出来上がったのだと思います。

この常在菌から見た母子の世界を暫く記事にしていきたいと思います。

第一回は【常在菌の親から子への継承】です。

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常在菌との共生は、極限時代を生き抜くための適応戦略であるゆえに、『親から子への継承』は胎児にとって何より重要です。これまで胎児は無菌状態であると考えられていましたが、既に胎盤にも細菌が存在し胎児の段階から常在菌が継承されていることが明らかになってきています。

 

■胎盤は無菌ではなかった。 早産にも胎盤細菌が関与か
健康ニュースより引用

胎児
(2014年5月) 胎盤はこれまで無菌である(胎児が無菌状態で育つ)と考えられていましたが、”Science Translational Medicine” 誌に掲載された米国の研究によると、健康な妊婦の胎盤にも多様な細菌からなる小さなコミュニティーが存在します。

胎盤に存在する細菌の大部分は人体に普通に存在する善玉菌で、胎盤の細菌の有無が早産のリスクに関与している可能性もあります。

赤ちゃんが生まれるときに母親の細菌が赤ちゃんに移りますが、普通分娩で生まれた赤ちゃんと帝王切開で生まれた赤ちゃんとでは細菌の種類が異なることが知られています。

これまでの研究でも母親から赤ちゃんへの細菌の移動が体内で既に始まっている可能性は示唆されていましたが、それでも胎内は無菌であると考えられてきました。

■帝王切開で生まれた子供は腸内細菌が不足し、免疫系の発達に支障をきたす

生後の赤ちゃんの腸内に住む細菌は、分娩時に赤ちゃんが母親の産道を通ったときに赤ちゃんに移動するのだと従来考えられてきましたが、研究グループの以前の研究によると、膣に住む最も一般的な細菌ですら、新生児の最初期の腸から見つかる細菌と合致していません。 そこで「赤ちゃんの腸内細菌はどこからやってくるのか」という疑問が生じたのです。

今回の研究では、細菌の DNA を調べる技術を用いて320の胎盤サンプルを分析し、胎盤に存在する細菌の種類と量を調べました。

胎盤に住む細菌の数は人体の他の場所に比べて少なく、住んでいる細菌もヒトの腸に普通に見られる E. coli などでしたが、驚いたことに胎盤の細菌叢に最も良く似ているのは口腔の細菌叢でした。

このことから、母親の体において、口の中に住む細菌が血流中に入り込み、それが胎盤にまでたどり着くのではないかと思われます。

■歯周病の妊婦では早産や低体重児のリスクが増加

研究者によると、胎盤に住む細菌は種類によって様々に異なる作用があるようです。 例えば、栄養分の代謝(栄養を胎児が吸収できるような形に変えているということでしょうか)を行う細菌や、イースト菌(胎児にとって有害?)や寄生虫に対する毒性がある細菌早産の抑制などです。

早産だった妊婦から採取された89の胎盤では、有益だと思われる細菌のうち数種類が顕著に少なくなっていました。

上記のように、常在菌が親から子へと確実に伝承されることをもって、適切な出産が促されるという見方もできます。私たちの生体は、常在菌のバランスや働きによってコントロールされているといえるでしょう。

次回は、常在菌から見る母乳の神秘を紹介したいと思います。

List    投稿者 seibutusi | 2014-12-02 | Posted in ⑩微生物の世界No Comments » 

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