2013-12-31

生命とは動的平衡にある流れである1 動的平衡とは何か?

生命とは動的平衡にある流れである。
今日はこのことを最初に示したルドルフ・シェーンハイマーの実験を通して「動的平衡とは何か?」を紹介します。福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』(2007年)より。
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生命とは何か?」それは自己複製を行うシステムである。20世紀の生命科学が到達したひとつの答えがこれだった。
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以後、DNAの構造が次々と解明されていき、分子生物学時代の幕が切って落とされた。
1980年代に入ると、DNA自体をいわば極小の外科手術によって切り貼りして情報を書き換える方法「遺伝子操作技術」が誕生し、分子生物学の黄金期が到来した。
分子生物学的な生命観に立つと、生命体とはミクロなパーツからなる精巧なプラモデル、すなわち分子機械に過ぎないといえる。デカルトが考えた機械的生命感の究極的な姿である。
しかし、生命のあり方には、パーツが張り合わされて作られるプラモデルのようなアナロジーでは説明不可能な重要な特性、何か別のダイナミズムが存在している。私たちが生物と無生物とを識別できるのは、そのダイナミズムを感得しているからではないだろうか。では、その“動的なもの”とは一体なんだろうか。
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動的平衡とは何か
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普通の餌で育てられた実験用の成熟ネズミに3日間、重窒素(窒素の同位体)で標識されたロイシンというアミノ酸を含む餌が与えられた。
成熟ネズミはそれ以上大きくなる必要はないので、餌は生命維持のためのエネルギー源となって燃やされ、重窒素はすべて尿中に出現すると予想されたが、結果は鮮やかに裏切っていた。
尿および糞中に排泄されたのは投与量の29.6%だけで、重窒素の半分以上の56.5%が身体を構成するタンパク質の中に取り込まれていた。取り込み場所は、あらゆる部位に分散されていたが、特に取り込み率が高いのは腸壁、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器、血清(血液中のタンパク質)であった。
(下の実験のイメージ図はこちらからお借りしました。)
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さらに重要なことは、体重が増加していないことで、新たに作り出されたタンパク質と同じ量のタンパク質が恐ろしく速い速度で、バラバラのアミノ酸に分解され、そして体外に捨て去られているということ。
外から来た重窒素アミノ酸は分解されつつ再構成されて、ネズミの身体の中をまさにくまなく通り過ぎていっているのである。ここにあるのは、流れそのものでしかない。
入れ替わっているのはタンパク質だけではない。貯蔵物と考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな「流れ」の中にあった。水素の同位体(重水素)を用いて調べた。
それまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると見なされていた。大量の仕入れがあったときはそこに蓄え、不足すれば搬出する、と。同位体実験の結果はまったく異なっていた。
貯蔵庫の外で、需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の在庫品は運び出され、一方で新しい品物を運び入れる。脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入替ながら、見かけ上、ためている風をよそおっているのだ。
シェーンハイマーは、この自らの実験をもとに「身体構成成分の動的な状態」と呼び、こう述べている。

生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。

新しい生命観誕生の瞬間だった。
現在、私たちは、脳細胞のDNAでさえも不磨の大典でないことを知っている。脳細胞は発生時に形成されると一生の間、わずかな例外を除き、分裂も増殖もしないとされている。つまりここにはDNAの自己複製の機会はない。ならば脳細胞のDNAはまったく不変で、一生の間、同一の原子で構成されたまま不動なのだろうか。そうではない。
脳細胞のDNAを構成する原子は、むしろ増殖する細胞のDNAよりも高い頻度で、常に部分的な分解と修復がなされている
秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。
エントロピー増大の法則は容赦なく生体を構成する成分にも降りかかる。高分子は酸化され分断される。集合体は離散し、反応は乱れる。タンパク質は損傷をうけ変性する。
しかし、もし、やがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、このような乱雑さが蓄積する速度よりも早く、常に再構築を行うことができれば、結果的にはその仕組みは、増大するエントロピーを系の外部に捨てていることになる。
つまり、エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システム自体を流れの中に置くことなのである。流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。
シェーンハイマーの「動的な状態」という概念をさらに拡張して、動的平衡という言葉を導入すると、生命は次のように再定義される。
生命とは動的平衡にある流れである
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如何でしたか。このような生命の捉え方は新鮮ですね。
では次回は、絶え間なく壊される秩序はどのようにしてその秩序を維持しうるのか、について見たいと思います。

List    投稿者 okamoto | 2013-12-31 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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