2011-02-02

「続・人類の拡散」 シリーズ アウストラロピテクス・アファレンシス~ヒト?or類人猿?~

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 画像はこちらからお借りしました。
こんにちわ。「続・人類の拡散」シリーズ第3回です、前2回はプロローグとして、問題意識や化石の基本的知識を紹介しましたが、今回からはいよいよ具体的に追及していきます。
 今回は、アウストラロピテクス・アファレンシス(以下アファレンシス)。
 アウストラロピテクスは、「南の猿人」という意味を持ちます。また、アファレンシスの名は発見された「アファール」という地名から取った様です。要するにアファール地方で見つかった南の猿人という事ですね。
 アウストラロピテクス属は最古の猿人ではありません。例えばアルディピテクス属等は、アウストラロピテクス属より前に存在していた様ですが、A.アファレンシスはアウストラロピテクス属とヒト属の共通の祖先であり、現代のヒトに直接繋がっていると考えられています。
 そこで、本シリーズの最初に追及する猿人として選定しました。
 
 尚、学者によってどこまでA.アファレンシスと考えるか?が多少なりとも変わってくるのですが、今回は、一般的に共認されている範囲に限定しました。
 追求内容は以下の4点です。
①化石が発見された場所
②アファレンシスの存在時期
③アファレンシスの生存環境
④骨格的特長
あらためて調べてみると興味深い事も分かって来ました。
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①化石が発見された場所
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 アファレンシスの化石は、東アフリカで見つかっています。アファレンシスの化石が発見された遺跡とその特徴をまとめました。
 
 
(1)エチオピア ハダール遺跡 「ルーシー」「最初の家族」
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 最も有名な遺跡はエチオピアのハダール遺跡です。1974年に全身骨格の約40%を残すA.アファレンシスの化石が発見されました。 当時流行っていたビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」にちなんでつけられた「ルーシー」は、約330万年前に生きており、身長110cm、体重30kgの小柄な女性でした。
 この場所からは、翌1975年、13個体のA.アファレンシスの化石が発見され、「最初の家族」と呼ばれています。
 尚、2000年12月、場所はエチオピアの北東部で、約330万年前と思われるアファレンシスの約3歳の女児のほぼ完全な頭骨を含む全身化石が発見されました。この化石は「ルーシーの赤ちゃん」と名づけられました。
(2)タンザニア ラエトリ遺跡 「45mの足跡」
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画像はこちらからお借りしました。
 タンザニアのラエトリという遺跡からは、370万年前のアファレンシスの化石が発見されています。しかし、この遺跡では、骨もさることながら、動物の足跡に混じってアファレンシスが残したと思われる足跡が45mに渡って見つかったという事です。
 この足跡から、アファレンシスが直立二足歩行をしていた事が証明されました。
②アファレンシスの存在時期 
 アファレンシスの存在時期は、見つかっている化石の状態から概ね390万年前~290万年前と推定されています。この時代は約500万年前から約160万年前まで続いた鮮新世という地質時代にあたります。
 この時代に現代の動物相につながるものがほぼ出現し、ヒトの祖先もこの時代に誕生しました。アフリカではありませんが、この時代は南米大陸と北米大陸が繋がり、多くの生物の両大陸間の行き来が可能にり、北米の生物との生存競争にさらされた南米原産の生物は衰退し、絶滅したものも多かった様です。
③アファレンシスの生存環境
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サバンナ
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疎開林
 アファレンシスが生きていた鮮新世末期は、比較的温暖期の安定した気候で、現在の気候と比べて0~+2℃の変動幅を持っていました。花粉解析等の分析から、アファレンシスは河川や湖の近くの疎開林か森林で暮らしていた事が分かってきました。
 例えばハダ-ルのアファレンシスは疎開林で、ラエトリのアファレンシスはサバンナで暮らしていました。
 
 アファレンシスが熱帯環境に住んでいた事は体形と熱放散の観点からも推測されています。
 体形と気候は互いに関連付ける事が出来ますが、両者を関連付けているのは体温調節、すなわち産熱と放熱のバランスです。産熱と放熱のバランスは円柱の表面積と体積との比例関係に置き換える事が出来ます。(Bergmanの法則)
 手足等体の突出部は、体表面積を大きくして放熱量を増やす効果があります。従って、熱帯に住むヒトは細長い手足を持って熱放散の効率を高め、高緯度に住むヒトは手足が短くなっています。また、乾燥地等熱放散の効率が良い所に住んでいるヒトは背が大きくなり、ピグミーの様に湿度が高く熱放散の効率が悪い環境に住む人種は、熱の量を下げる為に体積を小さくします。(Allenの法則)
 表面積と体積の比はルーシーも現代の熱帯住民も同じです。またルーシーは背が小さく、ピグミーの様な体型をしていました。
 これらの事実はアファレンシスが熱帯環境に住みピグミーの様に湿潤な森の中に生活していた事を裏付けています。
④骨格的特長
 最後はアファレンシスの骨格的特長です。簡単に言ってしまうと、アファレンシスの骨格的特長は、「首より上は類人猿で首より下はヒト」です。要するにヒトと類人猿の中間という事ですね。
 それでは、詳細を見てみましょう。
【身体的特徴】 
 現在見つかっている化石から推測したアファレンシスの身長、体重、脳容量を見てみると、
・身長:男性;151cm、女性;105cm
・体重:男性;45kg、女性;29kg
・脳容量420CC
となります。
現在に比べて男女の差が大きいのが特徴です。
また、ヒトの脳の容量は1400CC、チンパンジーは400CCですから、脳に関しては類人猿並、という事ですね。
【顎と頭骨】
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 下顎と歯は類人猿と同様、現代人に比べて大きくなっています。一方脳容量で示されている通り、脳頭蓋は小さく、類人猿の脳頭蓋程度です。一方、歯は身体の大きさから想定される大きさの約1.7倍あり、歯の大きさが際立っています。
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【肩】 
 肩甲骨は類人猿とヒトの特徴が混在しています。
 肩甲骨と関節している上腕骨の関節面の丸みが弱い点がヒト的な特徴でこの事から、肩の周りの腕の可動域が少なかった事が分かっています。
 一方、肩関節がヒトの様に身体の横に向かずに、類人猿の様に上を向いていた。この事は、腕をしばしば上に伸ばし、枝からぶら下がっていたことを意味しています。
 
