2015-08-11

免疫:3つの未解明の迷宮~2.経口免疫寛容

『免疫:3つの未解明の迷宮』

  1. 免疫記憶
  2. 経口免疫寛容
  3. 腸内細菌と免疫の関係

前回の『免疫記憶』に引き続き、今回は『経口免疫寛容』を取り上げる。

免疫とは自己/非自己を判断し、非自己である異物を排除する仕組みだといわれる。しかし、単純に非自己を排除するばかりでは、外界から入ってくる自己の生存にとって有益な食品を利用することが出来ない。そこで、消化管は非自己で本来は排除すべきものでも、自己にとって有益なものであれば、これを選別し、受け入れる働きがある。それが「経口免疫寛容」という現象だ。

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■「全身免疫」と「腸管免疫」

生物は、体内に侵入してきた細菌などの異物を排除する免疫システムを持っている。この免疫システムを担うT細胞、B細胞、樹状細胞などの“免疫細胞”は、胸腺や骨髄でつくられている。T細胞とB細胞はリンパ節や脾臓へと運ばれて待機し、樹状細胞は全身に散らばってパトロールをする。

樹状細胞は異物(抗原)を見つけると、細胞内に取り込んで分解し、その抗原情報をT細胞に提示する。T細胞は、B細胞に抗原情報を伝え、抗体をつくるように指令する。B細胞はIgG(免疫グロブリンG)などの抗体をつくって異物を攻撃する。このように働く免疫システムは「全身免疫」と呼ばれる。

このような、異物は有害なものとして排除することが基本とする「全身免疫」に対し、有害な異物は排践するが、無害な異物は見て見ぬふりをするという、きわめて高度な対応を実現させている免疫システムが存在する。それが「腸管免疫」と呼ばれる免疫システムだ。

■「経口免疫寛容」とは何か?

「有害な異物は排践するが、無害な異物は見て見ぬふりをする」という腸管免疫の高度な対応の一つが、「経口免疫寛容」と呼ばれる現象で、口から食べて入ってくるタンパク質に対して、免疫反応が抑えられる現象をいう。

食物にふくまれるタンパク質は、わたしたちにとっては異物。しかし、タンパク質は、口から胃、胃から腸と進むうちじ分解され、腸で吸収されるときにはアミノ酸にまで分解される。アミノ酸にはもはや抗原性はない。

ところが、タンパク質のなかには、アミノ酸にまで分解されずにタンパク質分子のまま腸で吸収されてしまうものがある。その数は、合計すると無視できない数になり、まともに免疫が応答すれば急激なショック症状をおこしてしまう。

このような危険を回避するために、わたしたちのからだには「経口免疫寛容」というしくみがそなわっている。

実は、「免疫記憶」と同様に、この「経口免疫寛容」のしくみもよくわかっていないらしい。

経口免疫寛容は、腸管粘膜に存在するT細胞が重要な役割を果たし、パイエル板(腸管の内面を覆う上皮細胞の直下に位置するリンパ小節の集合体)が、その司令塔を担っていると考えられている。
腸管免役系の働き

図はコチラからお借上しました。

また。腸内細菌の関与も確認されている。

しかし、詳しいメカニズムはまだ解明の途中にある。上図のようなフローだとして、非自己のなかで「どれが有用でどれが不用か」という判断を、抗原の何を目印としてどうやって認識しているのか?など不明な点は多い。腸管粘膜での免疫機能は、近年明らかになったばかりであり、今まさに研究途上段階にある。

■「経口免疫寛容」を生活に活かしてきた先人の知恵

「経口免疫寛容」は、現代の科学でも今だにその仕組みは解明されていないが、その現象は昔からよく知られ、経験的に生活で利用されてきた。

その事例として「漆職人」の話がよく知られている。「漆(うるし)」は皮膚に触れるとかぶれ(アレルギー)を起こす。しかし、漆職人はそんなことを言ってはいられない。そこで、漆職人の子供は、小さいころから漆を少しずつ舐めさせられ、漆アレルギーを防いでいた。

つまり、口らかはいっていた漆=無害と判断され(「経口免疫寛容」の成立)、それ以後は、漆が皮膚に触れても皮膚免疫系は反応しないという仕組みだ。

科学的なメカニズが分からずとも、先人は経験を積み重ね、その現象うまく利用すること代々伝えてきた。先人たちの知恵(そして勇気)には恐れ入るばかりだ。(最近注目されてる「食物アレルギーの経口免疫療法」は「漆職人の知恵」の現代版ともいえる)

経験的な知恵ではうまく活用出来ても、科学的なメカニズはいまだ不明…これは、科学的なプローチに何かボタンの掛け違いや見落としがあるためかも知れない。

次回、「食品アレルギーが起こるのは経口免疫寛容の異常」や「免疫システムは、自己と非自己を認識する」といった、科学的な常識・定説が本当に正しいのか?などを切り口に考えてみたい。

List    投稿者 seibutusi | 2015-08-11 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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