2012-09-18

太陽系を探検しよう-19.地球生命の起源(4)生命のホットスポット・深海熱水活動域の発見

太陽系を探検しよう-18.地球生命の起源(3)地球での化学進化では、「深海熱水活動域こそが地球生命が生まれた最も可能性の高い場所」としましたが、今日は、このような生物学の方向を大きく変えることになった深海熱水活動域の発見を紹介します。
 
そこは、生き物がほとんど生息できない「暗黒」「低温」「高圧」という深海にあって、特別に生き物が密集して生息する「生命のホットスポット」とでも言うべきところで、しかも、光エネルギーを利用しての光合成によって作られた有機物をもとにした生態系とは異なり、化学エネルギーを利用しての化学合成によって有機物を作る化学合成生態系を形成しています。
 
下の写真は「しんかい6500」が300℃にもなる熱水に近づいているところ(左)と、煙突のように突き出たチムニー(右)。こちらからお借りしました。
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最初に「深海ってどんな世界?」から見てゆきます。
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深海ってどんな世界?-「暗黒」「低温」「高圧」という過酷な環境
 
%E9%99%B8%E3%81%A8%E6%B5%B7.png(二つの図はこちらからお借りしました。)
 
地球表面のおよそ71%は海に覆われています。海洋の平均の深さは水深3730mで(ほぼ富士山の高さに匹敵)、地球上での最深部は、西部太平洋マリアナ海溝の水深約1万920mとされています(世界の最高峰エベレスト(チョモランマ)の8848mの高さより深い)。
 
深海とは、一般的に植物プランクトンが光合成で必要とする太陽の光が届かなくなる水深200mより深いところを言います。
 
水深200mまでの浅海はなだらかな傾斜が続く大陸棚と呼ばれ、海底全体の8%の広さしか占めないが、漁獲量の80%以上を産出し、資源も豊富な場所。
そして水深200mから、海底面積の92%を占める深海の海底となるが、長くて急な傾斜の大陸斜面、そして海溝と呼ばれる海底の谷に至る。
 
よって深海は、「暗黒」、「低温」、「高圧」という過酷な環境にあります。
 
暗黒の世界
深海の定義にあるとおり、深海は太陽の光が届かない暗黒の世界です。
水は青以外の光を非常によく吸収するため、深度200mで光の量は海面の1%程度で、周囲はわずかに届いた青い光に包まれている。そして1000mあたりで全くの暗闇になってしまう。
深海では光合成によって有機物を生み出すことができないので、浅海から落ちてくる生物の死骸や有機物に頼って生きている。
 
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深海は太陽の光が届かないので、寒い世界です。
深海の温度(水温)は、水深1000mぐらいで2~4℃となり、3000m以上になると1~2℃とさらに冷たくなります。
 
高圧の世界
圧力(水圧)は、10mもぐるごとに1気圧ずつ増えていきます。
人間は10気圧程度で呼吸障害を起こします。
深海生物にとって水圧が真に脅威になるのは深度3000mを超えて圧力が300気圧以上、1cm四方にかかる圧力が300kg以上に達するあたりから。強大な水圧は生物の細胞やタンパク質の構造まで押しつぶしはじめる。
これより深い場所に棲む生物はこうした強大な水圧に分子レベルで適応しなければならない。
 
以上見てきたように、深海は非常に過酷な環境なので、生き物に頻繁に出会うことはまずありません
 
ところが、世界の深海底には特別にさまざまな生き物が密集して生息する「生命のホットスポット」ともいうべきところがあるのです。その代表格が深海熱水活動域(熱水噴出孔)です。
 
 
生命のホットスポット:深海熱水活動と化学合成生態系の発見
 
深海の熱水噴出孔の周りには二枚貝などが密集し、イソギンチャク、エビの仲間などが、そこかしこに大量に生息しています。熱水に溶けていた岩石の成分が海水と反応して、固まってできた煙突状の突起、チムニー(煙突)の周辺に、これらの多様な生き物が密集し、うごめいているのです。まさに深海底に突如現れたオアシスであり、生命の楽園とも呼ぶべき場所でもあります。
しかもその生き物たちが特異なのは、光エネルギーを利用して光合成によって作られた有機物をもとにした生態系とは全く異なる生き方をしていることです。
 
