2009-08-19

プラスミドはどこからきたのか?2-不完全な生命同士の遺伝子交換  

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プラスミドの特性(遺伝子の水平移動ウイルスとの類似性自己複製機能)を考えると、プラスミドの起源について、3つの仮説を立てることができます。
(プラスミドの特徴は前回の投稿をお読みください)
つ目は、『ウイルス起源説』
つ目は、『細胞内遺伝子の切れ端説』
そして つ目は、『生命共同体説』
果たして、どの仮説が論理整合性があるのでしょうか?
プラスミドの起源を辿る前に、まずはクリックお願いします
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1.『ウイルス起源説』                                  
ウイルスとプラスミドの類似性の一つに、『遺伝子の水平移動』という特徴があります。両者は生物の変異を司るという点で非常に似た特徴をもっており、原核生物に感染するウイルスの中には、細胞内で安定状態を保つことが確認されています(ex.バクテリオファージのプロファージ)。
これがプラスミドの原基ではないかと推測する事もできます。

-ウイルス起源説-
『細胞分裂』→『遺伝子の切れ端発生』→『殻に覆われた遺伝子が細胞外に流出=ウイルス誕生』→『ウイルスが原核生物に感染』→『プロファージとして細胞内で休眠→プラスミドの形成』

一方この説は、『自己複製』できるというプラスミドの特徴を説明しにくい
ウイルスはそれ自体が『自己複製機能』を持っておらず、あくまで宿主細胞に感染することで、たんぱく質の殻を複製することができますがが、プラスミドは細胞内の染色体とは別に『自己複製機能』を保持しています。
ここで進化論的側面で考えると、一度自己複製機能を失ったウイルスが、宿主細胞内に感染後、改めて『自己複製機能』を獲得する、ということは考えにくい。ウイルスの中には、宿主細胞に感染後、休眠状態を保つプロファージが存在しますが、それでもプロファージ自体は『自己複製機能』は保持していない。
したがって『ウイルス起源説』には矛盾がある。
では、逆にプラスミドからウイルスが生まれたとは考えられないのでしょうか?
2.『細胞内遺伝子の切れ端説』                                      
プラスミドからウイルスが生まれたと考える学説は多い。では、プラスミド自体は一体どのように形成されたのでしょうか?
考えられる仮説が、『細胞内遺伝子の切れ端説』です。
つまり、生物が細胞分裂した際に発生した大量のDNA(又はRNA)の切れ端が、たまたま環状構造となり、そのまま体内に残ったものがプラスミドとなった。そのプラスミドの一部が、ウイルスを包む殻の遺伝子を宿主遺伝子から獲得し、細胞外に流出。これが、のちのウィルスとなったとする説です。

-細胞内遺伝子の切れ端説-
『細胞分裂』→『遺伝子の切れ端発生』→『切れ端の遺伝子が環状構造をとり、プラスミドを形成』→『殻の遺伝子をもったプラスミドが細胞外に流出』→『ウイルスの誕生』

この説は一定の論理整合性を持っていると思いますが、「なぜプラスミドは『遺伝子の水平移動』という特徴を持っているのか」という疑問に対する答えを説明できません。
では、プラスミドが『遺伝子の水平移動』という特徴を持つに至った背景とはどのようなものなのでしょうか?
3.『生命共同体説』                                            
プラスミドが原核生物のどの段階で形成されたかはよく分かっていませんが、古細菌・真正細菌の多くのがプラスミドをもっていることからも、生物誕生の初期段階からプラスミドは形成されていたと考えられます。
また、少し視点を変えて微生物の生存様式を調べてみると、ほとんど全ての微生物は「バイオフィルム」の中で共同生活を営んでいることが知られています。

>バイオフィルム内では他種類の細菌が高密度で生息していて,お互いに代謝産物やエネルギー,情報のやりとりをしていて,遺伝子の交換も起こっている。このことで,単独の細菌にはない機能を生み出すと同時に,多種多様な環境変化にも対応できるようになる

バイオフィルム~微生物共同体より
このような微生物の生活様式を考えると、始原生物は、単独かつ完全な状態で存在していたのではなく、バイオフィルムのような防護域の中でコロニーを築き、頻繁にエネルギー、情報、そして『遺伝子』を交換していた、考えられます。
そして始原生命の生存様式から類推すると、プラスミドの起源について、以下のような仮説を立てることができます。

