2008-12-18

膜の進化を探る

生体膜が生命の起源の大きな要素であったことは間違いないでしょう。タンパク質やヌクレオチドを包んでいる膜は、どのように進化してきたのでしょうか?
今日はその謎に迫ってみます。

300px-Lipid_bilayer_and_micelle%5B1%5D.png
<脂質二重層:ウィキペディアより>

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●生体膜の機能

①外部/内部の仕切りと輸送
>生体膜は生命の起源と同じだけ古く、原始的な生命体と外部環境の仕切りでした。それがなければ、生命環境を構成している物質は拡散してしまったでしょう。
>封じ込めに成功したところで、まったく物質の出入りがなければこれまた生命は維持できません。
(中略)膜は老廃物を外に出すことができ、生命の素材は中に入れることができる性質をそなえなければなりません。これが生体膜のもうひとつの重要な機能の「輸送」です。
1%5B1%5D.gif
②認識機能と細胞間の情報伝達
>生物が進化して、多細胞体制が出現すると、細胞膜は細胞間の情報伝達、情報認識の機能をもつようになります。内分泌支配、神経興奮の伝達、免疫などの現象はこの機能に含めることができます。
>細胞の機能が複雑化すると、細胞の中、つまり生命環境の中をも仕切るようになりました(細胞小器官の出現)。その結果生命体過程は、より効果的に行われるようになります。
2%5B1%5D.gif
③反応の効率化
>膜のもう1つの機能として、生体成分が水溶液にばらばらに存在するのでなく膜の上に一定の秩序をもって配置されることによる反応の効率化があります。呼吸やそれによるエネルギーの獲得反応がその例です。
3%5B1%5D.gif
リンクより引用>

●原始細胞の膜は透過性に富んでいた?

>原始細胞にあったであろうと推察される単純な膜は、人工的につくることができる。
>そのような単純な膜は、ヌクレオチドを透過させ、細胞の中のDNAを伸張させることが実験で示された。
>この実験結果は、原始細胞の細胞膜は極めて透過性が高かったということを示唆している。
リンクより要約引用>

●生体膜の進化と起源

>原核生物や古細菌の生体膜にはコレステロールは含まれていない。コレステロールは真核生物のみに見られる。
>コレステロールの生合成には多段階を要し、しかもすべて酵素によってコントロールされる
>また、真核生物のリン脂質合成には、(中略)何段階もの酵素反応が必要となる。
>現在の生体膜成分(コレステロール、ホパノイド、リン脂質など)は多段階で、しかも立体特異的な酵素反応システムなしには合成されえず、したがって原始生体膜成分をほかに求めなければならない。
>生体膜は、コレステロールやホパノイドなどのテルペノイドによって補強される。
※テルペノイド:イソプレンユニット(分子式 C5H8 の二重結合を2つ持つ炭化水素)を構成単位とする一群の天然物化合物の総称。
>ポリプレニルリン酸は、水に分散させると、自発的に自己組織化が起こり、ベクシル(閉じた脂質の膜)やチューブ状の2分子膜構造が形成されることが、電子、光学、共焦点顕微鏡観察で明らかにされた。(ポリプレニルリン酸は、原始生体膜の一候補として仮定される。)
>塩基性蛋白質リゾチームを加えることにより、リゾチームを加えない場合に比べてDNAのベクシル内への取り込み量が100倍にまで増加した。蛋白質を担体とした核酸のベクシルへの取り込みが、原始細胞の形成に大きな役割を果たした可能性を指摘している。
リンクより要約引用>

●考察
・膜の機能から考察すると、原点には外部/内部を仕切る機能があったのは確かだろう。
・原始的な膜は、リン酸などの材料特性による自己組織化によって形成された可能性がある。

