2022-09-18

分子系統学が分かる(1)~分子系統学とは~

分子系統学って知っていますか!?

分子系統学とは、生物のもつタンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列を用いた解析を行い、生物が進化してきた道筋(系統樹(上図参照(引用させて頂きました。有難う御座います)を解明しようとする学問です。

従来の系統学は主に形態、発生といった表現型の比較に基づいていたのに対し、分子系統学はそれらの根本にある遺伝子型に基づく方法であり、より直接的に生物の進化を推定できると期待されるのです。この学問は、20世紀に入り、各種理論やDNA解析技術によって大いに発展しました。

分子系統学の研究は、20世紀半ばに、分子進化(生物種によるアミノ酸配列の違いが過去の進化を反映していると考える)が研究され、分子時計仮説が提唱されたのに始まります。分子進化がほぼ一定の速度で進むとする考えで、進化の時間経過が追えることが示唆されました。その後分子進化速度は機能的に重要でない部分は早く進化するなど一定ではないことが明らかになり、木村資生による中立進化説が定説となりました。分子系統学はこれらの理論を基本をおいているのです。

この分子系統学は、今や高等学校の教科書にも載っているそうです!!この分子系統学ををシリーズで調査、追求していきます。

第1回目は、分子系統学とは何か?そしてその誕生は?についてです。

参考にさせて頂いた書籍は、『生物を分けると世界が分かる』岡西政典 著です(有難う御座います)。

■分類学と系統学は何が違う?
自然界の生物を分類する学問を『分類学』と呼ぶが、それに対して、『系統学』と呼ぶ学問があります。この分類学の父と呼ばれているのが、スウェーデンの植物学者、カール・フォン・リンネ(聖職者の子として生まれた)です。リンネの代表作『自然の体系』は、1735年に初版が刊行されています。

まずは、分類学と系統学を簡単に分類します。

・分類学「ある一時期における生物の体系を表す学問」
・系統学「ある期間における生物の進化の過程を考える学問」

なぜ二つの学問的な違いが生まれたのか?それには、当時の宗教的価値観(キリスト教価値観)を理解しておく必要があります。

『リンネの分類体系』生物が階層性に落とし込まれるということ自体、彼は神の業で不変のものであると考えた。つまり属や種などの階層は明確に他と区切られており、その間のものは存在しないという考え=キリスト教の価値観。

しかし現在では、生物は長い年月の間に、DNAの突然変異などによって、少しずつ環境に合わせてその形質を変化させ、現在のような多様な姿を得るに至ったという考えが主流です。そしてその発端が、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』(初版1859年)で唱えた進化論です。
進化論とは、置かれた環境に有利な形質を持つ生物のみが生き残り、 次世代にその形質を伝えていくという「自然選択」説に基づいたものです。

このダーウィンの進化論によって、生物は長い年月の間にさまざまな変化を蓄積し、現在のような姿になったことが説明された。・・・となると当然、現在生きている生物たちには共通の祖先がいるという認識が生まれます。

それまでは、私たちヒトと、私たちに近縁と考えられているチンパンジーは、共に神が造った不変の生物なので、どれだけ昔に遡ったとしても、ヒトとチンパンジーが現在のように共存していたと考えられていました。これに対して、十分時間を遡れば私たちもチンパンジーもまだ存在せず、それに似て非なるサルのような形の共通の祖先がいたとする考えが生まれたのです。これが、『系統学の始まり』と言えます。

■分子系統解析の誕生
しかしDNA解析技術の発達はこの状況を一変させました。DNAの塩基配列というデータは、系統樹の作成と非常に相性が良く、多くの場合、形態に基づいた系統解析(系統進化パターンを構築するための解析)よりも優秀な成績を残すと言われています。

近年では、良いか悪いかは別として、専門的な知識がなくても、材料とDNA実験施設さえあれば、あらゆる生物の系統樹を構築することが可能になりました。これを「分子系統解析」と呼びますが、近年では高校の授業の一環で系統樹の作成も行われているほどです。

実際、分子系統解析が分類学にもたらした恩恵は非常に大きく、これまで形態だけでは分からなかったさまざまな系統(外見は変わらず他の形質が異なる種のことを「隠蔽種」という)が分子系統解析によって見出されています。このように分類学は、分子系統解析の登場によって大きく進歩し、現在でもさまざまな研究成果が次々に発表されている状況にあるのです。

今回は以上です。次回は、~分子系統解析の特徴~です。

List    投稿者 hirosige | 2022-09-18 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

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