2020-10-08

「電子だけを食べて生きる電気生命体」~電気エネルギーと生物~

電気をエネルギー源として利用して、増殖できる微生物の存在が明らかとなり、同時に、電気が光と化学物質に続く地球上の食物連鎖を支える第3のエネルギーであることを示しており、・・・リンク
最初の生命は、深海の熱水活動域で電気をエネルギー源として生まれた リンク

生命の起源には電気エネルギーが深く関わっているようです。電気エネルギーで生きる微生物も発見されています。
生物と電気エネルギーはどのような関係があるのか。

今回は、電子だけを食べて生きる電気生命体の生育に成功したミネソタ大学の研究を見ていきます。

ナゾロジー(2020/7/15) より。

「電子だけを食べて生きる電気生命体」の生育に成功

● point

●電子を食べ、電子を排出する電気バクテリアを鉄電極を使って育成できた
●電気バクテリアを生かすだけならエサは電子だけでいい

電子を食べ、電子を排出する電気生命体とも言うべき細菌(電気バクテリア)を、鉄電極を使って人工的に育成することに成功しました。

私たちは細菌がさまざまなエネルギー源で生き残ることを知っていますが「電気バクテリア」は極めて特殊な存在であり、純粋な電子を、直接エネルギーとして吸収できます。

今回の研究では、この電気バクテリアを、一切の栄養源を与えないまま、鉄電極から放出される電子だけで育てました。
電気バクテリアはいったいどんな仕組みで生きていけたのでしょうか?

 

食事と呼吸の本質は電子の吸収と排出

電子を食べ、電子を排出して生活している電気バクテリアは、一見、地球生命の常識から外れた存在に思えます。

しかし地球生命としては、決して逸脱してはいません。

なぜなら、生命の食事は電子の取り込みであり、呼吸は使い終わった電子の排出と解釈することが可能だからです。

私たち人間も過剰な電子をたっぷり含んだ糖分を食べ、使い終わった電子を酸素に受け渡すことで呼吸しています。

そのため呼吸(酸素)を止めることは、捨てるべき電子の出口を塞ぐ行為であり、苦しくなるのは電子の流れが滞っているから だとも言い換えられるのです。

食べるのも排出するのも純粋な電子である電気バクテリアは、生物が行う電子の流れを極限まで絞り込んだ存在であり、ある意味では最も純粋な地球生命とも言えます。

 

電気バクテリアを生かすだけなら電子のみでいい

アメリカ、ミネソタ大学の研究者は様々な条件で、この電気バクテリアの培養を行っていました。

そして今回「M.ferrooxydans PV-1」と呼ばれる電気バクテリアを、一切他の栄養源を必要とせず、鉄電極から放出される電子のみで生育させることに成功したそうです。

実験に使われた装置は、上の図のように対になる電極とバクテリアが浮かぶ培地からなっています。

この培地には一切の栄養素は含まれていませんでした。

実験の結果は、電気バクテリアを生かすだけならば、砂糖や他の種類の栄養素は必要なく、電子だけで十分である ことを示しました。

次に研究者は、電気バクテリアの故郷である海底の堆積物を培地に組み込み、2本の電極を使って電気バクテリアの増殖を試みました。

堆積物に刺さった2本電極のうち1本は、電池を使って堆積物の自然電位より高い電位がかけられ、もう1本はより低い電位が掛けられました。

研究者が個々の電気バクテリアの電気活動を調べたところ、電気バクテリアは2本の電極のうち、陰極の鉄電極から放出される電子を食べ、使い終わった電子を陽極に向けて排出(呼吸)していたことがわかりました。

なお電子の食い扶持がみつからない場合、細菌は餓死してしまいます。また電子の捨て先がみつからない場合には、窒息死してしまうとのこと。

似たような結果は、金属で呼吸する細菌でも報告されています。

 

NASAも電気バクテリアに注目している

また今回の研究に連動して、研究チームは8種類の新種の電気バクテリアの発見にも成功しました。

さらなる新種を求めて、研究チームはサウスダコタの金鉱山の中にバッテリーを設置し、電極の周囲に集まってくる細菌を採取しようと計画しています。

電気バクテリアの探索によって、地球内部の隠れた生物圏を発見できるかもしれないのです。

また、NASAも電気バクテリアに注目しています。

電気バクテリアは光も酸素も必要とせず、非常に少ないエネルギーで生き残ることが知られており、地球以外の星での生命探査の候補として有望だからです。

さらに今後研究チームは、電気バクテリアに与える電子を限界まで絞り、生命維持に必要な最小エネルギーの算出を行う予定とのこと。

得られたエネルギーの最小値を、他の生物と比較することで、生命と電子の根本的な謎に迫れるかもしれません。

研究内容はアメリカ、ミネソタ大学のザラス・M・サマーズ氏らによってまとめられ、7月14日に学術雑誌「mBio」に掲載されました。

(以上)

List    投稿者 seibutusi | 2020-10-08 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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