・しかし、それだけでは未だ生命と呼べるかどうかは怪しい。おそらく、認識機能と輸送(選択透過性)機能が、物理的な膜と生体膜を分かつ特徴的な機能だろう。
・それらの生体膜としての機能は、単純なリン脂質の二重構造だけではなく、タンパク質やヌクレオチドなどの他の物質と協働することによって獲得されたのではないだろうか?
・「反応の効率化」がどのような仕組みなのかはもう少し調べてみる必要があるが、生体膜ができることによって、生化学反応の効率が上がった可能性は考えられる。
・タンパク質が担体となることによって、膜内への核酸の取り込み量が飛躍的に増加した可能性が指摘されている。タンパク質でできている酵素は、飛躍的に反応速度を上げる働きがある。タンパク質と生体膜との協働作業(受容体の形成)によって、材料の取り込み量と反応速度が飛躍的に増大し、反応効率が上がった可能性は高い。

・原核生物から真核生物になると、補強材料であるテルペノイドが進化することによって、膜は進化していった。
・多細胞生物になると、認識機能と情報伝達機能が著しく進化したのは間違いない。
※引用の図では、はだかの遺伝子があって、それを包むような膜ができたというような順番で書かれているが、果たしてそのような順番であったかは疑問である。「原始細胞の膜は透過性に富んでいた?」の実験から推測すると、先ず膜ができて、その中にヌクレオチドが取り込まれた可能性もある。

List    投稿者 fkmild | 2008-12-18 | Posted in ①進化・適応の原理17 Comments » 

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コメント17件

 はるじおん | 2009.01.16 22:14

外の環境を認識するしくみっていうのも考えてみると面白いものですね。
パイロコッカス菌はアミノ酸の濃度変化で認識してるんですか!!
まあ細胞にとっては周りに栄養があるかないかが一番必要な情報ですもんね。
たしかにアミノ酸の濃度には敏感に反応してそうです。

 ロスジェネ | 2009.01.18 21:15

お久しぶりです。コモノートは耐熱性の
古細菌をたどって行くとあるのだと学生時代に
教わった覚えがありますが、認識機構に
対する遺伝子の話は初めてでした。
単細胞から多細胞になるには、やはり
群れであることの認識が必要だったと
思われますね。接着細胞がらみかと
私は勝手に理解していたのですが・・・
それでは、また。ブログ応援しております。

 iwaiy | 2009.01.19 15:53

はるじおんさん、コメントありがとうございます♪
単にエサに敏感!というだけでなく、外的環境の変化から、代謝や分裂を制御している点に生命の精妙さを感じました。

 iwaiy | 2009.01.19 16:06

ロスジェネさん、コメントありがとうございます♪
コモノートは、古細菌と真正細菌の共通祖先として仮定された概念のようですね。
今後も、生命の基幹システムに迫る追求を行っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

 KAM | 2009.01.20 0:38

iwaiyさん、はじめまして。
最近、会員になりましたKAMと申します。
古細菌が環境応答によって遺伝子の転写を制御する話、とても興味深かったです。
少し前から、エピジェネティックスや、トランスポゾンと進化の関係に興味を持っており、その観点から気になったことがあります。
環境応答して、遺伝子の転写状況が変化するときに、DNAのメチル化などのエピジェネティックな情報は、どのようになるのでしょうか。
 環境からの応答で、メチル化などが変化する。
→トランスポゾンなどが動き出す。
→環境からの応答によって進化する。
という仮説は可能でしょうか。

 北斗七星 | 2009.01.20 1:29

初期のころからの会員の北斗七星です。
会員になられた方のさっそくの書き込み、嬉しく思います。
遺伝は遺伝子のみによって決定づけられるかのような誤解が、多くの人にあるようですが、環境要因によって、遺伝子の発現などを制御させたり遺伝内容を変化させたりする仕組みは間違いなく存在すると思います。
だから、KAMさんの仮説は私も的を得ていると思います。