①生命誕生の黎明期は、不完全なDNA(原基プラスミド)をもった始原生物が、群として生存していた
②彼らは、個体としてではなく集団として生存域を確保し、バイオフィルムのような防護域の中で、頻繁に遺伝子の水平移動を行いながら外圧に適応していた
③その過程で、複数のDNAがくっつき、遺伝子数を増やして現在の原核生物が持つような染色体が形成された(注1)
④一方、染色体に取り込まれずに、水平移動機能を保持するDNA(=原基プラスミド)がのちのプラスミドとなった

つまり、完全な染色体の切れ端からプラスミドができたのではなく、始原生物同士が共同生活を行い、頻繁に遺伝子の水平移動を起こす過程でプラスミドができたのではないでしょうか?プラスミドの「遺伝子の水平移動」という特徴は、始原生物の生存様式に由来していると考えれば、論理が整合します。

-生命共同体説-
『原始生命は不完全な状態で誕生(不完全なDNA=原基プラスミド)』⇒『バイオフィルム内で共同体形成』⇒『遺伝子の水平移動による外圧適応』⇒『異なる生物同士のDNAがくっつき、現在の染色体を形成』⇒『染色体に組み込まれなかったDNAがプラスミドを形成』⇒『殻情報を持ったプラスミド(又は原基プラスミド)が細胞外に流出』→『ウイルスの誕生』

注1 プラスミドの大きさは、細胞の染色体DNAと比べてとても小さいことが知られています(染色体DNAの0.01~5%)。詳しくはコチラ
以上が、プラスミド形成のシナリオ(仮説)です。補足又は別の切り口があれば、ぜひコメントを下さい
さて、前回の投稿にもあるように、プラスミドは、一部の生物を除いて真核生物以降はなくなってしまいました。
プラスミドはいったいどこへ行ったのでしょうか

List    投稿者 andy | 2009-08-19 | Posted in ①進化・適応の原理3 Comments » 

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コメント3件

 あれっくちゅ | 2010.01.23 2:30

先日の“鳥類について”なんですが。しばらく頭から離れなかったんですが、
ちょっと思いついたのが、卵の段階ですでに性別が決まっているって事ですよね。
スーパーで売っている無精卵も雄になるはずだった卵と雌になるはずだった卵があるはずです。
と言うことは哺乳類のように性別は偶然決まるのではなく、
雌がコントロールできるのではないかと言うことで、
産み分けをしているのではないかと思って検索してみたら、
http://blog.livedoor.jp/tunes1/archives/51390602.html
こちらにその答えに近いような記事がありました。
私がブログのコメ返に書いた、”一人で育児が出来る女性は不倫した方が良い”に書いたのと近い考えだと思うんですが、
この場合この女性は男の子を産んだほうが良いのですが、
人間の場合は偶然に任せるしかないのですが、
鳥類はコントロールしているんじゃないかと思います。
素人の勝手な想像による仮説ですがご検討ください。

 あれっくちゅ | 2010.01.23 3:23

コメントの追加です。
初期の哺乳類は多産多死であったので、悪い因子の排除を天敵にゆだねる消極的な進化の道を選んだ。
鳥類は飛ぶために軽量化の必要があったので、
多産多死なんてことは到底不可能で、
産み分けによる積極的な進化の道を選んだ。
素人の考えですが。
最近私が頻繁にブログに載せているオナガガモですが、
夫婦で育児をして、一生連れ添うのですから、
過去(と現代でも保守的な)の人間のように夫婦で役割が違う場合は、
外で働く男性の方が筋力を必要としたのですが、
同じ役割のカモがなぜ雄の方が大きいか、
先ほどの参考URLを読んで納得できたような気がします。
オナガガモについてはもう一つ。
餌付けをしている飛来地では、陸上に居る人間に近付くのは雌が多く、
雄は水上で待つことが多いんです。
http://mizuame.sumomo.ne.jp/bird/Anas_acuta004.jpg
http://mizuame.sumomo.ne.jp/bird/Anas_acuta007.jpg
こんな感じで。
雄は青っぽいので水上の方が有利なんでしょうけれど、
雌雄の役割の違いからこうなったのか、青っぽくなった方が先なのか、
最近考え込んでいます。
同じカモ科でもカルガモや白鳥は雌雄同色だしなぁ。
ど素人が長々と勝手に書いたことをお許しください。

 nannoki | 2010.01.23 21:55

あれっくちゅさん、ありがとうございます!
リンクしてくださったサイトみました。
生存圧力の状況によってオスを生むか、メスを生むかをメスが決定しているという内容ですね。なるほど~考えられそうです。次回の記事は、その辺りとも関係した記事となりますので、是非ご覧ください。

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