2014-02-14

「かたちから自然の摂理を学ぶ」シリーズ1~すべてはより良く流れるかたちに進化する

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”有限大の流動系が時の流れの中で存続するためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない。”



森羅万象、自然界に現れる形は、なぜこのような形になっているのか?その背後にはどのような力が働いているのか?興味がつきません。
冒頭の一節は、熱力学の鬼才エイドリアン・ベジャンが唱えた物理法則です。
樹木、河川、動物の身体構造、社会の階層性、黄金比、都市の構造etc…生物・無生物に問わず、あらゆるもののかたちには共通構造があり、彼はそれを「コンストラクタル法則」と名づけました。
最初に彼の著書を目にした時は、自然認識が変わるような大きな衝撃を受けました。と同時に彼が何をいわんとしているか、この法則はあらゆる事象を言い当てているのだろうか?と興味や疑問が沸いています。
本シリーズでは、彼の著書「Design in Nature」(流れとかたち)に学びながら、万物の摂理に迫っていきたいと思います。生命を生物学という檻の中から解き放とうとするベジャンの試みに迫るため、途中途中では生物学からやや脱線しつつ紹介していきたいと思います。

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第一回目は、ベジャンが提起した「コンストラクタル法則」の概要を紹介します。

■自然界に現れるかたちは偶然か必然か
ベジャンの探求の出発点は、ベルギーの化学・物理学者イリヤ・プリゴジンの講演を聴いた時からはじまります。
ノーベル化学賞を受賞したこともある高名なプリゴジンは、講演の中で『河川流域や、肺の気道、稲妻など、自然界に豊富に見られる樹状構造の類似性は「アレアトワール(サイコロを振った結果)」である』と断言しました。つまり、自然界に見られるカタチはすべて単なる壮大な偶然の一致であると述べたのです。
ベジャンは、その時プリゴジンの主張が間違っていることに突如気づいたという。

”こうした樹状構造のものどうしの類似は、肉眼でもはっきり見て取れる。私は一瞬にして悟った。
世界は偶然や巡り合わせや運によって形作られているのではなく、多様性の背後には予測可能なパターンの流れがあるのだ、と。”

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■自然界がもつかたちの法則は説明口調?
自然界(生物界)がもつかたちの法則については、これまでにも様々な科学者が提起してきました。
フラクタル幾何学、複雑性理論、カオス理論、べき乗則、さらにはダーウィンの進化論etc…これらの法則の多くは、自然界(生物界)の現象をある程度は説明してくれると思います。
しかし、残念なのはたいてい説明口調であり、予測には向いていないという点です。
例えば、ネオ・ダーウィニズムは、たまたま起こった遺伝子の変異による形態の変異が、たまたま環境条件に適応的だったため、生存競争に有利になり、新たな形質を獲得=進化したと言います。
また、フラクタル幾何学は、数学的アルゴリズムによって、雪の結晶に似た形や樹木に似た形は作り出すことはできますが、それを作るまでの無数の試行錯誤と失敗作は世間の日の目を浴びることがなく、たまたま上手くいったアルゴリズムだけが紹介されます。
べき乗則についても同様で、大地震や津波の大きさと発生頻度の分布を一つの曲線で表してくれますが、「次にくる大地震や津波はいつなのか?」という問いには答えてくれません。
これらの法則は、科学者の観測結果と経験に基づいていて導き出されています。まず観察し、そのあとに考え、観察結果に見合う説明が考え出されます。全うな思考方法にも思えますが、どれも説明的で、予測には向いていません。
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左:C.ダーウィン 右:べき乗則
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フラクタルによって作られた樹木のパターン

■すべては流れを良くするために進化する
ベジャンは、自然界に現れるデザインをこう予測します。

生物・無生物の別なく、動くものはすべて流動系である。流動系はみな、抵抗(たとえば摩擦)に満ちた地表を通過するこの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す。
それは自然に自発的に現れる。そのデザインが、時とともに流れを良くするからだ。
流動系には二つの基本的な特徴(属性)がある。流れているもの(液体や気体、質量、熱、情報など)と、その流れが通過する道筋のデザインだ。
たとえば稲妻は、雲が放電するための流動系だ。稲妻は文字どおり電光石火の早業で、まばゆい分枝構造を生み出す。これは流れ(電気)を、一領域(雲)から一点(教会の尖塔、あるいは別の雲の一点)に移動させる。
この樹状パターンが自然界のいたるところで現れるのは、一点から一領域への流れや一領域から一点への流れを促進するためには、これが効果的なデザインだからだ。
個々の細流や樹木、道路など、進化をしている流動系の中で、各構成要素も進化を続けるデザインを獲得し、流れを促進するのだ。
こうした要素は一体化してますます大きな構造(進化を続ける河川流域、森林、輸送網)になり、さまざまな大きさの構成要素が協働するために、何もかもがいっそう流れやすくなる。
そして全体を眺めると、私たちを取り巻く最大の系、すなわち地球そのものの上で合わさり、形を変えていく流れは、地球全体の流れを良くするように進化する。”

熱力学第二法則の専門家であった彼は、温度や圧力などが「高」から「低」へと向かうという、あらゆる流れの基本的な傾向を熟知していました。そして、これに、時が経つにつれて流れやすくなるような「配置」で流れるはずであるという法則を加えて、再構成したのです。

以上、本日は、自然界のかたちがどのような変化を遂げて変わっていくかを見てきました。
万物は流れが良くなるように進化する。そして、その流れを促進する形と構造が、デザインとして現れることを示しています。
面白いですね!
この視点で世界を見渡していくと、今までと違った表情が見えてきます。背後に、何が、どのように流れているのか思いを巡らせることで、新しい気づきと未来への手がかりが得られるのではないかと思います。

List    投稿者 andy | 2014-02-14 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

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