2013-03-08

太陽系を探検しよう-31.光合成とはなにか(1)光合成の始まり

地球生命の起源シリーズに続いて(前回はこちら)、生命の誕生に次ぐ、生物史上最も劇的な進化である「光合成」を見たいと思います。
約38億年前の生命が誕生した頃の地球大気にはほとんど酸素が含まれていなかったと考えられていますが、約27億年前、非酸素発生型光合成生物(光合成細菌)から、水を分解して酸素を発生する酸素発生型光合成生物(シアノバクテリア)が進化し、地球大気を酸化型大気に変えていきました。
今日は第1回として、光合成の始まりを見ます。
%E5%85%89%E5%90%88%E6%88%90%E7%B4%B0%E8%8F%8C.jpg  %E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%83%BC.jpg
左図は光合成細菌(こちらから)、右図はシアノバクテリアのコロニー(こちらから)。
応援、よろしくー

 にほんブログ村 科学ブログへ



1 光合成が先か、呼吸が先か
★まず最初に、私たち動物が行っている呼吸(酸素呼吸)と、植物が行っている光合成は、どちらが先に進化したか?を見ましょう。
酸素は光合成によって生じ、二酸化炭素はかなり高濃度含まれていたが、時代が下るに従って減少してきた(太陽系を探検しよう―9.地球の大気はどのようにしてできたか?参照)ことから、最初に光合成をする生物が出現して二酸化炭素を酸素に変え、次いでその酸素を利用する呼吸が進化したと考えると、辻褄が合いそうに思われます。
ところが、様々な生物の中での光合成と呼吸の分布を考えると、どうも呼吸の起源の方が古そうなのです。
(下図はこちらからお借りしました。)
%E5%A4%A7%E6%B0%97%E4%B8%AD%E9%85%B8%E7%B4%A0%E6%BF%83%E5%BA%A6%E3%81%AE%E5%A4%89%E9%81%B7.jpg
今地球上に現存する生物における光合成と呼吸の分布を調べると、動物は光合成をしないが、呼吸をする。一方、植物は光合成も呼吸もする。このように、呼吸は動物・植物共通で、光合成は植物だけに見られるのは、動物と植物の共通の祖先で呼吸が出現し、その後、植物が動物から分かれてから光合成が出現したからだと見るのが自然です。
とすれば、呼吸が先、光合成はその後に進化したことになります。
また、現在の進化系統学では、生物を、古細菌、真正細菌、真核生物の3つのグループに分けますが、呼吸は3つのグループ全てで見られるのに対し、光合成をする生物は、真正細菌と真核生物には見られるが、古細菌では見つかっていません。
とすると、やはり呼吸が先に進化し、後から光合成が進化したと考えるしかなさそうです。
実際、シアノバクテリアにはすでに酸素呼吸が見られるし、それ以前に進化した多くの原核生物でも酸素呼吸が見られます。しかし、呼吸がどのように出現したのかはほとんど分かっていません。
酸素は光合成によって生み出される以外に、大気中の水蒸気が紫外線などによって分解されることにより生ずることが知られています。このようにして生じる酸素の量は微々たるものですが、原始地球にも低濃度の酸素は存在したと考えられ、それを利用した呼吸が進化していたのでしょう。
2 光合成細菌
最も原始的な光合成生物は、光合成細菌と呼ばれる真正細菌の仲間です。
最古の原核生物の化石と思われるものは35億年前までさかのぼりますが、光合成細菌もこの頃には存在していたと考えられています。ただし、地球環境に与える影響はほとんどなかったと言ってよいでしょう。
光合成が出現する前は、生物が利用できるエネルギーは、有機物と、水素と二酸化炭素というような無機化合物の組み合わせによって生まれる化学合成エネルギーの2種類しかなかった。そこに、無尽蔵と言ってもよい太陽の光エネルギーを使える道が開けたのです。
光合成細菌が植物と大きく異なるのは、光のエネルギーを利用して二酸化炭素を有機物に固定する点は同じだが、水を分解して酸素を出すことができないこと。これが大きな制約になり、光エネルギ-を十分には利用できなかった。
%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB.jpg光合成細菌は、緑色イオウ細菌という名前のものを含むグループ(Ⅰ型光合成細菌)と、紅色細菌という名前のものを含むグループ(Ⅱ型光合成細菌)の2つがある。(右図はこちらからお借りしました。)
Ⅰ型光合成細菌は還元力として主に硫化水素を用いるものが多く、Ⅱ型光合成細菌は還元力として有機物を使うものなど、多くの種類を含みます。
