2015-02-02

免疫系の司令塔が“がん細胞を守る”のはなぜか?

seigyosei-tsaibou2画像はこちらからお借りしました。

“細胞のがん化”が何を意味するのかを考える上で注目したいのが、「制御性T細胞」の働きです。

制御性T細胞とは、免疫システムの司令塔のひとつで、免疫の過剰反応(アレルギー症状)や自己攻撃を抑制する役割を担っています。
近年の研究によって、がん細胞の周囲には「制御性T細胞」が集まり、免疫細胞によるがん細胞への攻撃をさせないようにしていることが分かってきました。
この現象を踏まえ、制御性T細胞の働きを抑制し、免疫細胞によるがん細胞攻撃を促進する研究が進められています。

ただし、これはあくまでも“細胞のがん化が諸悪の根源”であるという前提での対応です。
細胞のがん化に伴い制御性T細胞が増殖し、免疫機構による攻撃を抑制しているのは確かですが、なぜそのような働きをするのか、そもそもこの現象が制御性T細胞の暴走なのかは分かっていません。

逆に制御性T細胞は、生命原理に則った働きをしている可能性も考えられるのではないでしょうか。

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前回記事で紹介したように、がん細胞は周囲環境の汚染により低下したオートファジー機構(細胞内に生じた不要物を分解・再利用する仕組み)の改善や、蓄積された毒物の排出・浄化機能を担っています。
こうした機能強化が汚染環境下で生き延びるためには優先されるからこそ、制御性T細胞は、免疫細胞にがん細胞を攻撃させないようにしているのではないでしょうか。

がん細胞 <stnv基礎医学研究室>より

「がん」発生時、私たちの免疫細胞はがん細胞の味方をする
レギュラトリーTリンパ球(制御性T細胞)はがんを取り囲んで守る

・細胞ががん化して生き長らえることが必要になった時、各免疫細胞はがん細胞を守り、「がん」が成長しやすいように振る舞う。
・リンパ球の一種であるレギュラトリーTリンパ球(レギュラトリーT細胞;制御性T細胞;Treg)はがん細胞の周りを取り囲み、たとえNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が近寄ってきても攻撃させないようにし、また攻撃しないように指令を出す。
・一般的にはがん患者の末梢血中のNK細胞の割合はかなり減少している。これは「がん」を増殖させるための生体の正常な反応である。
・もし、免疫細胞が「がん」を撃退しようとしているのならば、免疫力を上げるために体温は上がる、すなわち熱が出るはずであるが、「がん」が発生しても一般的には熱は出ない。
・微細な「がん」の検出とそれに続く「がん」の告知は過大なストレッサーとなり、リンパ球の数を更に減らすことになり、免疫力は更に低下する。
・「がん」を発生させたくないのならば、細胞内外環境を適正化することである。

実際、制御性T細胞は、永遠にがん細胞への攻撃を抑制し続けるわけではありません。
がん細胞による体内の緊急浄化措置が終われば抑制は解除されます。その後、免疫細胞によってがん細胞は消滅させられるのです。

がん細胞 <stnv基礎医学研究室>より

NK細胞や細胞傷害性Tリンパ球の存在意義は?
細胞内外環境が適正化すれば、「がん」を抑えて個体全体を生存させる

・体に「がん」が発生するとき、免疫系の細胞はがん細胞の育成に協力することは上述の通りである。
・しかし、がん細胞を増殖させると、個体全体としての生存が危うくなることを体は知っている。したがって、全身の個々の細胞が健全に生きられる細胞内外環境が整いさえすれば、がん細胞はNK細胞や細胞傷害性Tリンパ球(細胞傷害性T細胞;cyto-toxic T lymphocyte; TcまたはCTL)からグランザイムを注入され、自らアポトーシス(細胞の自滅)してゆく。

正常ながん細胞の自滅装置は壊れていない
だからこそ、必要でなくなれば自滅できる

・がん細胞は、自滅装置の遺伝子が変異したために無限増殖能を手に入れ、すなわちがん化したのだといった説明をする人もいるが、変異したのであればNK細胞もCTLも手が出せない。
・『正常ながん細胞』であれば、上述のようにNK細胞やCTLの協力を得て自滅装置の起動によって自滅可能である。
・「がん」が自然退縮してゆく現象が見られるのは、この理由からである。
・細胞内外環境が整えば、がん細胞は静かに身をひいてゆく。

改めてあらゆる生命体は、外圧に適応すべく存在しているという生命原理に立ち返って考えると、“細胞のがん化”は常態ではないものの、適応するための非常措置であり、制御性T細胞の働きも適応可能性に向かう一要素であることがわかります。

細分化して緻密に分析することは大事でもありますが、時に全体を見えなくしてしまうこともあります。
生命原理から大きな視点で捉えることが、本当の可能性を見いだすためには不可欠だと思います。

List    投稿者 seibutusi | 2015-02-02 | Posted in ⑥病気の起源、正体No Comments » 

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