2012-04-19

太陽系を探検しよう10.彗星~太陽の外圧を伝える輝き~

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ハレー彗星の写真(NASA)
  
彗星は惑星や衛星と同じ太陽系の天体のひとつです。その特徴は、尾をひくことです。これを東洋では“彗=ほうき”と呼び、西洋では“COMET=長い髪”と呼びます。ではなぜ彗星は尾を引いているのでしょう。わかっているようで、意外にわかっていない、そのなぞに迫ります。
 
尾を引くから彗星と呼ぶからといって、彗星はいつでも尾を引いているわけではありません。彗星といえども、尾を引くのは太陽に近づいたときだけです。
 
例えば、有名なハレー彗星は、太陽系の外縁部(海王星軌道あたり)から38年かけてやってきますが、尾が見えるのは火星の軌道あたりまで近づいたときです。全周期の1%にもなりません。詳細な軌道についてはこれを参照してください。⇒ファイルをダウンロード
 
また、太陽に近づくときは水星軌道あたりまで来ますが、尾は太陽に近づくにつれて大きくなり、その後は遠ざかるにつれて小さくなっていきます。
sakuseiennshu.JPG
写真によるヘール・ボップ彗星軌道図作成実習より。赤色を加筆)
   
更に、尾は太陽の反対側にできます。私たちの日常感覚では、進行方向の反対側に出ているように見てしまいますが、そうではありません。尾は、明らかに、太陽の影響で発生しているのです。(下図はそのイメージ図)
shoemaker04_04.jpg
 
 
彗星の本体(核)では何が起こっているのでしょうか。
 
 
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何かが噴出している彗星の核
 
halley%20comet%20coma%20giotto.JPGこれまで最も詳しく観測されているのが、1986年に現れたハレー彗星です。
 
右の写真は、欧州の探査衛星ジオットが撮影したハレー彗星の核の写真です。
大きさは、長さ15km、幅7kmから10km。ジャガイモのようなかたちです。
 
注目すべきは、核の一部から何かが噴出しており、それが太陽のある方向(明るい左上半面)に限られているということです。
 
この噴出物が尾の源になっていると考えられます。
 
 
chuushinkaku.JPGということは、彗星の尾は太陽の側で噴出し、それが太陽の反対側に飛ばされているのです。(右図のようなイメージ)
 
 
 
 
核から噴出し、飛ばされている物質は何なのでしょうか。  
 
  
噴出しているのはH2O
  
supekutoru.JPG
物質が何であるかは、その物質が反射する光のスペクトル解析でわかります。(分光法:光の発生または吸収スペクトルは、物質固有のパターンと物質量に比例したピーク強度を示す。)
 
ハレー彗星のコマ(核から噴出した物質で覆われた核の周辺部分)をスペクトル解析したものが右図です。
H2Oが突出して多く、次いでCO2やCHが多くなっています。
 
halley%20sosei.JPGこのような観察結果から、ハレー彗星の大気(噴出物)の組成は約80%がH2O (氷)、約20%がCOやCO2、そのほかにアンモニアやメタンや窒素混合物などと見積もられています。尾の成分も同様と考えられます。
  
では、核そのものも同じと考えてよいのでしょうか。 
  
 
雪のような核から水が噴出
 
噴出している物質の大半がH2Oでも、それが核の一部でしかなく大半は太陽の影響が少ない金属や岩石等の重い物質である可能性もあります。そこで、核の密度を確認します。
 
平均0.6(誤差+0.9、-0.4)g/cm3と見積もられています。

<参考計算>ケプラーの第3法則から、彗星の質量は約2×1014㎏、
ジャガイモの体積はおよそ15km×8km×11km=1320km3
密度は2×1014㎏÷1320km3=2×1017g÷13.2×1017cm3=0.15g/cm3とても軽い!

 
密度は岩石なら2~3g/cm3、水の塊なら1g/cm3なので、それよりずいぶん密度が小さい=軽いということです。大半が岩石や金属ということは考えにくく、やはり、水(氷)が主体で、それが詰まっているというよりスカスカというイメージです。ちょうど雪の密度と同じぐらいです。
 
彗星の核が水(氷)の塊と考えると、太陽側で噴出しているのは水やCO等の蒸気とそれにつられて飛び出してくる固体(岩石の微細粒子)と考えられます。
 
太陽光はそんなに熱いのでしょうか。 
 
  
太陽の近くはとっても熱い
 
地球上にいるとわかりませんが、地球の軌道あたりでも大気圏を出た人工衛星や宇宙船の表面は太陽側で100℃以上になります。一方、太陽の反対側は0℃以下です。地上でそれが感じられないのは大気があるおかげです。
 
彗星は水星の軌道あたりまで太陽に近づきます。水星をみてみると、大気がほとんど無いこともあり、表面は太陽側で最大400℃にもなります。太陽の反対側はマイナス150℃です。彗星もこれと同じ外圧に晒されています。
 
