2012-07-16

太陽系を探検しよう-15.地球生命の起源(2)宇宙空間における化学進化

太陽系を探検しよう-12.地球生命の起源(1)~「奇跡の星」地球~に続いて、今日は生命誕生までの化学進化の過程を探ります。
 
生命の起源について多くの研究者が支持している説は、「単純な物質が化学反応によって次第に複雑な物質へと進化していき、ついに生命になった」という化学進化説です。
その場所は原始大気圏、原始海洋、深海熱水域、高温地殻内など、化学進化を起こすためのエネルギーも、宇宙線や紫外線、隕石の衝突エネルギー、熱水など諸説ありますが、「原始地球にあった生命の材料からつくられた」とする点は共通しています。
 
%E6%9A%97%E9%BB%92%E6%98%9F%E9%9B%B2.jpgこれに対して、近年異論を唱える研究者が増えてきており、彼らは「地球の生命は、地球外で合成された生命の材料(有機物)が地球に運ばれてきて、それを使ってつくられた」と説いています。こうした考え方を総称してパンスペルミア説といいます。
 
「パン」は広く、あまねく、「スペルミア」は種を意味し、生命の種は宇宙にあまねく満ちている、ばらまかれているという考えです。
 
近年、パンスペルミア説が注目されているのには理由があり、その一つが、地球の生命が非常に短期間で誕生したことが分かってきたこと、もう一つが「生命が左手型のアミノ酸だけを使うのはなぜか」という謎に、この説が答えを出してくれるかもしれないという期待があるためです。
 
今日は、パンスペルミア説が注目される一つ目の理由、および有機物がどのようにして地球外(宇宙空間)で合成されるかをみたいと思います。
(上図は有機物が合成されたと考えられている暗黒星雲(馬頭星雲)。HubbluSiteさんよりお借りしました。)
 
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地球の生命は非常に短期間で誕生した
 
これまでに見つかっている最も古い生命の化石は、オーストラリアで見つかった35億年前の微生物の化石だといわれています。
また化石そのものではなく、生命が残した痕跡である「軽い炭素」を多く含む場所がグリーンランドで38億年前の地層から見つかり――生命は重さの異なる炭素の同位体(12Cと13C)のうち軽い方の炭素(12C)を好んで使うことが分かっている――遅くとも38億年前には、原始的な生命が地球上に出現していたと考えられています。
 
ところで地球そのものが誕生したのは、今から46億年前のことで、41億年前から38億年前にかけて、宇宙から大量の小天体が地球に降り注いだ時期「後期重爆撃期」があったことが近年分かってきました(生命の起源(1)の3項参照)。
この時期は、小天体の衝突により大量の熱が発生し、岩石が溶けて地表が「マグマの海」で覆われ、生命が生き抜くことができなかったと考えられています。
 
ということは、今から約38億年前、小天体が降り注いだ時期が終わるとすぐに原始生命が誕生したことになります。多くの科学者が「生命の誕生には何億年、何十億年の長い年月がかかるだろう」と考えていたので、そのようなイメージを大きく変えるものでした。
 
生命が比較的短期間のうちにあっさりと誕生したとすれば、地球の生命は、地球に降り注いだ小天体に含まれていた「生命の材料」をもとにしてつくられたのかもしれないのです。ある程度「出来合い」の有機物を材料に使うことで、生命誕生までの化学進化の時間を短縮できる可能性があるからです。
 
 
隕石から宇宙起源の有機物が発見される
 
1969年9月オーストラリアのマーチンソン村に降り注いだ隕石(マーチンソン隕石と呼ばれる)から、多くのアミノ酸が検出されました。これらが宇宙起源である証拠は、グリシン・セリンなど生体に多く含まれるものに加え、α-アミノ酪酸など地球環境にほとんど存在しないものが数十種類も検出されたこと、そして決め手になったのは、地球上にはほとんど存在しない「右手型」アミノ酸がほぼ等量含まれていたことです。(ウィキペディアにも記事あり)
 
また同年に、南極で見つかった他の炭素質コンドライト(隕石の種類の一つで、炭素を多く含んだ黒っぽい色の隕石のこと)から抽出されたアミノ酸も、隕石固有のものと確認されました。 
 
