2012-09-29

君もシャーマンになれるシリーズ15~脳はなぜ左右で分業したのか【日常行動の左脳】

『君もシャーマンになれるシリーズ12~シャーマン(予知・予言能力)の脳回路』に示されるように、シャーマンがその能力を発揮している時には右脳が活性化していることから、シャーマン脳のヒントは右脳にありそうです。今後シャーマン脳を追求していく上で、まずは右脳と左脳ではその機能にどの様な違いがあるのかを見ていきましょう。
 
脊椎動物の発生期には既に脳の基本構造は決まっており、右脳左脳の原型ができていました。長らく、言語や右利き、空間関係などの処理能力が脳のどちらか片側に特化しているのは人間だけの特徴で、他の動物は右脳と左脳の機能に差はないと考えられてきましたが、その背景には人類のみが特殊な進化を遂げた特別な存在=動物とは違う特別な存在だという思い込みがあったのです。
 
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最近になって、数々の観察や実験から、他の動物も左右脳の機能が分化していることが徐々にわかってきました。多くの脊椎動物は、左脳で「パターン化した日常的な行動」をコントロールし、右脳で「天敵に出くわすなど突然の場面での行動」をコントロールするといった役割があることが見えてきたのです。その基本機能は人間にも受け継がれていると見るべきでしょう。
 
このことは、シャーマン脳の右脳が、日常とは異なる危機を察知(予知予言)し、超常世界を認識することと無縁ではないのかも知れません。
 
それでは、右脳と左脳の機能分化について、以下の出典をもとに見ていきましょう。
(出典:Scientic American 2007年7月、日経サイエンス2009年10月)
本記事を含めて2回に渡ってお届けすることとし、本編では、日常的な行動をコントロールし、言語機能を担う『左脳』についてまとめます。
 

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 ■右脳左脳の分業は動物からの継承
ここ数十年間の多くの動物実験の研究から、動物の左右の大脳半球も独自の役割をもっていることが明らかになってきた。約5億年前に脊椎動物が出現したときには、大脳半球の機能差は基本的な形としてすでに存在していた。
 
もともと脊椎動物の左脳は、日頃よく知っている日常的な場面で確立した行動パターンの制御を専門としていた。対照的に右脳は感情喚起の中枢であり、最初は環境からの予想外の刺激の感知やそれに対する反応を専門としていた。ある特定の状態では脳半球の片側がおもに働くという傾向が初期の脊椎動物に生じ、おそらくこれが脳の左右分業の始まりとなったのだろう。すばやい反応が必要となる危険な状況では、右半球がおもに働くようになったと考えられ、右半球は環境からの刺激を受けての行動の中枢となったと考えられる。以下に、その具体事例を示す。
 
 
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 ■食べるための行動は左半球
 
脊椎動物の左脳が日常的な行動の制御に特化していることを裏づける証拠として、多くの脊椎動物の日常的な摂食行動では右側への偏りが見られることが挙げられる。
(注:脊椎動物の多くは神経回路が左右で交叉しており、右半身を左脳が、左半身を右脳がコントロールしている)
 
・魚類、爬虫類、ヒキガエルは、自分の右側にいる獲物を捕まえる傾向がある。
・ニワトリ、ハト、ウズラ、セイタカシギなどの鳥類は、おもに右眼に導かれてさまざまな種類の餌をつついたり獲物を捕まえたりしている。
・ニュージーランドのハシマガリチドリのクチバシが右に湾曲しているのは、おもに右眼を使って川底の石の下にいる餌を探すので、クチバシが右に曲がっている。
 
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                    ハシマガリチドリ
 
・ザトウクジラの観察では、75頭のうち60頭は右の顎だけにすり傷があり、他の15頭は左の顎だけにすり傷があることを発見した。このことは、クジラが海底の餌を集めるときには片方の顎を好んで使い、「右顎利き」の方が標準的だということを示している。
 
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                     ザトウクジラ
 
・霊長類(サル)に両手を協調させて使う、あるいはまっすぐ立たないとつかめないような高い所にある食べ物に手を伸ばすといった課題を与えた場合には、特に右手がよく使われることが明らかになった。同様に、好物のハチミツをプラスチックの短い筒に入れ、それを与えるとハチミツを掻き出すのに2対1の割合で右手を使う。
・霊長類は、食べ物を見つけるためのより難しくて複雑な課題に取り組むようになるにつれて、さらに利き手を好んで使うようになる。
 
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                  右手で道具を使うチンパンジー
 
要するに魚類、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類といったすべての脊椎動物は、通常の摂食行動において身体的に右側を使うという偏りを共通してもっていることを示している。これは祖先から受け継がれてきたものだと考えられる。

 
脊椎動物では、日常行動として代表的な捕食行動は身体的に右側(右眼、右手、右口)が使われることが明らかになってきています。右半身をコントロールしているのは左脳ですから、日常行動は主に左脳がコントロールしていると考えられるのです。
 

 ■左脳とコミュニケーション
 
音声言語も非音声言語も、人類出現のずっと前から存在していた動物に生じた大脳半球の機能差に由来すると考えられる。
 
・鳥類の研究では、左半球が歌を制御していることが明らかになっている。
・アシカやイヌ、サルでは、左半球が同種の仲間の泣き声を認知している。
・サルの一種であるコモンマーモセットが仲間の個体に向けて友好的な鳴き声を出すときには、口の右側を左側より広く開ける。ヒトも話すときには口の右側を左側より大きく開く傾向がある。
 
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                    コモンマーモセット
 
■言語の進化
 
摂食、発声、右手を使ったコミュニケーションなどの行動はすでに左脳によって制御されていたと考えられる。これらのうちどれが、どのようにして会話に変化したのだろうか?
 
下顎を上下させることは、噛む・吸う・なめるといった行動のためにすでに確立していた。その行動の副産物として下顎を上げるときに子音、下げるときに母音が作られ、音節が進化した可能性がある。しばらくすると、喉頭の発声能力とコミュニケーションに使われていた唇の開閉が組み合わさり、音に音節が形成されるようになったと考えられる。
 
初めは、音節は個々の概念を表すために使われ、単語を形成するようになる。その後に、物を表す単語(名詞)と動作を表す単語(動詞)という、文章の中で主要な意味をもつ2種類の単語を組み合わせるようになった。そして文章をつくる能力、つまり言語が進化したのだろう。
 
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                    文鳥とインコ

 
以上の事例は、日常的な行動の1つである発声機能や言語においても身体的な右側、すなわち左脳の優位性が認められることを示しています。なお、ここでは事例が少ないことと、運動機能としての発声や言語をつかさどる左脳の機能と、発声や行動の導因となる情動の領域との区別が明確ではないことに注意が必要です。しかしながら、人間も含めた脊椎動物で共通的な左脳の機能が明らかになりつつあることは意義深いと感じられます。
 
 
次回は、非日常、危機対応の『右脳』についてまとめます。(続く)

List    投稿者 cosmos | 2012-09-29 | Posted in ④脳と適応No Comments » 

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