2009-05-04

人工ウイルス製造技術はどこまで進んでる?

突如、GW直前に発生した豚インフルエンザ。WHO(世界保健機構)によっていずれフェーズ6(世界的大流行)指定までいくだろうと言われるほど世界中に拡散しています。ネットを見ていると、人為説もチラホラ。真偽のほどは分かりませんが、実際、人工ウイルスの製造技術というのは今どこまで進んでいるのか?これを調べてみました。

pig.jpg
(注)このブタは、豚インフルエンザとは関係ありません。


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■医療分野で急速に研究が進む人工ウイルス

すでに、2003年の段階で塩基配列より人工ウイルスを約2週間で合成することには成功している。ただしウイルスは他の生物細胞内に侵入して自身の複製を行わせないと増殖できないため、生命の範疇に含めるかどうかには議論の余地がある。これは米代替バイオエネルギー研究所が1200万ドルの予算で2002年から行っている研究の一端で、5386塩基対を持つ物だが、単純な微生物(単体で生存・繁殖する能力を持つ)は100~1000倍の遺伝情報を持つため、単純にこの手法が人工単細胞生物に応用できる訳では無い(ウィキペディアより)

実はこの人工ウイルス、特に医療分野でこれから活躍が期待されている技術なのです。カリフォルニア州のローレンス・バークレー国立研究所では、人工的につくったウイルスでHIV(エイズ)を封じ込める新しい治療法の研究が進んでいます。

人工的に作ったウイルスでHIVを封じ込める新しい治療法
研究チームはウイルスに操作を施して、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を封じ込める働きを持たせ、エイズの発症を抑制することに成功した。この手法はコンピューター・モデルを使った理論的検証を経て、シャーレに取り出した細胞でも実験済みとなっている。これまでの結果は有望で、この調子で研究が進めば、今年中にも動物実験を開始できるという。

東京大学でも、人工ウイルスによる治療法の研究プロジェクトが立ち上がっています。
再生医療のための人工ウイルスによる遺伝子導入法の開発に関する研究
■人工ウイルスのつくり方
さて、人工ウイルスはどうやったらつくることができるんでしょう?
こんなページがありました。組換えレトロウイルス作製/タカラバイオ株式会社
組換えレトロウイルス作製、一式80万円ナリ・・・・
レトロウイルスは、iPS細胞作製にも使用される細胞内に目的遺伝子を持ち込む“運び屋”。これは、既存ウイルスの塩基配列の一部に目的遺伝子の配列を挿入してつくられるようです。この程度の技術は今や、簡単に買えるくらい普及しているんですね。
遺伝子を運ぶウイルス(画像と説明はこちらより)
artificial-virus.jpg
プラスミドDNA(左)をポリエチレングリコールとポリリジンからなるポリ
マーに複合させ、人工ウイルス(右)として血管内を循環させます。
これを遺伝子治療などに役立てます。


2002年には、既存ウイルスの塩基配列データを基にした完全人工コピーが成功します。

MSNエンカルタ百科事典「ウイルス」
2002年、アメリカのニューヨーク州立大学の研究グループは、RNAの全塩基配列(ゲノム)データをもとに、ウイルスを人工的に合成することに世界ではじめて成功した。人工合成したウイルスはポリオウイルスである。人工合成の方法は、まず、ポリオウイルスのRNAゲノムデータをもとに、そのデータの完全なコピーである相補的なDNA(完全長cDNA)をDNA合成装置でつくり、さらに、そのDNAを鋳型にして酵素をつかってポリオウイルスのRNAを合成した。そして、そのRNAを、実験用の細胞から抽出した液にまぜたところ、RNAがタンパク質をつくりだし、正二十面体の殻をもった完全なポリオウイルスができあがった。

そして、上記でウィキペディアでも紹介されている2003年の事例では、もっと進んでいます。

人工ウイルス開発のリターン
市販されているオリゴヌクレオチド(40塩基長)を、既知のPCR法を使って貼り合わせ、遺伝子配列が発表されているウイルスを作りあげたのである。特段の困難性は報告されていないから、誰でも挑戦できそうに映る。
 但し、特別な工夫がされている。
 突然変異を引き起こすことがわかっているオリゴヌクレオチド部分をカットしたのである。

■前科あり?
要するに、既存のウイルスの塩基配列と遺伝子の中身が分かっていれば、市販のヌクレオチドを繋ぎ合わせて、さらにそれを一部改良する形で、細胞に入れればちゃんと増殖を始める新しいウイルスを合成する技術はほぼ確立しているということです。使い方によっては、革新的な医療技術としても、逆に生物兵器としても実用可能な段階に人類はいます。
実は、2005年に韓国で、ブタの遺伝子の中から、かつて人工合成されたインフルエンザ・ウイルスの遺伝子が見つかる、という事件も起こっています。

「ブタから人工インフルエンザ・ウイルス発見」の謎
 韓国のデジョン(大田)にあるチュンナム(忠南)大学のソ・サンヒ教授は昨年10月下旬、ブタのサンプルから取り出したウイルスの遺伝物質の塩基配列断片を『ジーンバンク』に登録した。ナイマン社長は11月にこのデータと偶然出会い、6つの断片に『WSN/33』ウイルスの遺伝子が3個から7個含まれていることに気付いた。このウイルスは、1918年のインフルエンザの流行を調査していたロンドンの研究所が1933年にはじめて分離し、それをマウスに感染させて作り出したもの。(中略)
 『サイエンス』誌の記事によると、WHOは当初、聖ユダ小児研究病院(テネシー州メンフィス)の研究者がWSN/33ウイルスのサンプルをソ教授の研究所に送ったと述べた事実を受け、ソ教授のデータを研究所での混入として片付けたという。ところが、ソ教授はサイエンス誌に、WSN/33ウイルスを受け取ったことはないと話している。

さて、今回は・・・・    

List    投稿者 s.tanaka | 2009-05-04 | Posted in ⑧科学ニュースより1 Comment » 

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コメント1件

 kawai | 2009.07.07 23:52

考えてみれば、上陸に向けての乾燥適応は、生態ではなく子孫に変異を組み込む形で徐々に実現して行った、という事ですね。
いきなり体の構造を組替えられる訳など無いので、その意味でも羊膜の獲得というのは、その後の進化(適応放散)へ向けての画期的な変異獲得の一つですね!

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