2009-06-24

サイトカイン・ストームってなに?

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1918年に世界的に流行したスペイン風邪は、全世界で感染者6億人死者4000~5000万人に及んだといわれています。当時の人口が18億人程度なので、約1/3の人が感染したことになります。感染者は15~35歳の若年層に集中し、死亡者の死因の多くは、ウイルスの二次感染による急性肺障害によるものでした。
当時、インフルエンザウイルスに関する知識も研究技術も確立しておらず、なぜその様な強い病原性をもっていたのかは医学界でも永らく不明なままであり、また、当時流行したウイルスは現存していませんでした。
ところが、日本の研究機関「科学技術振興機構」が、1918年のスペイン風邪ウイルスの遺伝子を、公表された遺伝子配列を元に再構築し、人工合成することに成功しました(詳しくはコチラ)。
この研究によって、スペインかぜで多くの人が死亡した原因のひとつに、ウイルスに対する自然免疫の異常反応(サイトカイン・ストーム)であることが確認されています
いったいどんな異常反応なのでしょうか
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まずは、用語の押えから
サイトカインってなに?
サイトカインとは細胞から放出されて、免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調節作用など、特定の細胞に情報伝達するタンパク質の総称をいいます。
免疫とは、細胞内に異物が進入した際に、異物を非自己として認識し防御する働きのことをいい、免疫機能を担う白血球・マクロファージ・好中球・リンパ球(T細胞・B細胞・その他)などの各細胞が共同作業を行う為の相互作用を司っているのがサイトカインです。
主なサイトカイン
☆インターロイキン (Interleukin (IL)
(白血球が分泌し免疫系細胞間の調節機能を果たす。IL-6はマクロファージを刺激して急性反応を誘導し、IL-8は好中球の特定の方向への移動を誘導する機能をもつ)
☆リンパ球が分泌するものをリンフォカインという。
☆単球やマクロファージが分泌するものをモノカインということもある。
☆インターフェロン(Interferon; IFN)
(ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の機能を持ち、免疫系でも重要である。)
Wikipedia
※インターロイキン(IL)とインターフェロン(IFN)はサイトカイン・ストームの説明でも出てきます。

