原核生物の常識覆す、他の生物を丸のみする新バクテリア発見!
真核生物のファゴサイトーシス(大型の粒子や生物を自らの細胞で包み込む)に似た捕食を行う原核生物(バクテリア)が初めて確認されました。 この原核生物は、真核生物とは独立して真核生物のような特徴を進化させたことを示唆していると言います。
原核生物と真核生物という分類そのものの見直し含めて生物進化の解明が必要な状況のようです。
以下、筑波大学プレスリリース http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201912111800.html より。
原核生物の常識覆す、他の生物を丸のみする新バクテリア発見
~真核生物誕生の謎を解き明かす手掛かりに~
■研究成果のポイント
1.真核細胞(注1)のような大型で柔軟な細胞をもち、ファゴサイトーシス(食作用)(注2)のように他の生物を丸ごと細胞内に取り込んで消化するバクテリア(細菌)を発見しました。
2.この真正細菌のゲノムには真核生物由来の遺伝子はほとんど存在せず、これらの特徴は真核生物とは独立して獲得されたと考えられます。
3.真核生物以外でファゴサイトーシスに似た捕食様式が見つかった初めての例であり、原核生物から真核生物への進化を理解する上で極めて重要な発見です。
筑波大学生命環境系の石田健一郎教授、同研究員の白鳥峻志博士(現:海洋研究開発機構)、鈴木重勝博士(現:国立環境研究所)らの研究グループは、原核生物でありながら細胞が大きく柔軟で、真核生物に特有の機能であるファゴサイトーシス(食作用)に似た捕食を行う真正細菌を発見しました。
我々ヒトを含む動物や植物、菌類が含まれる真核生物は、原核生物(注3)である真正細菌や古細菌と比べて大型で柔軟な細胞を有し、細胞内部の構造も非常に複雑です。真核生物特有の機能の一つとして、大型の粒子や生物を自らの細胞で包み込むファゴサイトーシスが知られています。アメーバなどの単細胞生物では餌の取り込みに、ヒトでは免疫系の一つとして白血球が病原体を排除する際などに用いられており、真核生物の最も重要な性質の一つです。
研究グループは、単細胞性の真核生物と同程度の大きさで、アメーバのように柔軟に変形しながら移動する奇妙な真正細菌‘CandidatusUab amorphum’(以下ウアブ)をパラオ共和国から発見しました。詳細な顕微鏡観察を行ったところ、ウアブは自らの柔軟で大型の細胞を用いて、ファゴサイトーシスのように他の真正細菌や微小な真核生物を包み込んで捕食することが明らかになりました。その一方で、真核生物の特徴を多く示すにもかかわらず、ウアブのゲノムからは真核生物由来の遺伝子はほとんど見つかりませんでした。
これらの結果は、ウアブが真核生物とは独立して真核生物のような特徴を進化させたことを示唆しています。原核生物の常識を覆す全く新しい生物であり、原核生物の複雑性の進化や生態的役割に関する研究を大きく進展させる重要な発見です。ウアブがこれらの特徴をどのようにして獲得したかを解明することで、ファゴサイトーシスの進化はもちろん、真核生物がどのように誕生したのか、という生命の進化史における最も大きな謎を解き明かすためのヒントが得られる可能性があります。
■研究の背景
地球上のすべての生物は3つのグループ、真正細菌、古細菌、真核生物のいずれかに属しています。真正細菌と古細菌はまとめて原核生物と呼ばれ、非常に微小で単純な構造を持ちます。これに対し、動物や植物が属する真核生物は、原核生物と比べて柔軟かつ巨大(約1000 倍の体積)な細胞をもち、その内部には核やゴルジ体など様々な細胞小器官や、アクチンやチューブリンからなる発達した繊維状の細胞骨格を備えています。
柔軟で大型の細胞と発達した細胞骨格によって、真核生物は他の生物や大型の粒子を自らの細胞で包み込んで取り込むことが可能となりました。これがファゴサイトーシス(食作用)です。アメーバなどの単細胞生物では餌となる微生物の捕食に、ヒトなどの動物では免疫系の一つとして白血球が病原体を除去するためなどに用いられており、真核生物の基本的な機能の一つです。また真核生物のエネルギー生産を担う細胞小器官であるミトコンドリアは、真核生物の祖先が真正細菌の一種であるαプロテオバクテリアを取り込むことで獲得されたと考えられていますが、その取り込みがファゴサイトーシスによって起こったとする説もあり、ファゴサイトーシスは真核生物の誕生にも密接に関わっています。