【手】 
 続いては手の特長です。アファレンシスノ「つまむ能力」や「骨の湾曲」から見ると、かなり類人猿に近く、母指が短く指先の幅が狭いという特徴を持っています。
 一方現代人の指先は幅広く多数の知覚神経が分布しており、この知覚神経が微妙な指さばきを可能にしています。
 ルーシーの手を観察すると、親指以外の指が長く曲がっている等、強力な把握に適応していたことが分かります。
 また、類人猿の親指は他の指に比べて短かく、ルーシーの親指は比較的長いことから、類人猿に比べれば細かい動きができたもののヒトの様にモノをつかむ動作には適応していなかった様です。
【骨盤】 
 二足歩行能力の診断に最も適した骨の一つは骨盤です。骨盤は脊柱下部の仙骨と、左右の寛骨によって構成されています。
 ヒトの骨盤は類人猿と大きく異なっています。一方類人猿は、寛骨が上下に長く、幅が狭く、内面が前方を向いています。一方、ヒトの寛骨は直立姿を支える為に、身体の左右側面から包み込むように丸く曲がっていて、内面が内側を向き、類人猿の寛骨よりもずっと幅が広く、短いという特徴を持っています。
 ルーシーの骨盤はヒトのように幅広で短くなっています。一方、「寛骨」の上部の「腸骨」は類人猿のように内面が前方を向いています。また、左右の寛骨とその間にある仙骨との耳上関節面も、ヒトに似た特徴を持っています。
 つまり、アファレンシスの骨盤は「腸骨」と「仙骨」がヒトよりやや広い以外は、ヒトと同様の状態であり、直立できた事は間違いありませんが、骨盤が左右に広がっているために、バランスを取るのが難しかったと推測されています。
【大腿骨】 
 アファレンシスの大腿骨の頸部は細長くなっていますが、これは横に広がった骨盤に関連する特徴であると考えられています。
 大腿骨頭と大腿骨頸のプロポーションは、類人猿とヒトでは似ています。一方、アウストラロピテクス・アフリカヌス等の後期アウストラロピテクス属の骨頭は直径が小さく、頸が長いという点で類人猿やヒトとは異なっています。アファレンシスはこの中間ですが、大腿骨に関しては、類人猿と現代人と同じ系譜には無い様です。
【足】 
 足の骨格は「類人猿」と「ヒト」の特徴が混在しており、下腿に対する足の角度は二足歩行をするヒトと同様に直角で、足のアーチがある程度は発達しています。
 一方、足の指は手の指の様に長く曲がっていて、親指は他の指とは離れている為、足の指でモノを掴むことが出来たのではないか?と推測されています。
 残念ながらアファレンシスの足の骨は保存状態が悪く、実際にモノを掴めたかどうかまではまだ完全に分かっていないのですが、リトル・フットと呼ばれ南アフリカかのステルクフォンテイン遺跡から出土したアファレンシスと同年代の化石は、モノを掴むことの出来た骨格を持っていました。
【ひざ関節】 
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 ヒトのひざ間接は前から見ると、大腿骨と頸骨が角度を持って接続しています。
一方、類人猿は、歩行中も立っている時も左右の膝と脚は離れている為、大腿骨と頸骨は一直線になっています。
 アファレンシスのひざ関節は膝に角度がある点はヒトと同様だが、類人猿の形態も多く残っており、基本的には樹上生活に主に適応した類人猿のような膝でありながら、膝の角度という点では二足歩行に適応する様に変化したと考えられています。興味深いのは、小型の化石標本は樹上生活に適応していた痕跡を多く残しているのに対して大型の化石標本はよりヒトに近い形態を持っている事です。男女異なる行動を取っていたのか、異なる種が存在していたのか気になる所ですね。
 以上、アウストラロピテクス・アファレンシスの特徴を見てきました。
 アウストラロピテクス・アファレンシスは、二足歩行に代表される様にかなりヒトに近いのかな?と思っていたので、かなりの部分で類人猿に近いというであるという次回からはホモ属について追求していきます。お楽しみに。

List    投稿者 arinco | 2011-02-02 | Posted in 5)人類の拡散No Comments » 

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