2013-01-15

太陽系を探検しよう-27.地球生命の起源(7)最古のエネルギー代謝は水素資化性メタン生成

前回は、「エネルギー代謝とは、酸化還元反応によって放出されるエネルギーを使って、アデノシン三リン酸(ATP)を合成する作業」であることを見ました。
今日は、ATPの合成方法から、いよいよ最古のエネルギー代謝とはどのようなものであったのかを探り、「地球生命の起源」シリーズを締め括りたいと思います。
(※特記なき限り、高井研著『生命はなぜ生まれたのか 地球生物の起源の謎に迫る』を参考にしています。)
     
     
ATPの合成方法は、発酵、呼吸、光合成の三種類
     
ATPの合成方法は、まず大きくは、エネルギー源を化学反応のみに頼る「化学合成」方式と、光エネルギーを利用する「光合成」方式の二通りがあり、前者はさらに、酸素を利用しない「発酵」方式(嫌気呼吸とも言う)と、酸素を利用する「呼吸」方式(好気呼吸とも言う)の二通りに分かれる。
      
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発酵」は、有機物を酸素以外の酸化剤で酸化してエネルギーを取り出す、生物史上最も古い方法で、「呼吸」は「発酵」を下敷きにして(発酵のプロセスを解糖系と言う)、続いてクエン酸回路(TCA cycleとも言う)→電子伝達系の3つの反応段階から成り立っている。
(下図参照。なお「呼吸」については、『生命は金属とともに生きている』に詳しく書かれているので参照してください。)
     
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(図はこちらからお借りしました。クリックすると大きくなります。)
      
      
最初のエネルギー革命
     
熱水活動域では、無機・有機物が濃縮され、数多くの有機物発酵生命(いわゆる嫌気従属栄養生物)が誕生したであろうが、そのほとんどは、有機物供給が枯渇するにつれ、エネルギーを確保することができずに消え去っていった。
       
しかし、この繰り返しのうちに、ついに(40~38億年前頃)熱水から運ばれてくる無機エネルギー源からATPを作ることのできる能力を持った生命が出てきた(いわゆる嫌気独立栄養生物の誕生。ここでは「持続的生命」と言う)。
このとき、最初のエネルギー革命が起きた。
2回目のエネルギー革命は、当然(35~30億年前頃の)光合成の発明である。
      
この最初のエネルギー革命、つまり最古の(有機物発酵の次の)化学合成エネルギー代謝はどのようなものであったのかを、以下の三つの観点から探る。
     
     
系統樹から見た最古のエネルギー代謝
     
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(上図参照)太いぼかした線は約70℃より高い温度で生育する好熱性の微生物で、初期持続的生命に近い枝は、すべてこれら好熱菌が占めている。
     
数字は様々な化学合成エネルギー代謝の種類を表しており、1、3、5、6が目につく。これはそれぞれ、「1:水素資化性メタン生成」、「3:水素酸化硫黄還元」、「5:水素酸化鉄還元」、「6:水素酸化硝酸還元」を表している。
(注:「光」は光合成のグループで、初期持続的生命からかなり離れている。)
     
つまり、最古の化学合成エネルギー代謝は、
(1)水素を使う
(2)メタン生成か硫黄還元か鉄還元か(硝酸はさる理由で無視)
という可能性が取り出せる。
     
     
進化生化学から見た最古のエネルギー代謝
     
ヴェヒターショイザーの「パイライト(黄鉄鉱)表面代謝説」やド・デューブの「チオエステル・ワールド」が示すように、深海熱水活動域に存在する硫化鉱物表面では、様々な有機化学反応が起きる。理論的には、硫化鉄鉱物表面でのメタンや酢酸、ATPの生成が可能であると考えられている。つまり、鉱物による非生物学的化学合成エネルギー代謝と言える反応である。
     
一方、硫化鉱物の表面や微細な孔には、原始有機物発酵生命も共存していた。この中に、硫化鉱物ごとATP生成反応を移植するものが現れて、自分の有するタンパク質でその反応を促進できるようになったものがいた。
      
この原始有機物発酵生命は、アセチルコエンザイムAのようなチオエステル(一番上の図のアセチルCoA)からATPを生成するステップを持っていたので、硫化鉱物の原始代謝の部分と自分が既に持っていた部分をくっつけることで、初めて有機物以外の無機ガス、この場合水素二酸化炭素からエネルギーを獲得する方法を手に入れた。
     
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このエネルギー獲得方法は、有機物発酵上図の赤色で囲んだ「初期生命壱型」)と硫化鉱物の原始代謝の協調作業であり、無機物を使った発酵と呼べるもので、「メタン生成」(図の青色で囲んだ「初期生命弐型」)か「酢酸生成」(図の一番左)に限定されていた可能性が高い。
その後、金属硫化物自体がタンパク質の中に酵素活性中心として取り込まれていき、タンパク質だけによる代謝系に取って代わられた。
     
このように、進化生化学的な観点からは、最古の化学合成エネルギー代謝は、
(1)水素と二酸化炭素からのメタン生成(水素資化性メタン生成)
(2)水素と二酸化炭素からの酢酸生成(水素資化性酢酸生成)
の順で可能性が高いことが推測される。
     
     
地球化学から見た最古のエネルギー代謝
     
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最後に、40億年前の原始地球の海水と熱水に含まれる化学成分から見た観点。
熱水-海水混合領域では、図の四角に囲まれた組み合わせのエネルギー代謝が優占していたと予想され、ここから最古の化学合成エネルギー代謝は、
(1)水素資化性メタン生成(水素+二酸化炭素)
(2)水素資化性酢酸生成(水素+二酸化炭素)
(3)水素酸化鉄還元(水素+三価鉄)
(4)水素酸化硫黄還元(水素+元素状硫黄)
の可能性が高いと言える。
     
      
最古のエネルギー代謝は、水素資化性メタン生成
     
以上より、最古の化学合成エネルギー代謝は、「水素資化性メタン生成」、もっと言えば「超好熱性水素資化性メタン生成」(熱水から供給される水素と海水中の二酸化炭素をエネルギー源とするメタン生成エネルギー代謝を有した超好熱性の持続的生命)が、最も確率が高いと言える。
     
初期状態では有機物発酵代謝と協調しているものの、一旦メタン生成エネルギー代謝というエネルギー安定供給ラインが確保できると、それまでの有機物発酵代謝生命が化学進化による有機物が溜まっているところから動けなかったのに対し、この共同体のような生命は、熱水活動域の水素と二酸化炭素が存在する場所に伝播分散できるようになる。
     
このように持続的生命共同体は、無生命だった原始地球の全海洋底に瞬く間に広がり、絶対的存在量と生息空間多様性を増大させることで、消滅の可能性を激減させ、次の(光合成代謝の)爆発的進化の序章となった。
     

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

List    投稿者 okamoto | 2013-01-15 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

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