 KAM | 2009.01.20 2:17

北斗七星さん
早速、コメントいただき、うれしいです。
私は、10年位前に複雑系の物理の観点から生物の発生、進化などを研究していました。
生命が自己組織化したものだとすると、ダーウィニズムの描く生命よりも、もっと積極的に環境調和的でないと説明がつかないと感じています。
近年、セントラルドグマが部分的に破れていることが分かってきて、ようやく新たな生命科学が誕生する気配が出てきたことをうれしく思っています。
また、どうぞよろしくお願いいたします。

 iwaiy | 2009.01.20 2:27

KAMさん、はじめまして!
11/22エピジェネティクスって、何?
http://www.biological-j.net/blog/2008/11/000611.html
上の記事を書いたときの私の直感が、KAMさんの仮説とほぼ重なります!
北斗七星さんのおっしゃるように「環境要因によって、遺伝子の発現などを制御させたり遺伝内容を変化させたりする仕組み」が生命の変異と進化を読み解く上でキーになると思います。
レトロポゾンと進化の関係でも、興味深い切り口が見つかっています。
・レトロポゾンは哺乳類の脳進化を促した?!
http://www.biological-j.net/blog/2008/11/000610.html
・レトロポゾンこそ人類進化の鍵かもしれない!
http://www.biological-j.net/blog/2008/11/000607.html
・レトロポジションとY染色体
http://www.biological-j.net/blog/2008/11/000605.html
★まだ追求途上ですが、もっと追求していくと面白い発見がありそうです。
疑問や感想、有用な情報、切り口があれば、どんどん発信お願いしますね!
よろしくお願いします☆

 KAM | 2009.01.20 21:22

iwaiyさん
問題意識を共有する方と会えて、とてもうれしいです。
張っていただいたリンク先、拝見しました。
この話題、心にビンビンと響きます。
ここには、今までの生命の捉え方を根底から覆す何かが存在していると確信しています。
レトロポゾンの存在を、生命の中に位置づけるって難しいことだと思います。
形質が変化して、複雑化していく仕組み自体が、複製系の中に内在していると捉えることも可能でしょうか。
レトロポゾンには、挿入されやすい箇所とされにくい箇所とがあるそうなので、エキソン・イントロンの分布の統計則にも、レトロポゾンの挿入ルールが反映しそうですね。
もし、エキソン・イントロンの頻度分布について、何かご存知だったら教えてください。
1/f ゆらぎのようなものが出てくるような気がしているのですが。。

 iwaiy | 2009.01.20 21:58

> エキソン・イントロンの分布
・・・については私も詳しくないので、一緒に調べてください♪
レトロポゾンについては、進化史の時間軸で見た場合、その出現に大きな波があるらしいことから考えて、外圧・環境要因と関係した「変異システム」のひとつであろうと考えています。
KAMさんのコメントから、新しい追求の切り口が見つかりそうな予感。。。
一緒に勉強、追求していきましょう!
これからもよろしくお願いします☆

 KAM | 2009.01.20 23:55

ゲノムの内部構造について調べてみたら、ゲノムのフラクタル構造についての論文を見つけました。
http://reiki.naist.jp/thesis/bin/property.asp?id=341
こちら↑の右下から、論文の全文を見ることができます。
ざっと見ただけですが、大腸菌のゲノムのパワースペクトル分析を見ると、高頻度領域では周期構造が見られ、中頻度領域ではランダムになっていて、低頻度領域でフラクタル性が見られるようです。
これらの内部構造ができあがった仕組みを考えるのは、生物の進化を考える上で重要だと思います。
iwaiyさんの『外圧・環境要因と関係した「変異システム」』というテーマは、非常に興味深いです。
ここまで調べた範囲で生まれた疑問は、次の3つです。
ゲノム内部が構造化していくダイナミクスにトランスポゾンがどのように関わるのか。
そこにフラクタル性が見られるというのは、どういうことなのか。
外圧・環境要因は、ゲノムの構造化に本質的な役割を果たしているのか、それとも、変化の速さを調節しているだけなのか。
何かが見えてきそうな気配があるのですが・・。

