2020-03-19

人類の音声言語と発声器官の進化

日々の充足体験は「会話=おしゃべり」にあり!http://blog.livedoor.jp/iiotokoiionna/archives/52288563.html#more
現代人の日々の充足は「会話=おしゃべり」にあるようです。

「会話=おしゃべり」について、原始人類まで遡って考えてみると、原始人類は、音声言語による仲間との「会話=おしゃべり」により一体充足を高めて知能を進化させていった と考えられます。

人類の音声言語(会話=おしゃべり)について、発声器官(形態)の進化の視点からの研究を紹介します。

 音声言語と発声器官の進化 http://anthro.zool.kyoto-u.ac.jp/evo_anth/evo_anth/symp9907/takemoto.html より。

音声言語と発声器官の進化   竹本浩典(京大・理・自然人類)

会話は、受け手と話し手が音声波のやりとりを通じて、交互に立場を入れ替えること によって成り立っている。受け手は音声波を聴覚器官で受聴して音声を知覚する。次 に内容に関する心的な過程、すなわち記憶の参照や推論などを行う。そして受け手は 話し手に立場を変え、話す内容を決定すると、脳から運動指令が出て発声器官を動か し、音声が生成される。この音声波が空間を伝播して、先程まで話し手だった相手が 受け手へと立場を変えて受聴する。この繰り返しによって音声によるコミュニケーショ ンが行われる。

このように、音声言語によるコミュニケーションは、多くの物理的、 生物的な要素によって成り立っているため、一口に音声言語の研究といっても、どの 部分に注目して研究を行うかによってたくさんのアプローチの仕方がある。私が研究 を行っているのは 発声器官、すなわち音声を生成するハードウェアそのものの、形態  についてである。

~中略~

発声器官は単一の器官ではなく、声道-咽頭腔、口腔など喉頭より上部の空間-とい う体腔に面した、多くの器官によって成り立っている。大まかに言って発声器官は、 頭蓋底、頸椎、下顎、歯列などの硬組織の内部に、舌、咽頭、喉頭などほとんどが軟 組織からなる部分が声道という空間を挟んで内接する構造になっている。ヒトでは、 頭蓋底が水平、頸椎がほぼ鉛直なので、発声器官とその声道は咽頭の部分で大きく屈 曲した形状をしている。

音声そのものは、喉頭の声帯で生成されるが、その多様性は舌によって生み出されて いる と言っても過言ではない。音声は、喉頭で生成される音声波が声道を通り抜ける 際に、様々な音響的な修飾を受けて生成される。音響的な修飾は、声道の時間的、空 間的な変化によって起こる。その最大の要素は舌である。舌が様々な形に、素早く変 形することによって、多くの音声が特徴づけられ、生成されている。

音声は音素から成り立っており、音素は大別すると母音と子音に分けられる。母音と は声帯が振動することにより、声道全体が励振し、比較的定常で安定した音色を示すもの である。子音とは、母音以外の全ての音素である。母音は、声帯振動に声道全体 が励振するという点で、子音よりも発声器官全体の形を反映しているといえるので、 発声器官の形態と音声との関係を調べるためには、母音に注目するべきであると考えられる。

母音は舌の位置により、大きく3つに分類される。舌の前部が隆起し、口腔の前方が 広くなり、後方が狭くなる/i/や/e/は、前舌母音と呼ばれる。対照的に、舌が後方に 持ち上がって、口腔の後方が広くなり前方が狭くなる/a/や/o/は、後舌母音 と呼ばれ る。両者の中間的な存在として、舌の中央部分が隆起し、口腔の中央が狭くなる 中舌母音 がある。このように舌が多様に変形して、それぞれの母音が発声される。

一般的に化石人類の発声器官は、チンパンジーに似ていたのではないか、といわれて いる。特に初期人類ではよく似ていたと考えられている。歯や顎の形が違うため、か なり印象は異なるが、頭蓋底の屈曲が弱く、硬口蓋の部分が前後に長い点で両者は似 通っている。そのため、チンパンジーの発声器官の形態と発声される音声について調 べれば、初期人類の構音能力を解明するための重要な知見が得られると考えられる。

“継続的な観察の結果、チンパンジーでは、後舌母音の/a/, /o/、中舌母音の/u/の発 声は観察されるけれども、前舌母音である/i/, /e/の発声は観察されない ことが知られている。ヒトでは、/i/はsuper vowelとも呼ばれ、どの言語でも普遍的に存在し、最も弁別しやすく、そのため母音の正規化の指標音に成るとも言われる特殊な母音で ある。このようなヒトの音声言語で重要な役割を持つ母音の発声が、チンパンジーで は観察されないのは、きわめて興味深い。”

ヒトの幼児では喉頭がかなり下降するまでこの母音を発声できないことから、この母 音が発声できるかどうかは、喉頭の高さと関係していると推測されている。ヒトが/i /を発声している様子を観察すると、舌が変形して口腔の前方が狭くなり、口腔の後 方から咽頭にかけての空間が広くなっている。すなわち、前部が狭く後部が広い声道 形状が、/i/の発声に不可欠である。

ヒトでは喉頭が低い位置にあり咽頭が広いため、 このような声道形状をとりやすいと考えられている。一方、チンパンジーでは、舌の 筋構築はヒトと変わらないため、舌が変形する能力もヒトと変わらないと思われるが、 喉頭が高い位置にあり咽頭腔が狭いため、舌を変形させても/i/の発声に必要な後部 の広い声道形状をとることができないのではないか、と考えられている。

~中略~

チンパンジーがヒトと同様な舌の変形を行うことができない一番の原因は、舌が平たいこと である。ヒトは硬口蓋が前後に短く、上方へ深くえぐれており、それに沿って 舌の上面が隆起し、全体としての形は丸い。そのため、/i/を発声する際に最も活動 するオトガイ舌筋の後部が収縮すると、舌の後部が前方に凹むとともに前上方が隆起 する。そのため、口腔の後方から咽頭にかけての空間が広くなると同時に口腔の前方 が狭くなる。ところがチンパンジーは硬口蓋が平たく、また、頭蓋底の屈曲が弱いた め、その形状に従って舌が平らである。そのため、オトガイ舌筋の後部が収縮したと しても、舌が隆起しない。すなわち、ヒトでは舌が丸いので、オトガイ舌筋後部の収 縮が口腔の後部を広めると同時に前部を狭めることができるが、チンパンジーでは舌 が扁平なため、同様の筋収縮を行っても後部が広まると同時には前部が狭くならない のである。

~以下略~

List    投稿者 seibutusi | 2020-03-19 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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