2009-07-20

ウイルスと原核生物の共存関係

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生物にとってウイルスとはどのような存在なのでしょうか?

私達人類にとって、ウイルスは未だ未解明な外敵であることは明らかですし、もう少し生物史を遡っていくと、多細胞化→脊椎動物の進化に伴う『体機能の高度化』は、ウイルス感染を起こしやすくするという弱点構造を生物は宿命的に抱えているということが分かってきます
詳しくはコチラの記事がオオスメ
では、多細胞化以前の原核生物の次元まで遡ると、ウイルスと生物の関係はどのように捉えられるのでしょうか
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1.細菌に襲い掛かるウイルス
ウイルスというと、ついつい人や動物に襲い掛かるイメージをしていましまいますが、実は細菌などの原核生物にもウイルスは感染するのです。
まずは、「細菌を襲うウイルス」の基本知識から

細菌に感染するウイルスのことを「バクテオリファージ」(バクテリオ=細菌、ファージ=食べるもの)といい、地球上には約10の31乗個存在していると推測されています。
バクテリオファージに感染した細菌は、ウイルスがもっていた耐性や毒性などの遺伝形質を獲得し、より毒性の高い細菌に変異することが知られています。
例えば、O-157の持つ毒性(ベロ毒素)と赤痢菌のもつ毒素は近似していることがわかっており、大腸菌と赤痢菌の間で毒素(武器)を橋渡ししているのが、運び屋であるバクテリオファージです。また近年の研究では、ジフテリア菌・ボツリヌス菌・コレラ菌の毒素など名だたる細菌も、バクテリオファージのDNAコードを組み込んでいるようです。

★気付き1★
細菌(原核生物)の変異にはウイルスが密接に関与している
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<バクテリオファージの全体像>
妙に美しい。。写真はコチラからお借りしました。

2.バクテリオファージの増殖の仕方は?
もう少し追求してみましょう
バクリオファージは、細菌への増殖方法の違いから「ビルレントファージ」と「テンペレートファージ」に分類されます。
「ビルレントファージ」は、一度細菌に感染すると細菌内で増殖し、最終的には完全に溶菌(細胞壁を溶かすように破壊)させて宿主細菌を死滅させます。
バクテリオファージの多くはこの「ビルレントファージ」に分類されます。
一方「テンペレートファージ」は、細菌に感染しても一部の細菌を除いて増殖が起こらず、部分的にしか溶菌を起こしません。
このとき細菌の内部では、バクトリオファージはプロファージと呼ばれる安定した状態で保存され、細菌が分裂する際も子孫に遺伝されていく(この現象を『溶原化』という)。
バクテリオファージの遺伝子は宿主細胞の遺伝子に組み込まれたり、あるいはプラスミド(細菌の細胞質内に存在する染色体以外のDNA)として宿主細胞の遺伝子とは独立して細胞内に存在します。
しかし、外部環境の変化によって強い刺激(ex.紫外線)を受けると、テンペレートファージは安定状態を解除し、急激に増殖し始める。そして、宿主細胞を溶菌させると、細胞外へと飛び出し、ウイルスがもつ遺伝形質を別の新しい宿主細胞に伝達する。
この現象を『形質導入』といい、テンペレートファージの大きな特徴といえるでしょう(先に挙げた細菌の強毒化もテンペレートファージによるもの)。

★気付き2★
ビルレントファージは、原核生物を次々に襲い、死滅させる
テンペレートファージは、平常時は原核生物の体内に共存し、外圧の変化を受けると、変異発現を引き起こす


3.ウイルスと原核生物の共存
改めて、ウイルスと原核生物の関係について見ていきましょう
海水中には、凄まじい量のバクテリオファージが存在することが解っており、特に生命誕生の舞台とされる、深海の熱水噴出孔周辺では、海水1ml中に、10万~1億個のファージが存在することが確認されています。
これは、同じく海水中の原核生物の2~8倍の量に相当します

また近年の研究では、深海に生存しているウイルスが、原核生物などの微生物の生態系に密接に関わっていることが明らかになっています。
ウイルスの攻撃によって大量の細菌が死滅した場合、この死骸が資源の乏しい深海において、別の細菌の重要な栄養源になっているのです(ビルレントファージが主導して、大量の死骸を作り出し、一方で大量の栄養源を生み出しだしていると予想されます)。
つまり、地球最大の生態系の維持にはウイルスの関与が不可欠なのです

それだけではありません
先に挙げたテンペレートファージは、平常時は原核生物内に共存し、外圧変化に伴い、宿主細胞内で獲得した遺伝子を『形質導入』によって他の宿主細胞に伝達します。
個人的には、原核生物の変異は、細胞分裂時のコピーミス又は紫外線劣化等による突然変異に委ねられていると考えていたのですが、これに加えてウイルスが原核生物間の変異に関与しているというのは、驚きです。
今までウイルスは生物にとって永遠の外敵であるという見方をしていたのですが、これは一面的な生命観に過ぎないのかもしれません。
地球規模でみると、ウイルスは原核生物の生態系に不可欠な存在であり、また原核生物の変異媒体としての役割を担っているのです。

【参考サイト】
深海底熱水噴出孔周辺のバクテリオファージの生態調査
バクテリオファージ発生のプロセス(仮説)
深海のウイルスは炭素循環を活性化

List    投稿者 andy | 2009-07-20 | Posted in ①進化・適応の原理7 Comments » 

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コメント7件

 匿名 | 2009.11.24 21:23

共認機能も観念機能も、個体を超えて何かを共有するため、集団(群れ)としての収束力を高めるための機能ですよね。

 ファイテイングドックス | 2009.11.25 21:46

群れってすげー!ですね。
群れることでのメリットって、ホントに一杯ありますね。その多くが、少し考え方を変えるだけで、人間にも当てはまると感じました。
個人主義とか言ってる場合じゃないですね。

 mika | 2009.11.30 14:08

群れをつくる意味がこんなにあるだなんて知りませんでした!
しかも、ちょっとうらやましい…v
個人主義って市場を拡大するために始まったもので、実はそれが生物として生きるのにまずいものだったなんて!
これは大変な事ですね!

 masamune | 2009.12.01 23:02

>匿名さん
>共認機能も観念機能も、個体を超えて何かを共有するため、集団(群れ)としての収束力を高めるための機能
端的に深いコメントありがとうございます。その通りだと思います。心も頭も集団のためにあるというのを今後心がけていきたいと思います。
>ファイテイングドックスさん
群れってすげー!って僕も思います。
自分という垣根を取っ払ってみんなに飛び込んでいこうと思います
>mikaさん
群れってけっこううらやましいですよね。本気で群れ(人類で言えば共同体)が再生できないかを最近模索してます。

 kawait | 2010.05.16 15:00

生物の進化積層は、個体レベルよりも群である事で可能となっている側面がかなり大きな要素であると感じます。
人類の場合、共認進化・観念進化が最先端機能ですから、個よりも共同性の中に大きな可能性があるのは、間違いないですね。

 じゃい | 2013.08.29 7:33

ハッハッハ!

 すげー | 2016.11.06 16:52

バクテリオファージを検索してここに行き着きました。
志賀毒素を伝えたバクテリオファージって
なんだよこいつ。と思っていたけど
ウイルスの神秘にちょっと感動しました。

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