2010-08-19

原猿から真猿へ10 ~旧世界ザルの進化と特徴~

前々回の記事では、「真猿の進化系統」の概略と真猿の共通祖先といわれる「オモミス類」について、そして前回の記事では系統樹から枝分かれして、南米大陸に渡り独自の進化の道を歩んだ「新世界ザル(広鼻猿)」について紹介しました。
今日は「旧世界ザル(狭鼻猿)」について、その進化過程と機能(本能機能、共認機能)上の特徴、オスメス関係、集団構造等について調べてみます。

※旧世界ザルとは、ユーラシア(アジア)、アフリカに生息する真猿で、約50種が現生。オナガザル亜科、コロブス亜科に分類され、ニホンザルをはじめとするマカク類も旧世界ザルを代表するサルです。

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■霊長類の進化系統と旧世界ザル、ホミノイド
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旧大陸の霊長類は、オナガザル科とコロブス科を含む「旧世界ザル」と、類人猿やヒトを含む「ホミノイド」の2つのグループに分かれて進化しました。
この2つのグループが分岐したのは、漸新世後半(約3000~2500万年前)と考えられています。

■中新世の旧世界ザルの特徴
中新世前期にアフリカ大陸で旧世界ザルの祖先が出現した後、葉食性のコロブス類と果実を中心とした雑食性のオナガザル類に分かれました。特徴としては、上下顎の臼歯の構造が特殊化しており、葉食に適している点が挙げられます。

○オリゴピテクス:約3200万年前に登場。32本の歯を持っており、現在の旧世界ザルの歯数と同じ。体重約1.5kg。
○ビクトリアピテクス、メソピテクス:中新世(2300~500万年前)に登場。アフリカだけでなく、ヨーロッパでも発見されている。
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オリゴピテクス
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メソピテクスの頭蓋骨

■中新世の旧世界ザルとホミノイドの進化
中新世には旧世界ザルとは別グループのホミノイド(類人猿)が存在しましたが、こちらは栄養価の高い果実食を特徴としそれゆえ大型化したと考えられています。
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○プロコンスル:2300~1400万年前に繁栄。エジプトピテクスの子孫と考えられている。森林地帯と樹木がまばらに生えたサバンナ地帯に生息。プロコンスルはもともとアフリカの赤道付近で誕生。当時はアフリカ大陸とユーラシア大陸は分断していたが、1700万年前に大陸が衝突しユーラシアに移動できるようになり、やがてその一部はドリオピテクス(オランウータンの祖先)となったと考えられている。
※画像引用元:人類の起源 同朋舎出版


中新生前期は旧世界ザルに比べて大型化したホミノイド(類人猿)が種間勢力的にも優勢でしたが、その後は旧世界ザルの方が繁栄していきます。
(現在も旧世界ザルが広く分布しているのに対して、ヒトを除くホミノイド(類人猿)は数も少なく生息域もごく限られ絶滅が危惧されています。)

これは、気候変動と両者の食性の違いが要因ではないかと考えられます。
中新世(2300~500万年前)は、約4000万年前から始まった地球寒冷化の延長上にあり、中新生前期は一時的に気温が上昇し安定した気候でしたが、後期から再び寒冷・乾燥化が始まります。
おそらく果実食を主軸としたホミノイド(類人猿)は熱帯雨林から生息域を拡げられず、葉食、雑食の旧世界ザルは厳しい環境の中でも生息域を拡散させていったのではないでしょうか。

こうしてアフリカだけでなくユーラシア(アジア・ヨーロッパ)へと進出した旧世界ザルは、様々な外圧、種間闘争圧力、同類闘争圧力に対応して、真猿に特徴的な機能や集団構造を形成していきます。

※その後「ホミノイド(類人猿)」が辿った進化については、次回「原猿から真猿へ11」類人猿編で追求しますので、お楽しみに!

※参照サイト:
京都大学霊長類研究所「霊長類の進化とその進化系統樹」
京都大学自然人類学研究室
共通祖先は意外と新しい?=ヒト・類人猿と「旧世界ザル」-新化石発見・サウジ

■現生旧世界ザルの特徴
ここからは、現生の旧世界ザルの特徴についてまとめてみます。

●生態、食性等の特徴
・基本的には果実食だが、種子や花、芽、葉、樹皮や昆虫なども食べる。オナガザル亜科は頬袋を持っていることが特徴。コロブス亜科はいくつにもくびれた胃を持つこと(葉食に対する適応)、手の親指が著しく短い特徴がある。
・樹上生活を基本としながら、木を降りて地上で多くの時間を過ごす半地上性のサルもいる。
・尻ダコを持っていることが特徴で、ふつう1産1仔で双子は非常にまれ。