真核生物は原核生物の一部から進化したと考えられていますが、どのようにファゴサイトーシスを獲得し、細胞の大型化や複雑性を進化させてきたのかは、生命進化上の最大の謎の一つとされてきました。その理由は、真核生物が原核生物から分岐したのが今から約十数億年前と非常に古く、現在知られている真核生物と原核生物は形態や構造、機能が大きく異なるためです。真核生物に最も近縁とされる古細菌さえも、構造的には真核生物との類似点はほとんど見られません。真核生物と原核生物の中間的な性質をもつ生物の発見は、この謎の解明に大きく貢献すると考えられます。
■研究内容と成果
筑波大学の石田健一郎教授らの研究グループは、パラオ共和国で採集した海水から、真核生物特有だと考えられていた特徴を多く持つ真正細菌を発見しました。発見した真正細菌はパラオの神話に出てくる大食いの巨人Uabにちなんで、‘Candidatus Uab amorphum’(以下ウアブ)と名付けられました。
ウアブは直径約5μmと、真核生物の細胞と同程度の大きさで、アメーバのように細胞を柔軟に変形させながら運動する様子が観察されました(図1、動画1)。顕微鏡観察の結果、驚くべきことにウアブは真核生物のファゴサイトーシス(食作用)のように、自らの柔軟な細胞によって他の真正細菌や小型の真核生物を丸ごと包み込んで捕食することが明らかとなりました(図2、動画2)。
電子顕微鏡を用いてウアブの捕食をさらに詳細に観察したところ、真核生物のファゴサイトーシスと同様に、捕食された生物は細胞内部の膜で区切られた領域(食胞に相当)に取り込まれ、その中で分解されることがわかりました。また、ウアブの細胞内部には真核生物に見られるような発達した繊維状の構造が観察されました(図3)。
次に、ウアブの真核生物的な特徴が何によってもたらされたのかを明らかにするために、ゲノム解読を行いました。その結果、ウアブは約960万塩基対からなる真正細菌としては比較的大型のゲノムを有し、その中には6600 個の遺伝子が存在することが明らかとなりましたが、予想に反して真核生物のファゴサイトーシスに関係のある遺伝子や、真核生物からの水平伝播(注 4)に由来すると思われる遺伝子はほとんど見つかりませんでした。
ゲノム上に真核生物と関係のある遺伝子がほとんど見られなかったことは、ウアブが独自に真核生物のような特徴を獲得したことを示唆しています(図4)。
(中略)
■参考図
図1. ウアブの光学顕微鏡写真。 ウアブの細胞は一般的なバクテリアに比べて非常に大きい
図2. ウアブがバクテリアを捕食する様子。 ウアブは細胞を凹ませることで、バクテリアを細胞内に取り込む。
図3. ウアブの細胞内に存在する発達した繊維構造。
図4. ウアブと真核生物の系統関係。
ウアブは真核生物特有と考えられていた特徴を多く有しているが、系統的には真核生物とは離れている。真核生物からウアブへの遺伝子の移動もほとんど見つからなかったことから、ウアブの特徴は真核生物とは独自に獲得されたと考えられる。
■用語解説
注1)真核生物
細胞の中にDNA を包む核をもつ生物の総称。核以外にも、ゴルジ体やミトコンドリアなどの様々な細胞小器官や、チューブリンやアクチン繊維からなる細胞骨格をもつ。動物や植物、菌類などの多細胞生物や、ゾウリムシなどの単細胞生物が含まれる。
注2)ファゴサイトーシス(食作用)
真核生物が微生物や大型の粒子を食胞と呼ばれる小胞を使って細胞内に取り込む現象。
注3)原核生物
細菌と古細菌からなるグループ。原核生物の細胞は真核生物の細胞に比べて小型で、細胞小器官や発達した細胞骨格ももたない。
注4)遺伝子の水平伝播
外来DNA を取り込むことで、個体間や他生物間において起こる遺伝子の移動。
(以上)
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