2009-06-22

インフルエンザウィルスの感染過程2

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昨日に引き続いて、インフルエンザウィルスの感染について。
今日は、インフルエンザが感染しやすい箇所や、強毒性・弱毒性のちがいなどについて報告します。
それでは、いってみましょう。
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●感染箇所が限定される訳
通常のインフルエンザウィルスは、人の場合、喉や気管などに感染=くっつきます。それ以外の箇所(肺や脳、その他臓器)に感染することは健常者の場合ほとんどありません。
これを逆に捉えると、インフルエンザウィルスが感染できる条件が整っている場所が、人体の中では限定されているということになります。どういうことでしょうか。
●HAを活性化するプロテアーゼの体内分布
HAを活性化する(針のキャップを外す)プロテアーゼは、体の中で局在しています。つまり、体内のエリアごとに、分泌されているプロテアーゼの種類が概ね決っているということ。これが、通常のインフルエンザウィルスの感染箇所が限定的である第一の理由です。
人体の場合、通常のインフルエンザウィルスのHAを活性化させるプロテアーゼが分泌されているのは、代表的な感染箇所である喉や気管です。
特殊な場合として、菌類の中で、インフルエンザウィルスのHAを活性化させるプロテアーゼを分泌するものがあるそうです。
それらの菌の中には、歯周病肺炎を起こすものが知られており、これが予め人体に入り込んでいると問題を大きくしてしまうことがあるといいます。すなわち、あらぬところ(口腔)でインフルエンザウィルスの活性化を促進させてしまったり、肺炎に加えて肺にインフルエンザが感染してしまうこともあるわけです。
ある高齢者施設では、歯磨きをする=歯周病菌を少なくすることで、インフルエンザの感染率が下がったという報告があるといいます。そうなると、インフルエンザ予防には、うがい・手洗いに加えて、歯磨きも有効ということになりますね。
●シアル酸に結合するガラクトースの結合様式
通常のインフルエンザウィルスが体内の限定的な場所でしか感染しないもう一つの理由は、シアル酸に結合するガラクトースの結合様式が体内の場所によって異なっていることです。
すなわち、インフルエンザウィルスの活性化したHAが「これはくっつけるものだ」と認識する結合様式(α2→6結合)が、体内の決った場所でしか発現していないということ
その箇所は、人の場合、代表的な感染箇所である喉や気管。
ですから、喉や気管は、プロテアーゼがHAを活性化する(HAの針のキャップを外す)条件があり、かつ、HAがくっつく結合様式(HAの針が刺さるための条件を揃えた穴)を持つ構造をしているということになります。インフルエンザウィルスにとっては、感染するのに最適な条件が整っている場所ということですね。
なお、人体の中でも、肺胞にはトリ由来のインフルエンザのHAが認識できる結合様式(α2→3結合)を持ったシアル酸が分布しています。もし、活性化したHA(キャップが外れて針がむき出しになったHA)をもつインフルエンザウィルスが肺の奥に入り込んだら、鳥インフルエンザに感染する可能性があります。
(注)
以前の記事では、「人の中でもトリ由来のインフルエンザのHAが認識できる結合様式(α2→3結合)をもつ人がいる」と書きましたが、誤りです。
●強毒性と弱毒性の違い
通常のインフルエンザ=弱毒性に対して、懸念されている強毒性(高病原性)のインフルエンザウィルスは「感染箇所が体内の複数の箇所におよぶ」ものをいいます。
これまで見てきた内容から、感染を限定していた要素を取り払うと、強毒性(高病原性)ウィルスになります。すなわち、
1)全身の各所で分泌されているプロテアーゼによって活性化するHAをもつウィルス(≒どんなプロテアーゼでも針のキャップが取れるHAをもつウィルス)
2)シアル酸に結合するガラクトースの結合様式のうち、複数の結合様式を認識できるHAをもつウィルス
(≒針が刺さる穴のうち、一種類ではなく色々な穴を「結合できるものだ」と認識できるHAをもつウィルス)
ということになります。
このタイプのウィルスは、感染箇所を限定していた箍(たが)が完全に外れたタイプの登場になりますから、感染能力だけを見れば最強最悪のインフルエンザウィルスになります。WHOなどが警戒している高病原性新型インフルエンザウィルスは、この類です。
●弱毒性のインフルエンザウィルスに見る安定性
ウィルスにとってみれば、宿主の死=消滅は自らの増殖可能性を停止させてしまうものといえます。全ての人の血を吸い尽くした吸血鬼はどうやって生きていくのか、という問題と同義。
そう考えてみると、通常の=弱毒性のインフルエンザウィルスが持つ感染箇所等の「限定要素」は、宿主を適度に生かし、自身は適度に繁殖する「安定性」に寄与していると思えます。
偶発的な変異を修復することができないインフルエンザウィルスは、変異促進態。そのうち、「安定性」に寄与する構造をもったものだけが、長年にわたって存在し続けるわけです。
昨今、高病原性のウィルスばかりが取りざたされていますが、かつての強毒性ウィルス(スペイン風邪)は、現存しません。一方、弱毒性インフルエンザは毎年流行している。
弱毒性ウィルスの方が繁栄(←正確な表現かは別にして)しているのが、ウィルス的に見た事実。強毒性ウィルスへの変異は、ウィルスにとっても安定性を欠いた想定外の突然変異ということになると思われます。
ということで、長くなりましたが、いかがでしたか?
日本でも、毎年数十人~数百人の人がインフルエンザによって死亡しています。一般的なの風邪(普通感冒)と比べると、症状も重く、怖い病気であることは間違いないでしょう。したがって、インフルエンザについて正しい認識を持つことは重要と考えます。
もっと広く捉えると「病気になるのはなんで?」。人間に限らず、生物と病気について知りたくなってきました。

List    投稿者 hayabusa | 2009-06-22 | Posted in ⑤免疫機能の不思議1 Comment » 

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コメント1件

 kaiwai | 2009.08.26 23:25

経口免疫寛容って初めて聞きましたが、これってもしかして最近増加傾向にある食物アレルギーとの関連もありそうですね。
清潔信仰が行き過ぎて腸内細菌の数が減って、経口免疫寛容が機能不全を起こしているとか。
単なる思い付きですが、もっと追求してみたくなりました。

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