●メスの性機能、生殖収束
・性的二型(オスメスの性差)が比較的大きい種が多い。
・メスは発情期や月経周期に沿って性皮膨張が見られる種が多い。カニクイザルやニホンザルのように顔や性器周辺が赤くなるもの、また交尾、出産に季節性のない種もいる。
・多くの種において、母親以外のメスによる新生児の子守り行動が出産直後から頻繁に見られる。
・厳しい環境(天敵、乾燥etc)に生息するサルのほうが多産の傾向がある。
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発情期のニホンザル(画像引用元:自然の摂理から環境を考える)

●母系の単雄複雌群、複雄複雌群
・基本的な社会単位は「母系」。オスは性成熟を迎える頃には生まれた群れを離れるが、メスは生涯を生まれた群れで過ごす。母と娘の関係はおとなになっても続き、血縁メス間の関係は親密。メス間の順位は血縁を反映し、娘たちが母親の序列関係を受け継ぐことが多い
・例外としてアカコロブスが父系と言われているが、これは基本的にオスもメスも成熟すると群れを出るが、メスが他の群れに受け入れられるのに対して、オスは受け入れられず生まれた群れに戻ってくるケースが多いため。純粋な父系とは言い難い。
・「単雄複雌群」(森林性のグエノン、パタスザル、アジアのコロブス類)、「複雄複雌群」の種がいるが、総体としては、「複雄複雌群」が主流。
・新世界ザルのようなペア型は見られない。
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ニホンザルの複雄複雌群(画像引用元:福田史夫の世界)
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キンシコウの単雄複雌群(画像引用元:福田史夫の世界)

●群れ内のコミュニケーション、集団統合
・「優劣関係や血縁関係によって厳しく統制された社会」(個体間に優劣順位があり食物や交尾相手などへの優先権をもつこと、採食や休息時に血縁個体同士がまとまってグルーミングなど)から「ゆるやかな優劣スタイル」(群れの中で優劣関係や血縁関係があまり顕在化しない)まで、集団形成や行動面の特徴は、種間の違いでかなり変異がある。
・「序列規範を示す行動」(ディスプレイ、グリンなど)、グルーミングなどの「親和行動」、群れ内のいざこざの後の当事者間での「仲直り行動」、緊張緩和のための「ブリッジング行動」などが特徴的。
・天敵が多い環境に棲むサル(サバンナザルなど)は、訪れた危機の種類に応じて異なる警戒声を発するなど、音声コミュニケーションを発達させている。
・ドゥクザルのように食物分配を行う種もいる。

●同類闘争
・群れ同士の関係は基本的に敵対的な種が多く、複雄複雌群の場合、縄張り防衛はオスの役割となる。また交尾期に群れ外からの単独オスの侵入を防ぐ。
・単雄複雌群の場合は、メスのほうが積極的に縄張り防衛行動をとるケースもある。
・コロブスの多くの種では、おとなオスがラウドコールと呼ばれるはっきり大きな声を出す。オスのラウドコールは他の群れに向けられ、群れ間の空間配置を調整していると考えられている。また、グループのまとまりの維持、メスの誘引に役立っているとも考えられている。
・現生のサルは比較的安定した棲み分け分布となっており、同類闘争は概して衰弱しており、様式化(儀式化)されている。
※参考:同類闘争の安定化と衰弱の一般則  

●ヒヒの重層的集団構造(複雄複雌群の分節化→単雄群の形成)
・マントヒヒやゲラダヒヒは単雄的なものが集まってより大きなまとまりをつくる重層的な社会構造を示す。最小単位は、一頭のオス+数頭のメス+子どもからなるワンメイル・ユニットで、このユニットが複数集まって(+単独オスやオスグループも一部加わって)多段階的に上位の大きな集団を形成する。
・進化史的には、複雄複雌の大集団が分節化されて単雄群が形成されたと考えられる。おそらく、外圧(外敵闘争や同類闘争)が安定化、衰弱するに従っての変化と思われる。
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マントヒヒのワンメイル・ユニット(画像引用元:京都大学霊長類研究所)

※参考文献:サルの百科 杉山 幸丸ほか著 データハウス (1996/06)

■まとめ
現生する旧世界ザルの事例から、オスメスの役割分化(オスは闘争、メスは性・生殖)共認機能の進化および集団統合の進化(母系の複雄複雌群、共認統合と序列統合)といった特徴を見てきました。
これらは、我々人類へと受け継がれていく特徴でもあります。

進化史的に見れば、外圧環境の変化によって真猿間の種間闘争および同類闘争が激しくなっていったこと、それらが契機となって原猿後期に獲得した共認機能をさらに進化させていったことによって、こうした機能や集団構造を形成していったのでしょう。

次回は「類人猿」編へと進みます。
旧世界ザルと類人猿の違いは? 進化過程で何が起きたのか? 追求していきます。
どうぞお楽しみに!

List    投稿者 iwaiy | 2010-08-19 | Posted in 4)サルから人類へ…No Comments » 

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