2013-11-26

君もシャーマンになれるシリーズ27 ~脳回路の異常が幻覚を引き起こす~

 
前回(こちら)は、脳がみる幻覚世界を紹介しましたが、今回は「幻覚をみている脳」について具体的にみていきます。
 
現代人における幻覚は様々な要因で生じるのですが、共通点は「薬物」や「脳の過負荷」等による脳内神経伝達物質の過剰分泌(あるいは不足)によって生じる脳回路の異常です。その神経回路の異常が引き起こす「あらゆる刺激情報の脳回路への乱入と脳回路の暴走」によって脳は「幻覚」をみるのです。
 
脳回路上を制御・抑制されない情報が駆け巡るという暴走状態に陥った脳は、情報の繋がりを統合できずに混乱します。フィルターがかからないあらゆる刺激情報が直接脳に入力され、過去の記憶等が無秩序に呼び起こされます。その結果、自分とは違う何者かが脳に入り込んだ様な感覚に陥り、恐怖や多幸感に基づく過去の記憶に基づく幻覚を脳自身が創り出します。おそらく脳は、身体が生命の危機に陥るような混乱を避けるために、たとえそれが恐怖感覚であったとしても、そこ(幻覚)に収束することによって統合を図ろうとしているのではないかと考えられます。
 
混乱した脳が現実には存在しない世界を創り出す「幻覚」
欠乏を源とし現実を超えた世界を脳が自ら創り出す「観念」

 
その結びつきは、新しく拡大、形成された大脳を獲得した始原人類が、脳回路の暴走を元にした「幻覚」を生起させる中で脳が自ら回路を創り出し、統合するという「観念」の原型を形成した可能性として考えられます。観念の無い世界から、観念を創り出した脳の原型は今も残存し、「創造的」な脳を形成しています。
 
「幻覚をみる脳」と「観念を創り出した脳」を頭の片隅において頂いて、今回の「幻覚をみている脳」に触れて頂けると幸いです。まさに今、創造的な人類の脳が試されているのです。
(注:「あなたは幻覚をみている」という批判も喜んで受け入れます。)
 
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        幻覚をみている脳の状態        
 
「幻覚」は、病理的な要因や特定の薬物摂取、身体的あるいは精神的な危機によって生じます。要因はさまざまですが、脳においてはある共通の現象が起こっているのです。
 
以下に幻覚の事例とその原因をまとめます。なお、幻覚をみている脳の状態を調査・分析されているのは病理的な場合がほとんどであり、その他の場合の研究は進んでいません。
 
 
①統合失調症(精神分裂病)による幻覚 <ウィキペディアより
 
【症状】
統合失調症では「幻聴」が多くみられる一方、幻視は極めて希である。
幻覚を体験する本人は外部から知覚情報が入ってくるように感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすい。そのため、「悪魔が憑いた」、「狐がついた」、「神が話しかけてくる」、「宇宙人が交信してくる」、「電磁波が聴こえる」、「頭に脳波が入ってくる」などと妄想的に解釈する患者も多い。
 
幻聴はしばしば悪言の内容を持ち、患者が「通りすがりに人に悪口を言われる」、「家の壁越しに悪口を言われる」、「周囲の人が組織的に自分を追い詰めようとしている」などと訴える例は典型的である。また、幻味、幻嗅などは被毒妄想(他人に毒を盛られているという妄想)に結びつくことがある。なお、体感幻覚に類似するものとして、体感症(セネストパシー)がある。
知覚過敏の状態になりやすく、音や匂いに敏感になる。光がとても眩しく感じる。
 
【原因】 (注:原因は特定されていないが、有力とされるドーパミン仮説を以下に示す。)
精神分裂病の患者の脳の、どこの働きが亢進しているか調べると、脳の表面の大脳皮質ではなく、内部の芯の方にある大脳基底核(下図のピンク色)の活動が異常に亢進していることがわかってきている。精神分裂病の患者の脳は、大脳基底核の働きが失調していて大脳からの思考の出力を一本に絞ることがうまくいかないことから、思考が分裂すると考えられる。
 
