人間は冬眠できるか?
冬眠するシマリス
カエルやヘビが冬眠することはよく知られていますが、外気温により体温が変化する変温動物の場合、気温が下がれば(生理活動を司る)酵素活性が下がり、活動しにくくなります。
一方、全種が恒温性を獲得し、行動能力の上昇や生活領域の拡大に成功した哺乳類も、餌が不足する時期は体温を維持することが困難となります。そこで、シマリスやコウモリなどの小型哺乳類の一部は、爬虫類のようにジッと春を待つ戦略(冬眠)を採ります。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=127680
ところで、
人間は冬眠できるのでしょうか?
シマリスの場合、38度ある体温が冬眠時は、2.8度~8度にまで下がりますが、人間の場合、こうした低体温には耐えられずに凍死してしまいます。 😥
凍死というのは、身体を構成する細胞の代謝機能が低下し停止に至ることで、まず問題になるのが心臓です。
心臓の細胞は、他の筋肉細胞の同様、カルシウムイオン(Ca2+)が動かしています。筋肉の収縮には欠くことのできないもので、Caイオンの濃度によって収縮-弛緩を繰り返しています。
(画像はエーエルジャパンさんからお借りしました)
ところが、代謝機能が低下し細胞中のATP産生が減ると、細胞膜が持つ統合的機能が低下してCaイオンの過剰流入が起きます。
つまり、体温の低下が起きると、心臓細胞へのCaイオンの過剰流入が起き、その結果、心臓細胞は収縮が出来なくなり停まってしまうのです。
では、なぜシマリスは2.8~8度という体温を維持したまま冬眠できるのか?
冬が近づくと、シマリスの心臓細胞は細胞外からのCaイオンの流入を止め、細胞の筋小胞体内にあるCaイオンを循環させる仕組みに変わります。そうやって、体温が下がってもCaイオンの過剰流入(による心停止)という事態を回避できるので、一分間に数回というペースで心臓を動かし続けられるのです。
したがって、そうした仕組みを持たない人間は、シマリスのようには冬眠できないことになります。
ところが、なんと!神戸の六甲山で遭難した男性が「冬眠状態に陥ったのではないか?」と、ニュースになったことがあります。
「冬眠状態」奇跡の生還 六甲山遭難の兵庫の男性退院
神戸市の六甲山で10月に遭難し、24日ぶりに救助された兵庫県西宮市職員の打越三敬(みつたか)さん(35)が19日、奇跡的な回復力を見せて病院を退院した。意識を失ったまま20日以上も飲まず食わずで、発見された時は体温22度、心肺停止状態だった。持っていた焼き肉のたれと水で飢えをしのいでいたとも伝えられたが、意識があったのは2日間だけで、「たれは数滴試しただけ」という。治療にあたった医師は、低体温の「冬眠状態」だったことが幸いして回復できたのではないかと分析している。
医師らの説明によると打越さんは10月7日、六甲山頂付近で同僚とバーベキューをした後、1人で下山しようとして道に迷い、約10メートルのがけ下に転落。骨盤を骨折して歩けなくなり、2日後に意識を失った。同31日に心肺停止状態で発見されたが、翌日の夕方には意識も戻ったという。
体温が25度を下回ると死亡率が高まるといい、医師は「冬眠状態に近かったため、臓器の機能は落ちたが、脳の働きは回復したとも考えられる」などと説明している。
http://www.asahi.com/national/update/1220/TKY200612190461.html(リンク切れ)
シマリスの場合、冬眠特異タンパク質なるものを持っているようですが、それを制御する遺伝子は哺乳類に共通な機構を使っており、冬眠するようになったのは、恒温性を獲得した後、つまり哺乳類に進化して以降のようです。つまり、ヒトも同じ遺伝子を持っていることになります。
シマリスの冬眠特異的タンパク質HP-20,-25の遺伝子の肝臓特異的な転写が,哺乳動物に共通に存在する転写因子HNF-1,-4によって制御されていることが明らかになった。従って,哺乳動物の冬眠は,冬眠動物特有の特殊な機構によって成り立っているのではなく,むしろ哺乳類に共通な機構を冬眠用に再調整することによって行われている可能性が強い。
http://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/seibutsu/joho/studies01.htm
したがって、人間も、適切な環境を人工的に作ることで冬眠できるのかもしれません。研究者は、シマリスの長寿命(11年)から、冬眠することで寿命が伸びるのでは、とも言っているようです。
昔から「寝る子は育つ」と言いますが、果たして「冬眠する人は長生きする」となるのでしょうか?
それにしても、「長生きしたいから、冬眠する」なんていう事を言い出す人が居るとは思えませんけど・・・
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