2012-09-02

太陽系を探検しよう-18.地球生命の起源(3)地球での化学進化

%E6%B5%B7%E5%BA%95%E7%86%B1%E6%B0%B4%E5%99%B4%E5%87%BA%E5%AD%94.jpg前回の“地球生命の起源(2)宇宙空間における化学進化”では、地球生命の材料(有機物)は地球外で合成されたとする説を紹介しましたが、今日は、材料(有機物)は地球でも合成されること、そして化学進化の総決算は地球の深海熱水活動域で成されたことを見ます。
(写真は海底にある熱水噴出孔の一種、ブラックスモーカー。こちらよりお借りしました。)
 
地球での化学進化は、原始大気圏、原始海洋、高温地殻内、深海熱水域などの場所で、宇宙線や紫外線、隕石の衝突エネルギー、火山、熱水などさまざまなエネルギーを用いて進行しました。
 
1953年のミラーの実験以来、多くのモデル実験を通じて、少しずつ化学進化過程が明らかになってきているので、これらの中から代表的な実験成果を紹介します。
 
応援、よろしく~

 にほんブログ村 科学ブログへ


 
大気圏
 
ミラーの実験
%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93.jpg最初に原始地球での有機物合成を証明したのが、1953年のミラーの実験で、仮想原始大気に放電、紫外線照射をすることによってアミノ酸を始めとする多くの有機物を科学的に作り出しました。
 
しかしこの実験では、メタン、アンモニア、水素、水蒸気が原始大気として用いられており、メタンの代わりに二酸化炭素、アンモニアの代わりに窒素、水素はなしで水蒸気という組成にすると、有機物が全く作れないという問題があります。
 
40億年前の地球の大気は確かなことは分からないものの、(化学反応を起こしにくい)二酸化炭素と窒素、水蒸気が主成分を構成し、アンモニアは大量には存在しなかったと考える研究者が多く、現時点ではミラー型の化学進化は可能性が低いとされています。
(図はこちらよりお借りしました。)
 
東北大学と物質・材料研究機構のグループが新しい化学進化メカニズムを提唱
これに対して、新しいメカニズムを提唱したのが東北大学と物質・材料研究機構のグループで、原始大気および原始海洋に隕石が衝突した際、その衝突エネルギーが窒素からアンモニアを生成し、さらにアンモニアが溶け込んでいた原始海洋に隕石が衝突すると、アミノ酸を含む多種多様な有機物が生成されることを明らかにしました。
‘生命の起源’有機分子は隕石の海洋爆撃によって生成した!。下の隕石衝突のモデル図も左記より。)
 
%E9%9A%95%E7%9F%B3%E3%81%AE%E8%A1%9D%E7%AA%81
 
 
地球表層
 
アミノ酸が重合してポリペプチドになるのは、水を取り出して分子と分子をくっつける脱水縮合という化学反応だが、通常の水の中では起こりにくい反応であるゆえ、乾燥と湿潤を繰り返す「干潟」も候補地として挙げられている。(柳川弘志博士による実験
(注:水の中では脱水縮合反応は起こらないということではなく、温かい海や海底熱水噴出孔など、エネルギーが存在する場所では起こる。)
 
原始地球表層環境は、40億年前頃はまだオゾン層も地球磁場によるバンアレン帯(放射能が発生する地球上空の大気圏の境界帯)も形成されていないので、宇宙線や紫外線が直接降り注ぐ環境であり、表層で生成された生体高分子は、速やかに水や地殻の中に運ばれる方が分解されなくてよいだろう。
 
また、まだ地球から近い距離にあった月の潮汐が巨大な潮間帯を形成して、干上がっているときに重合反応を進め、潮が満ちてきたら海洋に溶かし込む役割を果たしていたのかもしれない。
 
 
深海熱水活動域
 
そして真打ちが深海熱水活動域である。
 
%E7%86%B1%E6%B0%B4%E5%99%B4%E5%87%BA%E5%AD%94.jpg
(写真はこちらからお借りしました。)
 
深海熱水活動域とは、40億年前の海底で起きた中央海嶺拡大軸や沈み込み帯での、300℃近い高温熱水活動と海水との混合領域、あるいは拡大軸よりちょっと離れた拡大軸翼部と呼ばれる、少し温度の低い100~150℃程度の低温熱水活動とその周辺を含む。
これら熱水活動域での化学進化の研究は多く、多様な有機物が高温、低温の熱水活動条件で生成されることが知られている。
 
特に現長岡科学技術大学の松野孝一郎名誉教授グループは、高温での熱水反応と熱水噴出に伴う低温海水による冷却を組み合わせたフローリアクターを用いて、アミノ酸を10個以上重合させたり、熱水によって生成された炭化水素から作られる細胞膜状の構造物での生体高分子重合反応など、多くの成果を挙げている。(松野孝一郎氏の講演。フローリアクターとはこのようなもの。)
 
また、最初に紹介した東北大学と物質・材料研究機構のグループは、引き続いて高温高圧条件下でアミノ酸の重合実験を行い、タンパク質の元となるペプチドを作り出したが、より高圧で、より高濃度のアンモニアの存在が重要であることを明らかにし、これら物質の生成が原始地球の海底地下で起きていたことを示唆している。(生命の起源:化学進化は海底地下で起こった!高温高圧条件下におけるアミノ酸のペプチド化を解明。下図は隕石衝突によるアンモニア生成および有機物生成の仮説図。)
 
%E9%9A%95%E7%9F%B3%E8%A1%9D%E7%AA%81%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%A2%E7%94%9F%E6%88%90.jpg
 
また、深海熱水活動域で特徴的なチムニー構造物や硫化物構造物、炭酸塩構造物は、条件が揃うと極めて多孔質な構造を形成するが、その孔こそ「原始細胞のいれもの」になったと考える説や、
その孔の中の小さな熱対流が有機物の濃縮に極めて有効に働き、生体高分子の重合や核酸の複製において生命機能の肩代わりをしたという説など、
他の原始地球のいかなる研究よりも、先行している。
 
深海熱水活動域は、さまざまな場所でできた有機物などが一堂に会する、まさに化学進化過程の総決算の場所に成りうる場であり、地球生命が生まれた最も可能性の高い場所なのである。
 
参考:高井研著『生命はなぜ生まれたのか 地球生物の起源の謎に迫る』(2011年)

List    投稿者 okamoto | 2012-09-02 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2012/09/1327.html/trackback


Comment



Comment