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最近の研究で、激しい妄想や幻聴に悩まされる患者の脳では、ドーパミン・レセプター(受容体)の中のD4というタイプのレセプター(受容体)が増えていることがわかってきており、健常者の六倍にもなるという。脳幹に近い黒質という部分から上がってくるA9と呼ばれる神経の束が、大脳基底核に向かって伸び、標的の神経細胞に対してドーパミンを放出しており、それに過剰に反応する状態になっていると考えられている。このため、ドーパミン受容体遮断作用をもつ抗精神病薬の効果が認められている。この抗精神病薬は神経伝達物質であるドーパミンのレセプター(受容体)に蓋をして、ドーパミンによる過剰反応を抑制する効果があり、投薬によって幻覚はおさまる。
 
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②てんかんによる幻覚
 
【症状】<むさしの国分寺クリニック:9.てんかんに合併する心の問題:幻覚症状について>より
てんかんによる幻覚には、幻視、幻聴、幻臭、体感覚幻覚などがある。これら幻覚症状は発作の1症状として出現することもあるが、発作とは関係なく出現することもある。(注:てんかんの症状や原因はさまざま存在するが、ここでは幻覚に関連する内容のみを示す。)
 
幻視は実際にはそこにいない人・物が見えるもので、人間の顔が多数見えるとか、昔の風景が見えるとか、幽霊のような物が見えるといい、それらが動いたり自分に話しかけたりする
幻聴は人の声が多く、自分を非難したり、自分に指図をしたり、あるいは数人集まって自分の噂話をしているように感じる。その声は頭の中でささやくような小声で聞こえる場合もあれば、現実の声と区別がつかずに声の命令するとおりに動いてしまうことがある。
 
発作による幻臭はなんとも表現しがたい、いやな臭いが発作的に出現することが多い。発作と関係のない発作間歇(かんけつ)期の幻臭は主に、自分が「悪臭を発している」という思い込みが多い。悪臭はほとんどが「おなら」が出ていると感じ、周りの人が「くさい」といっているのが聞こえたとか、周りの人が鼻をつまむので臭がっていると思い込んだりする。
体感覚幻覚は体を虫が走っている、手足が伸びたり縮んだり、内臓が捩じれたりと奇妙な体の異常感覚を訴える。
 
【原因】<篠原内科外科耳鼻科:【てんかん】より>
脳神経細胞の過剰反応から、脳内に広がった電気信号の乱れによって、発作症状が起こると考えられている。脳に原因不明の律動異常が突然おこることで、非常に興奮しやすい脳のニューロン(てんかん原性ニューロン)が興奮し、その興奮が次々と脳の他の部のニューロンに伝わり、発作となる。てんかん原性ニューロンが発作を起こす原因は不明だが、誘発しやすい因子としては、低血糖、遺伝子、低二酸化炭素、低酸素血症、高体温、薬物、脳組織損傷、各種刺激(たとえば外界からの光刺激)などがある。
 
③アルコール依存による幻覚
 
【症状】
アルコール摂取を中断した際に様々な症状が生じる。重度になってくると「誰かに狙われている」といった妄想や振戦せん妄(小動物や虫などの幻視)、痙攣発作(アルコール誘発性てんかん)などが起きる。幻覚(幻視・幻聴)も頻繁に起こる症状で、小さな虫のようなものが見えたり、いるはずのない人が見えたり、耳鳴りや人の声が聞こえたりと症状は患者によって様々である。振戦譫妄(せん妄)が出現している時は、全くの不眠となる。
 
【原因】
アルコール依存症は一種の薬物依存である。乱用を繰り返すうちに「やめようとしても、容易にやめることができない状態」にいたる。アルコールや依存性薬物を摂取すると,脳内のドーパミンA10神経系(前出の図参照)が活性化されることによって,非常に強力な陶酔感や多幸感を感じる。繰り返し摂取することで,脳内の神経機能に異常が生じ、この感覚が忘れられなくなり、精神依存に陥ると考えられている。また、アルコール依存によって脳の萎縮が生じる。
 
一般に、アルコールは神経伝達物質の放出を抑制するが、アルコール依存成立時にはドーパミンやセロトニンの放出が増強される。アルコールの連用によって神経細胞膜の流動性の低下や膜結合蛋白質の構造変化が生じ、神経伝達物質の授受に影響を及ぼすと考えられている。
 