 iwaiy | 2009.01.21 1:49

KAMさんのおっしゃる、ゲノム構造のダイナミクスを切り口として考えるのも非常に興味深いですね。
私としては、変異システム(進化)を考える場合、DNA本体だけでなく、中心体、生体膜、RNAなど(DNAに対する制御因子も)、複眼的な思考が必要になるだろうと考えています。
話は変わりますが、当ブログにもたびたび登場する「なんでや劇場」が1/25(日)14:00~、東京と大阪で開催されます。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=600&c=200 
テーマ:生物史から学ぶ自然の摂理⑭ 生命の起源にせまる2
~中心体が指令塔になれたのはなんで?~
※経済で大きな動きがあった場合は、テーマを変更して経済を扱う可能性があります。
ご興味があれば、おすすめします。

 KAM | 2009.01.23 2:58

iwaiyさん
ゲノム構造のダイナミクスにとらわれすぎると、
生物=内部と環境の間に生まれる、変化を伴う動的な平衡状態
と捉える見方から離れてしまって、本質を見失う危険性がありますね。
iwaiyさんのおっしゃるようは、複眼的な思考が必要だなと、コメントを拝見して思いました。
なんでや劇場おもしろそうですね。
スケジュールが合うときには、参加したいです。

 iwaiy | 2009.01.23 13:50

KAM さん、コメントありがとうございます。
今朝はこんなニュースを見つけました。
●細胞内社会の新たな支配関係を発見―葉緑体がパラサイト・シグナルで細胞核を制御―
http://www.rikkyo.ac.jp/news/2009/01/3784/
細胞内の指令関係は、やはり核DNAを基点とするのでは説明がつかない現象が多いようですね。
★なんでや劇場は、事前の参加登録が必要ですので、都合がつくようでしたら、お早めに申し込んでくださいね!
(私は東京で参加します!)

 匿名 | 2009.01.26 23:32

iwaiyさん
貴重な情報、ありがとうございます。
長い間信じられていたものが、次々とひっくり返っていくのを見ると、地殻変動も近いのではないかと思って楽しみです。
ゲノムによって生物をアイデンティファイすると、「変化しないゲノム」と「その撹乱である変異」という見方になりますが、そもそも、ゲノムを特別視するのをやめると、「生物=変化しつつも、ゆるやかなアイデンティティを持つもの」というように見ることができ、そこから新しいアイディアを出せたらと思っています。
環境と生物が強く影響しあいながら、単純なものから複雑なものへ自己組織化的に時間変化していく様相を捉えられないかと思っています。
バイロコッカス菌は、一つのヒントを与えてくれそうです。
なんでや劇場は、今回は都合がつきません。
とても楽しそうなので、いつか参加したいです。

 KAM | 2009.01.26 23:32

iwaiyさん
貴重な情報、ありがとうございます。
長い間信じられていたものが、次々とひっくり返っていくのを見ると、地殻変動も近いのではないかと思って楽しみです。
ゲノムによって生物をアイデンティファイすると、「変化しないゲノム」と「その撹乱である変異」という見方になりますが、そもそも、ゲノムを特別視するのをやめると、「生物=変化しつつも、ゆるやかなアイデンティティを持つもの」というように見ることができ、そこから新しいアイディアを出せたらと思っています。
環境と生物が強く影響しあいながら、単純なものから複雑なものへ自己組織化的に時間変化していく様相を捉えられないかと思っています。
バイロコッカス菌は、一つのヒントを与えてくれそうです。
なんでや劇場は、今回は都合がつきません。
とても楽しそうなので、いつか参加したいです。

 iwaiy | 2009.01.27 16:35

「生物=変化しつつも、ゆるやかなアイデンティティを持つもの」・・・私も生命をそのようなイメージで捉えています。
以前、このブログでも話題になったのですが「安定と変異の両立」という概念は生物史を通じて適用できるのではないかと考えています。
(安定だけでは環境に適応できない、変異だけでは種が保存できない・・・)
なんでや劇場の内容は、記事としてアップされる予定ですのでお楽しみに!

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