2013-10-07

すごい畑のすごい土(2) 害虫を防除する「生物間相互ネットワーク」

「奇跡のリンゴ」を生んだ自然栽培の謎をひも解くシリーズ、第2回。
自然栽培は、化学肥料と合成農薬を使わずに、生物の力を使って栽培する農業であり、利用する「生物の力」は少なくとも次の3種類ある。
(1)肥料の代わりになる地力を高める「植物-土壌フィードバック
(2)殺虫剤の代わりに害虫を防除する「生物間相互作用ネットワーク
(3)殺菌剤の代わりに病気を抑える「植物免疫
今日は、前回(1)に続いて、(2)殺虫剤の代わりに害虫を防除する「生物間相互作用ネットワーク」を紹介します。
杉山修一氏の著書『すごい畑のすごい土-無農薬・無肥料・自然栽培の生態学』(2013年)より。
(写真は木村リンゴ園。見える山は岩木山。こちらよりお借りしました。)
%E6%9C%A8%E6%9D%91%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B4%E5%9C%922.jpg
応援、よろしくー

 にほんブログ村 科学ブログへ



害虫はどのようにして姿を消したか
ハマキムシが大量発生していたはずが
%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%A0%E3%82%B7.jpg木村リンゴ園では、無農薬栽培を始めた頃はハマキムシなどのリンゴの葉を食べる害虫が大量発生していました。手作業で捕った害虫を入れるビニール袋があっという間に一杯になるくらいの数でした。
世界で初めて、完全無農薬・無肥料栽培リンゴが誕生した年(1989年)も、被害は減ってきたものの、相変わらずハマキムシなどの食害は続いていました。それから15年ほど経ってようやく害虫は姿を消しました。
(右写真はハマキムシ。こちらよりお借りしました。)
なぜ姿を消したのか?
それは、天敵などの生物相が発達してリンゴ園内で害虫が増えることができなくなったと考えられます。つまり、リンゴ園の内部に「生物間相互作用ネットワーク」が発達してきたからで、これこそが自然栽培が利用する第二の「生物の力」なのです。
植物もコミュニケーション能力をもち、情報伝達手段は揮発性物質であることは、「生き物ってすごい!」第8回~植物の防衛策~にあるとおりです。
植物は、葉を食べられた時に揮発性物質を放出し、周りの植物はそのガスを自らもつセンサーで感知し、その情報を遺伝子に伝えて防御物質をつくり、将来予想される食害に備えます。
また、植物のコミュニケーションは植物間だけに限られず、葉が食べられた時、揮発性物資を放出して天敵を引き寄せ、害虫を殺してもらうシステムを持っていることが分かってきました。
木村リンゴ園では、リンゴと寄生蜂のコミュニケーションを通じたネットワークが確立している
木村リンゴ園では昆虫の数も種数も、隣接する慣行栽培リンゴ園に比べ多くなっています。
定置性の昆虫捕獲用のトラップを使って9月の2日間に二つのリンゴ園の昆虫相を調査したところ、木村リンゴ園では28の科にまたがる308個体が捕れたのに対して、慣行栽培リンゴ園では16科の57固体しか捕れず、種数で2倍弱、個体数で5倍以上の木村リンゴ園には多くの昆虫がすんでいることが分かりました。
%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%9C%82.jpg捕獲された昆虫の多くはリンゴに害を与えない生物でしたが、中には寄生蜂のように、ハマキムシなどのリンゴの葉を食べる害虫にとっての天敵もいます。体長数ミリメートルと小さい寄生蜂は、害虫の幼虫に卵を産みつけ、卵は幼虫の中で孵化し、その体を食べて成虫となります。
この調査では、木村リンゴ園では寄生蜂が121固体採取されたのに対して、慣行栽培リンゴ園では25固体しか捕れませんでした。
農薬をまかない木村リンゴ園ではハマキムシの天敵数も圧倒的に多い(調査では4.8倍)ことが分かります。
(右写真は寄生蜂。こちらよりお借りしました。)
%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%82%BD%E3%82%AC%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B4%E8%A2%AB%E5%AE%B3.jpgキンモンホソガは幼虫が孵化後直ぐにリンゴの葉の中に潜り、葉の内部組織を食べる害虫です。木村リンゴ園ではリンゴの葉の中に潜ったキンモンホソガの半数以上が寄生蜂に寄生され、死んでいることが分かりました。
(右写真はキンモンホソガによるリンゴ被害。こちらよりお借りしました。)
寄生蜂が多くすむことが、木村リンゴ園でのキンモンホソガの被害を抑えているのは間違いありません。
それ以上に、葉の中に潜って生活するキンモンホソガは、寄生蜂にとっても葉の表面から見つけることは難しいので、食害に遭ったリンゴの葉から何らかの揮発性のシグナル物質が放出されていると考えられます。
寄生蜂の数の多さもさることながら、リンゴと寄生蜂のコミュニケーションを通じたネットワークが木村リンゴ園で確立しているのでしょう。
そしてこのネットワークが発達し、農薬の代わりに害虫の大発生を抑えていると考えられます。
つまり、木村リンゴ園で害虫の被害を抑えているのは第二の「生物の力」であるこの「生物間相互作用ネットワーク」なのです。
――――――――――
如何でしたか。生き物は周りの生物との相互作用ネットワークの中の有機的な存在なんですね。
次回は、「生物の力」の三つめ、殺菌剤の代わりに病気を抑える「植物免疫」です。お楽しみに

List    投稿者 okamoto | 2013-10-07 | Posted in ⑤免疫機能の不思議No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2013/10/1423.html/trackback


Comment



Comment