水は、彗星の太陽側ではどのような状態になるのでしょうか。 
 
 
太陽熱は水を氷から爆発的に昇華(気化)させる 
 
<joutaizu.JPG物質は温度と気圧により固体・液体・気体という状態が規定されます。彗星の近日点はおおよそ水星の軌道程度なので、水星の状況から推察します。
温度は水星の太陽側から推測して300℃。気圧も水星の値10-7~10 -12気圧から、ほとんど無圧力と想定できます。
 
この状況で、水は固体(氷)から気体(水蒸気)に昇華します。これが表面からの噴出現象を生み出しています。温度が400℃ともなれば、水分子は臨界点を超え、プラズマ状態へと移行している可能性もあります。
 
しかし、水蒸気だとしたら、透明で見えないはずです。COやCO2も同様です。(ドライアイスをイメージするとCO2が蒸発すると白く見えそうですが、あの白い煙は周囲の水分が凍ったものです。)したがって、コマで白く見えているのは、水やCOの昇華とともに噴出した岩石のかけら(微粒子)ではないかと思われます(要追求課題)。
なお、COやCO2は融点・沸点ともにマイナス100℃程度なので、彗星が太陽に近づく過程で真っ先に噴出し始めるのはこれらの物質です。
それを太陽の反対側に飛ばしているのは何なのでしょうか。 
 
 
彗星の尾を形づくっているのは太陽からの電磁波 
taiyouhousha.JPG太陽の影響ですから、そこから放出されているエネルギーが何か、ということです。
太陽からはさまざまなエネルギーが放出されています。地球上で実感できるのは太陽光、すなわち電磁波です。
他にも、核融合に伴い放出されるニュートリノ粒子、フレアなど爆発現象で飛ばされる表面のプラズマ(陽子や電子、一般には太陽風と呼ばれることが多い)があります。
これらがどのぐらいのエネルギーを持っているかは、地球上や人工衛生での観測で明らかになっています。(右表参照)
 
エネルギーの大きさからいうと、電磁波が最大です。中でもそのほとんどは可視光線・赤外線・紫外線です。他のエネルギーは電磁波に比べ小さく、ニュートリノはその100分の1、太陽風(プラズマ)は100万分の1しかありません。また、ニュートリノは粒子ですが、それが小さすぎて、ほとんどのものを透過してしまい、影響を与えません。
 
それらすべてのエネルギーは、太陽からの放射圧として存在し、彗星の尾を形づくる原因となっていますが、その中心は電磁波です。一般に、“光圧”などと呼ばれています。
 
エネルギーが大きいといっても、光=電磁波が物体を吹き飛ばせるのでしょうか。  
 
 
微小粒子をマッハ4以上で吹き飛ばしてしまう電磁波
  
電磁波が物を動かせるかどうかは、地球上でも実験ができます。 
このエネルギーを彗星の水分子に作用させたとすると、初速約14万m/s(約50万㎞/h)で飛ばされる計算になります。太陽からのエネルギーはかかり続けるので、速度はどんどん上がっていきます。

<参考計算>地球(軌道上)で、そのエネルギーは1.37kW/㎡=1.37kJ/s㎡。
これをハレー彗星の近日点付近(エネルギー約3倍)にある水分子(表面積約7×10-20㎡)が受けるエネルギーは2.877×10-16W。
E=1/2mv2より
v=(2×2.877×10-16÷3×10-26)1/2
=1.38×105(m/s)

これがまっすぐに伸びるイオンテールをつくっている物質のイメージに近いと思われます。
 
彗星にはもうひとつ曲がった尾があり、ダストテールと呼ばれています。これは上記よりも大きな物質(塵)が飛ばされて形成されていると考えられます。塵を岩石等の微細粒子とし、比重は水1に対して3程度、大きさは3×10-6m程度とすると、表面積は水分子の1億倍、体積は水分子の1兆倍、質量は水分子の3兆倍として算すると、初速はそれでも約1400m/s(約5000㎞/h)=マッハ4以上にもなります。(そんなに早くても太陽から地球までは3年近くかかります。)

太陽系内はエネルギーの“風”が吹き流れている
太陽から放射される電磁波や様々な粒子は、非常に大きな力となって襲い掛かるわけです。その影響は小さい物資ほど大きく、1000分の1mmぐらいの物質は超音速ですっ飛ばされてしまいます。人工衛星は重さ数百㎏から数トンありますが、太陽放射を考慮しないと姿勢を一定に保てません。まるで太陽から強い風が吹いているようなイメージです。地球もそのような外圧の中にいます。
ただ、私たちはそれを実感することはありません。地球が重く、かつ、厚い大気磁場に守られているからです。しかし、ひとたび大気圏を飛び出すと、宇宙船や人工衛星はそのような外圧に晒されるのです。
美しい尾を見せる彗星は、そのような太陽の外圧を受けて身を減らしながら輝き、その外圧の大きさを見せてくれる天体なのです。

 

List    投稿者 kumana | 2012-04-19 | Posted in ⑫宇宙を探求するNo Comments » 

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