2010-11-30

雌雄の役割分化7~オスとメスが決まる仕組みとその進化

雌雄の役割分化シリーズの7回目です。
前々回、前回は「雌雄躯体分化」オスの躯体(個体)とメス躯体(個体)への分化を扱いました。
今回はその続き「オスとメスはどうやって決まるのか」「その仕組みは生物史のなかでどのように進化してきたのか」について考えてみたいと思います。

【雌雄の役割分化シリーズ記事】
雌雄の役割分化1 ~雌雄分化って何?~プロローグ  
雌雄の役割分化2 ~単細胞生物の「接合」~  
雌雄の役割分化3 ~雌雄分化の第一段階=殖産分化~ 
雌雄の役割分化4 ~雌雄分化の第二段階=精卵分化~ 
雌雄の役割分化5 ~雌雄分化の第三段階=雌雄躯体分化~  
雌雄の役割分化6 ~雌雄分化の第三段階=躯体分化(特殊編)~  

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■雌雄同体型→性転換型・環境依存型→遺伝子決定型
オスメスの性を決定する仕組みの進化は概ね3段階に整理できそうです。

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1.雌雄同体型
多細胞生物の初期段階は、雌雄同体です。殖産分化(生殖細胞と体細胞の分化)精卵分化(精子と卵子の分化)は進みますが、躯体としては同体で精子も卵子もつくります。
つまり、精子をつくるDNAと卵子をつくるDNAをどちらも持っており、2つの未分化生殖腺の一方が卵巣へ、一方が精巣へと分化して卵子と精子を出し、他個体の精子・卵子と受精して繁殖します。
原始的な多細胞生物である海綿動物はこの雌雄同体です。
また腔腸動物(クラゲ、イソギンチャクなど)、棘皮動物(ヒトデ、ナマコ、ウニなど)、原索動物(ホヤ、ナメクジウオなど)あたりまでは一部に雌雄同体の種も存在します。

2.性転換型・環境依存型
雌雄躯体分化の進化史にあるように、魚類の一部(タイ、カクレクマノミ、ベラ、ハゼなど)には、群れの中での体格差等の外的環境によって性転換する種が存在します。
オスからメスへorメスからオスへの一方向の性転換のみの種もありますが、オス←→メスの転換を何度もできる魚もいます。
この仕組みは一体どうなっているのでしょうか???

※参考:性転換と脳の連関性~オキナワベニハゼの例

は虫類の中ではワニやカメなどは、卵の孵化時の温度でオスになるかメスになるか決定します。
この仕組みは??? 

この性転換型・環境依存型の段階では、雌雄の躯体は分化していますが(雌雄異体)、性決定については固定ではなくある種あいまいな部分を残しています。

3.遺伝子決定型
哺乳類や鳥類は、遺伝子によってオスになるかメスになるか決定します。
哺乳類はいわゆる性染色体がXX型だとメス、XY型だとオス。鳥類はZW型がメス、ZZ型がオスです。
※参考:性決定メカニズム~鳥類の性決定遺伝子

これらは遺伝子によって雌雄はシンプルに固定され躯体が形成されるため、環境要因等による変動や性転換は生物学的にはありません。

厳密には2と3の中間に、2’.環境/遺伝子決定併存型の生物が存在します。
※参考:フトアゴヒゲトカゲの性決定

■造卵拘禁因子、造精拘禁因子→ヘテロ染色体の成立

上記のように、性決定の仕組みは単一ではなく、様々な種があることがわかります。
しかし、生物進化は「塗り重ね構造」ですから、性決定の仕組みの進化は一見バラバラなように見えても、構造的に説明できるはずです。
その仮説を以下に整理して紹介します。

(1)精巣と卵巣の分化【雌雄同体型】
→卵巣形成DNAおよび精巣形成DNAが、成長に伴って同時に発現
→2つの未分化生殖腺の一方が卵巣、一方が精巣に分化し同時に機能する

(2)造卵・造精拘禁因子の登場【性転換型・温度依存型など】
g:造卵拘禁因子、l:造精拘禁因子
→gがl及び卵巣形成DNAを、lがg及び精巣形成DNAを、相互に拘禁する関係
→温度・体格・pH等の影響で拘禁因子に強弱が生じ2つの生殖腺が精巣か卵巣の一方に統一される
→精(卵)巣由来のホルモンが躯体をオス(メス)化

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「造卵・造精拘禁因子」がポイントになりますが・・・なぜ「拘禁」因子が存在すると言えるのか?
生物はもともと雌雄同体であったこと、オスメスどちらにもなれる(性転換する)種が存在することを考え合わせると、オスorメスに誘導もしくは促進する因子だけでなく、大元にどちらかの性を「拘禁する因子」が存在することは論理的に整合します。

(3)ヘテロ染色体の成立【環境/遺伝子決定併存型など】
→拘禁因子g及びlの強弱が、相同染色体の間で偏る
→通常はホモ/ヘテロ躯体各々の拘禁因子総体の強弱でオスメスが決定
→温度・pH等の状況により、拘禁因子の強弱関係が変化し環境決定型となる

(4)ヘテロ染色体の特化~遺伝子決定型の確立
→ヘテロ/ホモ染色体間の組み換え・修復領域が縮小する
→ヘテロ染色体に固有の変異が蓄積
→非組み換え・修復領域の欠失によってヘテロ染色体が短縮化

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■まとめ
オスメスを決定する仕組みは、雌雄同体型→性転換型・環境依存型→遺伝子決定型へと進化してきました。そのメカニズムも造卵拘禁因子、造精拘禁因子→ヘテロ染色体の成立へと進化してきました。
これは基本的にオスメスの差異を促進していく方向、オスメス各々を固定化していく方向での進化だと考えられます。

我々哺乳類のような性決定システムが確立されるまでに、壮大な進化のドラマがあったのですね。

List    投稿者 iwaiy | 2010-11-30 | Posted in ③雌雄の役割分化No Comments » 

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