依存性のあるアルコールや麻薬等の反復摂取によって、シナプスにおける神経伝達物質の供給が減り、伝達物質受容体が増加する。そのため離脱(断酒)時には、受容体側の感受性が高い状態で神経伝達物質が復帰(増加)するため過度の反応が生じる。
 
④覚醒剤・睡眠薬等の薬物による幻覚
 
【原因】<幻覚のメカニズムより>
幻覚キノコを食べた人の脳では、新しい脳である前頭葉古い脳である視床で活動が高まっていた。視床は、体から脳に入ってくる情報のほとんどすべてが通る情報の関所であり、視覚情報は視床を通って視覚野に向かい、そこから前頭葉へ送られる。通常であれば、前頭葉による記憶や経験による判断が加えられて再度視床にフィードバックされ、視床はその判断に基づいて外部情報からの情報を取捨選択している。つまり、大量の情報が脳内に入り込むのを防ぎ、安定化装置(フィルター)としての役割を視床が担っている
 
幻覚キノコの成分であるシロシンやシロシピンは、脳内の神経伝達物質セロトニンと分子構造が似ているため、セロトニン・レセプターとよく結合する。シロシンやシロシビンが前頭葉のセロトニンレセプターと結合すると、前頭葉から視床に送り返されていた情報が途絶えてしまい、脳内のフィードバック機能(安定化装置)が阻害される。その結果、関所である視床の働きが弱まり、外部からの情報がとめどなく脳内に送られてしまう。それに加えて、脳内に蓄積されていた、ふだんは意識しない無意識の内部情報までが前頭葉に流れ込んでくる。これらの大量の情報が幻覚を引き起こす原因と考えられている。
 
⑤臨死体験による幻覚 <「スピリチュアリズム」苫米地英人より>
 
二つのことを事実として説明すればわかりやすいと思いますが、まずひとつはドーパミンをはじめとするありとあらゆる脳内伝達物質が、脳が壊れるときに大量に放出されます。ですからまず、気持ちが良い。脳幹の中心の中脳のところ、VTA領域からいくつかの経路が伸びていて、脳幹の中のドーパミン細胞からドーパミンが大量に出ます。要するに、臨死体験のときは超大量の脳内伝達物質が出て、凄く気持ちが良い体感をする。同時にありとあらゆる幻視・幻聴・幻覚が起こります。
 
もうひとつは、時間が無限に長くなっていきます。時間感覚が変わっていくわけです。たとえば走馬灯のように自分の人生の歴史を見るとか言いますが、それはあたりまえのことで、脳内の神経細胞が壊れるにあたってとてつもない脳内伝達物質が放出されますから、最後の最後に脳が超活性化されるのではないかと思います。線香花火の最後の一瞬のようなものです。すると、たくさんの記憶を同時に見る。脳は元々超並列的な計算機なのです。我々の脳はふだん生きているときは凄くシリアルに(ひとつずつ順を追って)認識しますが、つまり、ひとつのことを認識しているときは他を認識できません。それが臨死体験のときは、同時に全部認識するわけです。
 
⑫睡眠麻痺(金縛り)、ナルコレピシー(睡眠障害)による幻覚
 
【原因】
Saperらは、視床下部前部の睡眠中枢腹外側視索前野とモノアミン性の覚醒中枢が、相互に抑制性神経入力をすることに基づいて、視床下部が睡眠覚醒のスイッチとして働くという仮説を提唱している。
このモデルにおいて、オレキシンはスイッチを覚醒側に押して安定させる役割をはたす。ナルコレプシーではオレキシン神経の機能低下により、スイッチが不安定となって覚醒維持ができなくなり頻回の居眠りが生じ、睡眠覚醒リズムの多相化につながる、また、睡眠と覚醒の位相の切り替え後に睡眠覚醒の状態がすぐ安定化しないため、覚醒と特にレム睡眠の中間的な寝ぼけ状態が遷延し、レム睡眠関連症状の背景となる。
 
