2014-02-11

生命とは動的平衡にある流れである2 タンパク質のかたちの相補性と生命の可変性

前回の『生命とは動的平衡にある流れである1 動的平衡とは何か?』では、
生命とは動的平衡にある流れである。生命を構成するタンパク質は作られる際から壊される。それは、生命がエントロピー増大の法則に抗して、秩序を維持するための唯一の方法であった。」と紹介しました。
では、なぜ生命は、絶え間なく秩序を壊されながらも、秩序を維持することができるのか?
今日は、その答え=タンパク質のかたちが体現している相補性、及びそれがもたらす生命の可変性について紹介します。
※注:相補性=特異的対合(対となって結合すること)の関係。
(福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』(2007年)より)
(下図はさまざまなタンパク質の立体構造。こちらよりお借りしました。)
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タンパク質のかたち
生命の内部にはおよそ二万数千種類のタンパク質があり、それぞれ固有のかたちがある。
タンパク質はアミノ酸を数珠玉のように連結して作られるが、数珠玉(アミノ酸)の数は数十から数百、場合によっては数千のものさえある。
アミノ酸は二十種存在する。小さなアミノ酸から大きなアミノ酸、プラスの電荷を持つアミノ酸とマイナスの電荷を持つアミノ酸、水に溶けやすいアミノ酸と水に溶けにくいアミノ酸。二十種類のアミノ酸はそれぞれその化学的性質を少しずつ異にする。
アミノ酸が二つ連結しただけでも、その結果できうる順列の可能性は20×20で四百通りもある。アミノ酸が数百個連なってできるあるひとつのタンパク質は、天文学的な順列組み合わせの可能性から選抜されてできたものである。
すべてのアミノ酸はまさに数珠玉のように一本の鎖としてつながっているが、鎖はありとあらゆるせめぎあいの結果、最もバランスのよいかたち、つまりそのタンパク質にとって熱力学的に最も安定した構造に落ち着くことになる。
こうして、あるタンパク質のアミノ酸結合順序が決まれば、タンパク質のかたち、すなわちその構造が一義的に決まる。構造が決まるということは、タンパク質の表面の微細な凹凸がすべて定まるということである。
張り巡らされた相補性
あるタンパク質には必ずそれと相互作用するタンパク質が存在する。二つのタンパク質は互いにその表面の微細な凹凸を組み合わせて寄り添う。ジグソーパズルのピースのように、その結合は特異的である。しかし、特異性を担う要素は、ジグソーパズルよりずっと複雑で多様である。
特別なアミノ酸配列が作り出す立体構造の起伏と、プラスとマイナス電荷の結合、親水性と親水性、疎水性と疎水性など似たもの同士の親和性など化学的な諸条件を総和した相補性である。
%E3%83%AA%E3%83%9C%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A0.gif例えば、筋肉の構成単位は、アクチンとミオシンと呼ばれるタンパク質が組み合わさった相補的な構造である。そこにさまざまな別の制御タンパク質が参画して機械的な運動を生み出す。
メッセンジャーRNAの配列をアミノ酸配列に交換するリボソームは、数十種のタンパク質複合体である。(右図はこちらよりお借りしました。)
細胞内タンパク質分解を担うプロテアソーム、タンパク質の細胞膜通過を制御するトランスコロンなども巨大な分子装置である。
これらはすべてタンパク質-タンパク質の相補的結合から組み上げられている
相補的な相互作用を決定する領域は、ひとつのタンパク質に複数存在しうる。だからひとつのタンパク質に複数のタンパク質が接近し、結合する。さらにその相補性は三次元的に広がり、身体のあらゆる場所に張り巡らされることになる
くっついたり離れたり
冒頭の問いに対する答えは、以上のような、タンパク質のかたちが体現している相補性にある。生命は、その内部に張り巡らされたかたちの相補性によって支えられており、その相補性によって、絶え間のない流れの中で動的な平衡を保ちえているのである。
ジグソーパズルのピースは次々と捨てられる。それはパズルのあらゆる場所で起こるけれど、それはパズル全体から見ればごく微細な一部に過ぎない。だから全体の絵柄が大きく変化することはない。
そして新しいピースもまた次々と作り出される。重要なことは、新しく作られたピースは自らのかたちが規定する相補性によって、自分の納まるべき位置をあらかじめ決定されているという事実である。
ピースはランダムな熱運動を繰り返し、欠落したピースの穴と自らの相性を試しているうちに、納まるべき場所に納まる。こうして不断の分解と合成に晒されながらも、パズルは全体として平衡を保つことが可能となる。
以上のように、ジグソーパズルモデルもしくはそのアナロジーは、生命のありようを記述するのに極めて有効だが、実際の生命現象の「柔らかさ」と「複雑さ」とからはいささか離れるきらいもある。そこで、以下、注意を喚起しておきたい。

和田郁夫・福島県立医科大学教授は、特別な顕微鏡と蛍光標識を使って、一分子のタンパク質が一分子のパートナータンパク質と相補的な結合を行う様子を観察した。
一方のタンパク質はある焦点深度の位置に固定されており、他方のパートナータンパク質には蛍光を発する標識が付加されており、このタンパク質が固定されたタンパク質と結合を果たすと、その瞬間、顕微鏡のCCDカメラは顕微鏡の焦点深度の範囲に入った蛍光を検出することができる。
和田教授はこのような方法で二つのタンパク質が相補的な結合を行う瞬間に立ち会うことに成功した。しかし、きわめて不思議なことに、蛍光はしばしば規則的な明滅を繰り返していたのである。つまり、固定されたタンパク質に対して、もう一つの蛍光標識タンパク質は、くっついたり離れたりを定期的に繰り返しているのだ。

相補性はしばしばこのように微弱で、ランダムな熱運動との間に、危ういバランスをとっているに過ぎない。パズルのピースはぴったりとは合うものの、がっしりとは結合せず、かすかな口づけを繰り返す。相補性は「振動」しているのだ。この点がジグソーパズルの固定的なイメージとは異なる。
生命の可変性
「柔らかな」相補性、つまり弱い相互作用を示すタンパク質が、ついたり離れたりして成立する相補性にはどのような特性があるのだろうか。それは外界(環境)の変化に応答して自らを変えられるという生命の特徴、つまり可変性柔軟性を担保するメカニズムになりうる点にある。
ついたり離れたりして平衡状態を保っている系では、例えば何らかの環境変化に伴って一方のタンパク質の量が増減した場合の変化を鋭敏に捉えることが可能となる。
もし、そのタンパク質がより多く動員されたり損傷して失われるのであれば、それをバックアップするような増産命令が発せられなければならない。逆に、そのタンパク質があまるようであれば、生産は一時的に抑制されなければならない。
環境変化に対する生命の適応と内的恒常性の維持は、すべてこのようなフィードバックループによって実現される。柔よく剛を制す。まさに「柔らかな」相補性生命の可変性を担っているのである。

List    投稿者 okamoto | 2014-02-11 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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