どちらのグループも光合成色素として、植物のものとは異なるクロロフィルを含んでおり、バクテリオクロロフィルと呼ばれます。バクテリオクロロフィルは一般に、植物のクロロフィルが吸収する可視光よりも少し波長の長い近赤外線を吸収するという特徴を持ちます。
3 酸素発生生物の誕生
%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%89%E8%86%9C.bmp27億年くらい前、水を分解して酸素を発生する生物が出現した。これが酸素発生型の光合成生物シアノバクテリアです。
(右図はシアノバクテリアの電子顕微鏡写真。こちらからお借りしました。)
水は極めて安定な物質なので、それを分解するためには大きなエネルギーが必要です。光合成細菌は単独では水を分解することができなかったが、新たに現れたシアノバクテリアは、2種類の光合成細菌が合体したような生物で、光のエネルギーをいわば二重に使うことによって水を分解するエネルギーを得ています。
これによって、硫化水素や有機物といった存在場所が限られる物質に依存せず、水と光のあるところであれば、ほとんどどこででも生育できる生物が誕生したのです。
シアノバクテリアは、光合成細菌と同様、単細胞の原核生物(真正細菌)ですが、光合成という点から見ると、陸上植物(真核生物)と同じ酸素発生型の光合成を営み、持っている色素もクロロフィルです。
つまり、光合成細菌からシアノバクテリアに進化する過程で、
(1)2種類の光合成細菌が合体し(光化学系が1つから2つへ)、
(2)水を分解できるようになり
(3)色素がバクテリオクロロフィルからクロロフィルに置き換わった
という3つの極めて大きな変化が起こっています。
4 光合成と水
光合成の産物の炭水化物は、分子式Cm(H2O)nから分かるように、炭素に水が結合した形になっており、例えばブドウ糖(グルコース)はm=n=6で、炭素、酸素、水素の比が1対1対2です。
従って、二酸化炭素CO2を炭水化物に変えるためには、炭素1つ当り、酸素を1つ取り、水素を2つくっつけなくてはならないことになります。酸素を取り去る反応および水素をくっつける(広義には電子をくっつける)反応は、どちらも還元反応と呼ばれます。
光合成細菌は、還元剤として、有機物もしくは硫化水素などの無機物を必要とします。例えば硫化水素H2Sなら、分解してイオウSを作る。
シアノバクテリアや植物は、水H2Oを分解して酸素O2を発生する。
しかし重要なのは、細胞の外に出すイオウや酸素ではなく、残った水素H(その中の電子e-)、つまり他の物資を還元する力です。
<水の役割は電子をあげること>
6CO2(二酸化炭素)+6H2O(水)→C6H12O(ブドウ糖)+6O2(酸素)
化学式からは、O2(酸素)を作ることが水の役割のように見えるが、実はそれだけではなく、水は電子の供給源としても利用されている。
分子の構造は、水素や炭素などの原子がどのようにつながるかで決まっているが、それをつなぐ“かすがい”の役割を果たしているのが電子である。水はH-O-H、二酸化炭素はO=C=Oとなる。
光合成で使われるは、二酸化炭素のもつ炭素に水素をつないで糖を作るための、“かすがい”としての電子を供給する役割をしているとも言える。
<電子をもらうにはエネルギーがいる>
水から電子をもらうにはエネルギーがいる。光合成細菌が使っていた有機物や硫化水素も電子を与える役をしていたが、水からもらうよりエネルギーが少なくて済む。
水はいたるところにあるが、大きなエネルギーが必要なため利用しにくい。しかし、シアノバクテリアはそこをクリアしたのだ。
光のエネルギーを二度受け取るようになったことで、一度では足りなかったエネルギーを充分得ることができるようになり、やや複雑だが水という素晴らしい物質を利用する、みごとな現在の光合成が生まれた。
水が生命を育んだと言えそうだ。
(下図の左は光合成細菌、右はシアノバクテリアや植物の光合成で、後者は光エネルギーを二度受け取ることで大きな還元力を得ている。図はこちらからお借りしました。図をクリックすると大きくなります。)
image20130308002.jpg

                                          
~~~~~~~~~~~~~~~~~
参考:園池公毅著『光合成とはなにか 生命システムを支える力』
光合成と水

List    投稿者 okamoto | 2013-03-08 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2013/03/1374.html/trackback


Comment



Comment