        脳と幻覚の基本構造        
 
統合失調症やてんかん、アルコール依存症、薬物による幻覚、臨死体験等による幻覚の原因から、幻覚をみる際の脳の共通点が見えてきます。その共通点とは、古い脳(爬虫類の脳)に属し、全ての感覚情報が集中する「視床」や「大脳基底核」から新しい脳である「大脳皮質」や「辺縁系」、「側頭葉」、「前頭葉」への経路に障害がおきると「幻覚」をみるということです。
 
下図に視床及び大脳基底核、大脳辺縁系等の位置を示します。視床は脳幹上部に二つ存在し、それを取り囲む形で大脳基底核(線条体や淡蒼球)や大脳辺縁系(扁桃体、海馬、帯状回、乳頭体、脳弓等)があり、その外側に大脳が位置します。
 
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脳幹の上部に位置する視床は、嗅覚を除く、視覚、聴覚、体性感覚などの感覚入力を新しい脳である大脳新皮質へ中継する重要な役割を担っています。詳しくは次回の説明となりますが、視床を通過した刺激情報は大脳に送られてから再び視床に戻る「ループ構造」をとっており、生の情報に過去の記憶や判断を加えた信号が視床に戻されることで適応的で統合的な反応を体全体に指令しています。幻覚は、この基本的な回路に異常が生じた状態だと考えられます。
 
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また、統合失調症やてんかん、薬物依存における幻覚の原因に見られる様に、この回路の異常には、神経伝達物質である「ドーパミン」が深く関与しています。ドーパミンを放出する神経系には、A9神経、A10神経と呼ばれる神経系があり(前出の図参照)、視床の下に位置する中脳から大脳基底核に対してA9神経系が、中脳から大脳の前頭前野に対してA10神経が延びており、このドーパミンの異常が脳回路の異常→幻覚を引き起こす要因になっています。なお、新しい脳である大脳の前頭前野は人類に特有の創造性を司る領域であり、その創造性にドーパミンが関与していると考えられています。
 
ドーパミンが過剰に増えると多くの神経回路が興奮状態に陥るとともに、刺激や判断情報が集約される視床へのフィードバックが滞ることで視床においては、内外からの刺激情報に対する抑制がかからず、脳内に生の刺激情報の全てが送り込まれる状態になります。その結果、過去の記憶等が無秩序に呼び起こされて幻覚が引き起こされます
 
ここではドーパミンを中心に説明しましたが、その他の神経伝達物質やその神経系によっても同様の現象が起きると考えられ、神経伝達物質の違いによって脳に異常が生じる場所と経路が異なり、幻覚の現れ方(症状)も変わってくると考えられます。各種の神経伝達物質や脳回路は相互に抑制しあう関係にあり、抑制しあうことで「脳を安定」させているのですが(詳細は次回)、神経伝達物質やその受容体の過多による異常が生じると、安定機能が無効化し、神経回路の暴走が始まり、幻覚をみることになります
 
なお、魚類以前からの脳の進化においても、新しく形成された脳と古い脳は相互に抑制しあう関係を創り出すことで進化してきており、脳回路における抑制機構とそれによる統合は、重要な脳の基本構造なのです。
 
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ご存じの様に、脳には神経回路が複雑に張り巡らされており、神経回路上に記憶が蓄えられると同時に、様々な状況に応じた判断や行動が導き出されています。「幻覚」は、それらの回路に異常が生じた場合に引き起こされるのですが、
そもそも「脳の安定状態」はどのように作り出されていて、異常な状態とはどういう状態なのでしょう?
また、脳回路はどのようなメカニズムで成り立っており、「観念」は脳内でどのように形成されているのでしょう?

 
次回は、脳回路の基本構造である脳の安定機能(興奮と抑制機能)、それに関連する学習機能について見ていきます。
「幻覚」はそれら回路の異常であり、「観念」は脳回路の自己形成機能だと考えられます。

List    投稿者 cosmos | 2013-11-26 | Posted in 4)サルから人類へ…, ④脳と適応, ⑬宇宙人・スピリチャル2 Comments » 

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コメント2件

 大谷良一 | 2016.07.30 7:52

脳や意識について興味を持っています。色々な知識をありがとうございます。

 うあ | 2017.02.12 18:23

シャーマンやスピリチュアリズムなど
何ら興味はないが、科学的な記事で素晴らしい。

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