2013-06-15

言葉の不思議2:ヒトとチンパンジーのお母さんはこんなに違う!

赤ちゃんの無意識の発声はお母さんにとっても大きな喜び・・・
    母子間の“共感”“充足”があるから言語機能は発達する!

ずいぶん間があいてしまいましたが、今日は『言葉の不思議シリーズ』の第2弾として、ヒトとチンパンジーの母親が新生児に接するときに何が同じで何が違うのかをレポートします。
前回の投稿はコチラをご覧ください。
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ヒトとチンパンジーは地球上で最も近縁な生物ですが、チンパンジーの赤ちゃんもヒトの赤ちゃんと同じぐらい未熟な状態で生まれてきます。身体能力も決して高いわけではなく、自分自身の身体を支えたり移動できるようになるまでには一定の期間を要します。チンパンジーの赤ちゃんは生まれてすぐ母親の毛を握って自力で母親にしがみつくので、握力はしっかり発達して生まれてくるという俗説もありますが、事実はヒトの赤ちゃんの握力と大差はないそうです。
また、チンパンジーの赤ちゃんにも「新生児微笑」ははっきりと現れますが、最近では「新生児模倣」という現象も(ヒトの赤ちゃんと同様に)現れることが京都大学などの研究で明らかにされました。この「新生児模倣」は長い間ヒトの赤ちゃんに特有の現象だと言われてきたのですが、チンパンジーの赤ちゃんもモデルの表情に対応して、舌を突き出したり、口を開けたりするのです。チンパンジーの赤ちゃんも母と子の対面コミュニケーションの基礎となるような力を持って生まれてくるのです。

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ヒトとチンパンジーの赤ちゃんはこんなに似ているのですが、お母さんの方はどうでしょうか?
こちらは似ているところよりも異なる点の方が目につきます。

↓↓↓の写真を見てください
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チンパンジーのお母さんは子供の周辺に危険がないかどうか常に注意をはらっています。しかし、子どもが何を見ていて、何に興味があるかについては、あまり関心はないようです。チンパンジーの子育ては新生児が相手でも万事がこんな感じで、赤ちゃんが注視しているものに目を向けることはあまりありません。したがって、チンパンジーのお母さんは、子どもに何かを渡してあげることも、食べ物を分け与えることもほとんど無いのです。母親が何かを食べていると子どものほうは熱心に欲しがりますが、チンパンジーのお母さんは意に介しません。
ところが、このヒトのお母さんはどうでしょうか?
この点は以下の実験が雄弁にヒトの母親の意識を伝えてくれます。

その実験とは「1分間は絶対に赤ちゃんの方に何も反応しないでください」という条件で、赤ちゃんと対峙してもらうというものです。赤ちゃんの方は1分間じっとしていてはくれません。声を出して要求し、泣き叫び、お母さんに向かってしっかりと期待を表現します。お母さんはそれを避けるのがとてもつらい・・・、その様子が実によくわかりました。ヒトのお母さんは、常に「どうぞ」という形で、子どもに食べ物やおもちゃを渡し続けます。そしてヒトの赤ちゃんは、生まれたその直後から、それを日々受け取り続けます。そうして与えられていく中で、ヒトの子どもは、自分自身が期待すれば母親はそれに応えてくれるのだ、さらには、母親の期待に自分が応えると相手も喜んでくれるのだ・・・ということを悟りながら育っていきます。

                    
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この赤ちゃんは何かを見て嬉しそうにしています。お母さんも赤ちゃんが興味をもった対象を理解し、いっしょに笑顔をうかべています。お母さんはほとんど無意識に赤ちゃんの思いや注意を共有し、すぐに子どもの気持ちを汲んだ行動をするのです。ところが、このような行動や態度はチンパンジーのお母さんには見られません。赤ちゃんが関心を持ったものが何かという意識そのものさえ無いのです。

ヒトの赤ちゃんもチンパンジーの赤ちゃんも生後2~3ヶ月で母親以外の同類や身の廻りのモノに関心を寄せるようになりますが、乳幼児のそれらの行動に対する反応は、ヒトとチンパンジーの母親では180度異なります。ヒトのお母さんは赤ちゃんが新しい対象に関心を持ち始めたことを自分のことのように喜び、赤ちゃんと一緒になってその充足感を満喫するのです。

これは、母親だけが対象世界だった新生児にとって、母親以外の同類を認識できるようになり、さらにモノ=自然対象にも関心が広がっていくという当り前の成長過程の中で、自分自身が次々と新しい世界を獲得していくことが、母親の充足に繋がることを学んでいくことも意味します。育児書などには生後4ヶ月を過ぎた赤ちゃんは『喃語』をよく発するようになると書かれていますが、実際には2ヶ月ぐらいから母音を中心にした発声が始まります。何かをじっと見詰めては嬉しそうに「あー」「うー」などの『喃語』が赤ちゃんの口から出てくるのを見ると、思わずお母さんも赤ちゃんに「そうー、面白かったの~♪」「あれは○○○よ♪」などと語り返しています。これが音声・表情・体感すべて使ったヒトに固有の充足空間を形成しているようです。

冒頭に書いた『~チンパンジーの赤ちゃんも母と子の対面コミュニケーションの基礎となるような力を持って生まれてくる~』というのが事実ならば、ヒトの赤ちゃんの言葉獲得の過程を支えているのは、明らかに充足を共有しようという大人側の態度(あるいは機能)です。そして、この充足感がモーター役になって、新生児だけではなく大人になってからもヒトの対象世界は飛躍的に拡大して行くのです。

よく『発生系統は進化系統を踏襲する』と言われます。母子間の“共感付き”“充足付き”の成長過程は、少なくとも300万年は要したであろうと推測されるヒトの言語機能の獲得のステップそのものだったと思われます。日頃お世話になっている『るいネット』では『万物の背後に宿った精霊見た・・・これが言葉である』、あるいは、『自然との対話を“共認回路”を駆使して試みた結果、無意識に出てきた音声が言葉ある』という認識が提起されています。それらも参考にしながら整理してみると・・・
                    
【1】誰かが自然界のある事象に注目し、そこから捉えた感情を音声で表現しようとした
                    
【2】この行為に周りも同調し、皆で共感を育んだ
                    
【3】これらの営みを営々とくり返す中で皆の充足が高まっていき、結果的に事象や存在物に対応した音声がその事物の名前(≒名詞)として定着していった
                    
【4】名詞の組み合わせのバリエーションがどんどん増えていく中で文法が確立していった

                                    
・・・こんな流れが言語機能の進化シナリオだったのではないでしょうか。

だとすれば、チンパンジーには無い言葉をヒトが獲得できたのは、DNAの違いと言うよりも、生まれてから死ぬまで一貫として集団内での充足や共感を大切にする(あるいはそれだけを唯一の生きがいとする)という集団生活様式にあったように思われます。言うまでもなく、言葉は人類進化の最基底を成しています。あるいは、言葉の獲得がその後のヒトのDNAの組み換えに何がしかの影響を及ぼした可能性さえ考えられるのです。

List    投稿者 staff | 2013-06-15 | Posted in ④脳と適応No Comments » 

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