深海熱水活動の研究の歴史は、一般的にジョン・コーリスらが1977年にガラパゴスリフト(rift:裂け目)で発見した時から始まりますが、そこで見つかった奇妙な生き物たちは世界中の生物学者を驚かせました。
 
その代表の一つが、熱水噴出孔の周りに2m以上にもなる白くて細長いチューブ(最大で長さ3m、太さ3cmになる)が林立し、先端部分には赤い突起状のものを揺らめかせているチューブワーム
(左図はこちらからお借りしました。右図は体の構造図、高井研著『生命はなぜ生まれたのか-地球生物の起源に迫る』より。)
 
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チューブワームはゴカイの仲間とされているが、非常に特異なのは、口、消火器、肛門がないこと。
体内に特殊な細菌が共生していて、硫化水素を酸化して、その化学エネルギーを利用し、二酸化炭素と水から炭水化物を合成していることが分かりました。
つまり、チューブワームはこのバクテリアを体内にすまわせ、下からは熱水噴出孔の周辺に溜まった沈殿物から硫化水素を吸い、上からはえらのような器官で酸素を含む海水を送り込んで、バクテリアに有機物をつくってもらうという共生関係にあったのです。
(注:この細菌は、ガンマプロテオバクテリアというバクテリアの一群に属する硫黄酸化独立栄養細菌であり、化学エネルギーは、アデノシン三リン酸<ATP>や還元型ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド<NADH>など。)
 
もう一つの代表はシロウリガイと呼ばれる二枚貝で、泥や砂などの堆積物に貝の一部を埋め、海中に突き出した形で立っている。堆積物のなかに伸ばした足から硫化水素を取り込み、また海中に出た水管からは酸素を取り込んで、えらの細胞の中にすまわせている硫黄細菌に必要なものを送り続けている。
 
(下図はシロウリガイの化学合成式。こちらからお借りしました。)
 
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このように、化合物を酸化・還元するときに得られる化学エネルギーによって炭水化物を合成する仕組みを、光合成に対する言葉として「化学合成」と呼んでいます。
 
化学合成細菌は他にもさまざまな種類が見つかっています。
主に熱水噴出孔から噴き出す熱水に含まれている硫化水素、硫黄、アンモニア、亜硝酸、水素、鉄などを利用し、これらの物質の酸化や還元によって得られるエネルギーをもとに有機物をつくり、生きています。硫黄細菌、硝化細菌、水素細菌、鉄細菌などと呼ばれる細菌ですが、それらを体内に共生させた貝類や甲殻類などが、多数見つかっています。
 
このような多様性は、これまでに発見された300箇所以上の深海熱水活動域でさえ(現在の地球に存在する熱水活動域のごく一部にすぎない)、全く同じものはなく、極めて多種多様な地質学的、地理学的、化学的そして生物学的特徴が存在しているから。
その一方で熱水活動域のメカニズムはそれほど複雑ではなく、海底下や地下の「高温の岩石と水の化学反応」というかなり単純で共通した現象と言えます。
 
これらの発見は、光合成を行う生物が登場する前の太古の生命の姿ではないか。そして、熱水噴出孔こそが生命の起源の場所ではないか。のちの生物学の方向を大きく変える発見でもあったのです。
  
地球に最初に生まれた生命は化学合成細菌であり、現在まで同じ環境の中で暮らしてきたと考えられますが、現在の化学合成生態系にすむ他の生き物たちは、酸素を使っていることから分かるように比較的新しい。酸素は原始地球には存在せず、次に誕生した光合成生物が作りました。
故郷である熱水噴出孔を去って、光合成生態系の浅い海で進化したものが、再び深海に戻ってきて現在の生態系を形成しているのです。
 
次回は、地球生命の共通祖先に直結するアークバクテリア(古細菌)の発見をみる予定です。お楽しみに
 
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(参考)
NHK「サイエンスZERO」取材班+高井研・JAMSTEC編著『深海で生命の起源を探る』
高井研著『生命はなぜ生まれたのか-地球生物の起源の謎に迫る』

List    投稿者 okamoto | 2012-09-18 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

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