2000年1月、カナダのタギッシュ湖に落下した隕石は炭素質コンドライトであるが、アミノ酸の含有量は比較的少ない。2006年、NASAの中村圭子らは電子顕微鏡で観察し、有機物からなる中空の球状構造体を見つけたが、これは原始地球で有機物を閉じ込めて外部の環境から守り、細胞のもとになった可能性も考えられる。
さらに同位体組成から、この有機物が絶対温度10-20度(約マイナス260℃)という極めて低温の環境で生成したことが分かりました。太陽系ができる以前、かなりの低温環境ですでに隕石有機物のもととなるものが生成していたことを強く示唆しています。
 
(↓下図はタギッシュ湖隕石中の有機構造体。小林憲正著『アストロバイオロジー』より。)
image20120716004.jpg
 
nasa%E9%9A%95%E7%9F%B3.jpg2011年8月、NASAなどのチームは、南極で見つかった隕石からDNAを構成する四つの分子のうち、アデニングアニンが見つかり、これらが地球外でできたものであると発表しました。(右図はアデニンとグアニンが見つかった南極の隕石。NASAのWebSiteよりお借りしました。)
生物のDNAを構成しない別の分子も見つかり、それが隕石の周囲の氷には含まれていなかったため、これらの分子は地球外から飛来したと断定されました。しかもアデニンとグアニンは、非生物的な反応によってつくられたことも分かり、これは、隕石のもととなった小惑星などで分子の合成が行われたことを意味しています。
朝日新聞デジタル楽観主義者の科学工作参照。)
 
 
隕石中の有機物はどのようにしてできるか?
  
宇宙空間はほぼ真空だが、周りより物質の密度が高い場所があり、これを星雲という。星雲には散光星雲と暗黒星雲(分子雲)があり、前者は後方から来る星の光を散乱して明るく輝くが、より物質密度の高い後者は、後方の星の光を通さず真っ黒に見える。(最上段の図は馬頭星雲と呼ばれる代表的な暗黒星雲。)
暗黒星雲の一部で、重力によりさらに物質が集まると、原始太陽系星雲になり、原始太陽や小天体(惑星や隕石)ができます。
 
暗黒星雲に最も多いのは水素分子で、次が一酸化炭素だが、酢酸・エタノール、13原子からなるシアノデカペンタニンなど大きな分子も見つかっています。これら分子のほかに、直径が1マイクロメートルよりも小さい塵(星間塵)が存在する。一生を終えた恒星が宇宙にはき出したものだ。
暗黒星雲の中心部には星の光が入らず、絶対温度10-20度という極低温に保たれているため、分子の多くは塵のまわりに凍り付いている。これをアイスマントルと呼ぶ。アイスマントルの主成分は水、一酸化炭素、メタノール、アンモニア、ホルムアルデヒドなど。
 
暗黒星雲には星の光は入らないが、エネルギーの高い宇宙線なら入っていく。宇宙線が物質に当ると紫外線も生じる。エネルギーの高い宇宙線や紫外線がアイスマントルに当れば、さまざま化学反応を起こして有機物が生成する可能性が高い。(↓下図。小林憲正著『アストロバイオロジー』より。)
 
image20120716002.jpg
 
星間塵中の複雑で微量な分子を地上から直接検出するのは難しいので、模擬実験によって生成物が調べられている。宇宙線を構成する高エネルギーのイオンや電子、陽子、紫外線、炭素イオン(重粒子線)などを加速器で作り、一酸化炭素やアンモニアなどを含む氷に照射する実験により、アミノ酸のもとになる分子「アミノ酸前駆体(分子量1000以上の極めて複雑な分子)」が生成されることが確認されています。
 
参考:
佐藤勝彦著『ますます眠れなくなる宇宙のはなし-「地球外生命」は存在するのか』(2011年)
小林憲正著『アストロバイオロジー 宇宙が語る<生命の起源>』(2008年)
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次回は、パンスペルミア説が注目されているもう一つの理由、「生命が左手型のアミノ酸だけを使うのはなぜか」という謎に答えを出してくれるかもしれない、という点について紹介します。
お楽しみに

List    投稿者 okamoto | 2012-07-16 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

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