2015-07-16

免疫:3つの未解明の迷宮~1.免疫記憶

2,500年前に「二度なし」現象(一度感染症に罹患した人は次に同じ感染症にはならないという事象)の記録があるように、人類が経験的に免疫の存在を知ってから随分時間が経過しているが、実は、免疫について詳しく分かり初めてのは20世紀になってからだっだ。それ以後、20世紀の終わりから21世紀にかけて、免疫学の世界では、いくつかのブレークスルーがあり、最近でも、従来の免疫のイメージを覆す新発見が相次いでいる。

しかし、それでも未解明な領域がまだ多く残されているのが現状だ。その中でも「未解明の迷宮」とも呼ばれる、次の3つの免疫機能について考えてみたい。

  1. 免疫記憶
  2. 経口免疫寛容
  3. 腸内細菌と免疫の関係

 

今回は、獲得免疫特有の機能である『免疫記憶』を取り上げる。

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ウイルス、細菌などの招かれざる訪問者を排除する分子の番犬「抗体」

(写真はコチラからおかりしました)

ワクチンの有効性の原理でもある「 抗原投与による免疫記憶によって抗原排除に有利な抗体を作るという現象」の根幹をなす『免疫記憶』だが、実は、分かっていないことだらけ、というのが現状のようだ。

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■免疫についての歴史的記録

紀元前431年に始まった、アテナイを中心とするデロス同盟とスパルタを中心とするペロポネソス同盟との間に発生した、古代ギリシア世界全域を巻き込んだ「ペロポネソス戦争」、この全史を全八巻に記録した書物が『戦史』。

『戦史』には戦争中にアテナイを襲った疫病について詳しく書かれている。

「病人や死にそうな人は病気から回復した人々によって手厚く看護された。なぜなら彼らは病気の経過が分かっており彼ら自身はもう心配はなかったから。そして以前病気に罹ったものは2回は罹らず死ぬことはない」

これは免疫に関する世界最古の記述の一つ。2,500年も前に人類は、今でいう「二度なし」現象を観察し、記録していた。

 

■現象としては一目瞭然だが、免疫記憶のメカニズムはよく分かっていない

一度かかった病気には二度かからない。かかったとしても軽く済む。
この「二度なし」現象は、誰もの実体験とも符合し、免疫を代表するイメージとなっている。

実際、免疫の研究は「二度なし」現象にヒントを得たワクチン開発のからスタートしている。200年前にジェンナーが最初の天然痘ワクチンを開発以来、さまざまなウイルスに対するワクチンが開発され、医療に貢献してきた。

ワクチンが有効に働くためには、「免疫記憶」といわれる生体防御機構が必須であることが明らかとなっているが、実は、それにも係らず、“免疫記憶のメカニズム”は、現代でもほとんど分かっていない。

imuno1&2 この図をみると、免疫記憶という現象の存在が確認できる。

抗原の最初の侵入では、7日目あたりから抗体が増え始め、15日目あたりでピークになります。それが、二回目の侵入になると、7日目で初回のピークを大きく超え、10日目で初回の100倍近くに達する。すなわち、初回の侵入が記憶され、二回目の侵入では迅速にパワフルな対応が起きている。

(図はコチラからお借りしました)

このように「免疫記憶」は、“現象”としては一目瞭然だが、それにも係らずその“メカニズム”が解明できないのはなぜなのだろうか?
■記憶細胞はあるらしい、でも無いかもしれない?

記憶B細胞、記憶キラーT細胞、記憶ヘルパーT細胞。現在では、これらの細胞が存在することは確かであろう、とされているが、確実にあるとも言い切れないのが現状。その理由は、記憶細胞があったとしても、その数は少なく、著しく実験が困難なことにある。

そもそも免疫記憶の成立には、免疫記憶に特化した記憶細胞の存在が絶対に必要だとう言うわけではない。侵入した抗原が少量だけ体内で生き残れるしくみがあるのなら、免疫記憶の成立を説明できる可能性もある。また、免疫に係わる様々な細胞群れによりシステム全体として、抗原の再侵入に備えた体制を維持しているかも知れない。さらに、腸内細菌が免疫に関与ししている可能性もある。

このように決定打がなく、不確実な要素が多数残っていることが、根本的な解明をより困難にしている。

■免疫記憶のしくみ

とは言え、現在では、記憶細胞があるという前提のもと、次のような仕組みが想定されている。

まず1回目の感染で何が起こるか、T細胞についてみてみましょう。
抗原と出会う前のT細胞はナイーブT細胞といわれ、この状態では特に何も仕事をしません。

抗原を取り込んだ樹状細胞によって活性化されると、ナイーブT細胞は旺盛に増殖し、その後エフェクターT細胞という、仕事をする細胞になります。エフェクター細胞は、病原体に対して攻撃を始め、そのおかげで感染症はやがて治ります。

感染症が治ったあと、どうなるかをみましょう。
エフェクターT細胞はひとしきり仕事を終えると死んでしまいます。しかし、そのうちの一部が、メモリーT細胞になって生き残り、リンパ節などで長い間生き続けます。

2回目の感染があると、これらの細胞は1回目に比べて、速く、効率よく反応できます。それは、以下の理由からです。
1. メモリーT細胞はすぐにエフェクターT細胞になれる。
2. メモリーT細胞は沢山用意されている。

どうして感染症には2度かからないの?ー免疫記憶のしくみ」より転載

このような仕組みで、二回目の反応は迅速かつパワフルに起こると考えられている。

ただし、これは、そらくこういう流れであろうというだけで、詳細は不明。記憶B細胞、記憶キラーT細胞、記憶ヘルパーT細胞がそれぞれ記憶細胞とエフェクター細胞にわかれるメカニズムがも分かっていないし、記憶細胞が次の抗原侵入までどのように維持されるかも分かっていない。また、二回目の反応がどうして強いのか? その機構も詳しく分かっているわけではないらしい…。

免疫記憶に関しては分かっていないことだらけ、それが現状だ。

この免疫記憶の仕組みを利用したのがワクチンだが、現行のワクチンはその効力(持続性と活性)はいまだ完全とは言えない。例えば、従来の注射型ワクチンは、血液中のIgG抗体は誘導するが、腸管の粘膜面のIgA抗体は誘導できないことが分かっている。

このように現状のワクチンには改善する余地はまだまだ残り、その使用は慎重にならざるを得ない。むしろ使用しないほうが良いのかも知れない。このワクチンを誰もが安心して使えるものにするには、なによりも免疫記憶の仕組みを解明することが必要だと思われる。

 

参考にした書籍:ブルーバックス「新しい免疫入門」(審良 静男, 黒崎 知博)

List    投稿者 seibutusi | 2015-07-16 | Posted in ⑧科学ニュースより1 Comment » 

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コメント1件

 工藤憲雄 | 2015.07.21 18:45

がん転移遺伝子発現のがん細胞には「二度なし」現象はありません。発見されて15年以上経過しているが発見に免疫学会が関与していないという理由だけで無視しているのです。発見者は日本分子腫瘍マーカー研究会会員の工藤憲雄です。

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