サイトカイン・ストームってなに?
体内に免疫を持たない新型ウィルスが進入すると、体内で過剰免疫反応を起こすことがあります。サイトカイン・ストームとは、免疫系への防御反応としてサイトカインが過剰生産されアレルギー反応と似たような症状を起こし、最悪の場合死に至る作用のことをいいます。
免疫反応におけるサイトカインの役割
通常の免疫反応について、具体的に見ていきましょう。
マクロファージは異物(病原体)を捕らえて取り込み殺しますが、その際にT細胞に対して異物の種類を提示するという形で「警告」を発します。T細胞はその警告に基づきB細胞に抗体生産を命じますが、その命令を伝えるのがインターロイキン(IL-6)です。ところがB細胞が充分量の抗体を作るまでにはタイムラグがあるので、マクロファージはその間のつなぎとして病原体を食い殺す作用を持つ好中球を呼び寄せます。この際にもIL-6が働きます。注目すべきは、これらはいずれも感染初期の反応であり、もし免疫反応が順調に働いているならば、IL-6は徐々にその役目を終え減少していくと考えられます。
ウイルス感染に対する免疫反応
ウイルスは細菌と異なり自分だけで分裂増殖できません。何故ならウイルスとは遺伝子を蛋白の殻で包んだだけの存在であり、遺伝子に基づいて新たな体を作り出す機能を持っていないからです。そこでウイルスが増殖する為には生きている細胞内に入り込み、自分の遺伝子を設計図として細胞に新たなウイルスを作らせる必要があります。インターフェロン(INF)は、細胞に作用して、この「ウイルスの遺伝子に基づいて新たなウイルスを作る行為」をブロックする働きがあります。したがって通常の免疫反応であれば、INFが増加し、ウイルスの増殖が抑えられることになります。
スペイン風邪における、いわゆるサイトカイン・ストームの発生
それではスペインかぜにおける過剰免疫反応(サイトカイン・ストーム)の発生について見てみましょう。
スペインかぜでは、通常の免疫反応であれば、ウイルスが退治されれば減少するはずのインターロイキン(IL-6)が増加し、ウイルスの増殖の抑制を促すインターフェロン(INF)が増加していることが実験からわかりました。
特に、生体内のIL-6濃度が感染局所(インフルエンザでいえば「肺」に当たる)で異常に増加しています。
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画像は科学技術振興機構さんからお借りしました。
・ヒト由来インフルエンザウイルスと比較して、1918年のスペイン風邪ウイルス(1918)に感染したサルは、(a)一部のタイプI型のインターフェロン(ピンクの点線で囲まれた部分)の発現増加が見られない
・反対に炎症性細胞の一つである好中球などを刺激するIL-6(青の点線で囲まれた部分)は発現増加
・(b)インフルエンザウイルス感染に対する抗ウイルス反応に重要な遺伝子群(黄色の点線で囲まれた部分)は、発現増加が見られない(遺伝子発現量:減少、変化なし=黒、増加
サイトカイン・ストームによる肺の病状
では、サイトカイン・ストームが肺に起こった場合には、具体的にどういう状態になるのでしょうか。
肺の中は極めて細かい部屋(肺胞)に分かれており、その壁は血管が密集しています。取り込んだ酸素と二酸化炭素を効率的にガス交換するため、血管と大気が殆ど直に接触しており、しかもその表面積を増す為に内側が細かく仕切られています。
IL-6が過剰増加すると、急性炎症反応を引き起こし、肺胞の内側に水分や好中球そのものや好中球の死骸などが溜まります。したがって、その部位ではガス交換が出来なくなり、いわゆる「肺炎」を引きこします。
サイトカイン・ストームが発生するとこの状態が更に強く起こり、呼吸困難、最悪の場合は死に至ります。
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(a)正常なサルの肺
(b)ヒト由来のウイルスを接種したサルの肺
(c)(d)1918年のスペイン風邪ウイルスを接種したサルの肺
画像は科学技術振興機構さんからお借りしました。
スペイン風邪で死亡したのが若年層なのはなんで?
以上の研究から、「スペインかぜはなんらかの原因で体内にサイトカインストームが発生し、急性肺障害を引き起こして多数の死者を発生させた」というのは確かだと思います。
しかし、ここで疑問が残ります。
スペインかぜの死亡者が、通常のインフルエンザであれば死亡することのない15~35歳の若年層に集中したのはなぜしょうか
よく引き合いに出されるのが、若年層ほど免疫が活発化しやすく、過剰反応を引き起こしやすいということですが、どうもすっきりしません。
一つの説として、当時感染者に使用されていた解熱剤(NSAIDs:非ステロイド抗炎症剤系解熱剤)によって、サイトカイン・ストームが起きたという説があります。
アスピリンはスペインかぜが流行する3年前(1915年)から一般用薬剤として市販され急速に使用されるようになりました。当時解熱剤として大量のアスピリンが使われたとされる記録があり、アスピリンを使用した人と使用しなかった人の死亡率は30倍もの差があるという調査もあります。これが正しければ、当時第一次世界大戦中という状況を鑑みて、若い軍人などがインフルエンザ対策として多量のアスピリンを使用し、副作用としてのサイトカイン・ストームが起きたという仮説も立てられます(現在WHOではアスピリンの18歳未満への使用は制限)。
いずれにせよ、本来ウイルスに対抗すべき免疫反応が過剰反応を起こし、自らの体を蝕むという皮肉な結果は変わりません。
生物が本来もつウイルス(病気)への抵抗力をいかに正常に発現させるか?
見えない敵に対抗する上で忘れてはならない視点ですね。

(参考サイト)
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)
研究課題名: 「インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用」
研究代表者: 河岡 義裕 東京大学医科学研究所 教授
“Aberrant innate immune response in lethal infection of macaques with the 1918 influenza virus”
1918年のインフルエンザウイルスがマカカ猿に致死的な感染をした際に見られた異常な自然免疫反応
Kikulog 「(いわゆる)サイトカイン・ストーム
NPO 法人医薬ビジランスセンター
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No122
2009A/H1N1 インフルウイルスでパンデミックは起きない

List    投稿者 andy | 2009-06-24 | Posted in ⑤免疫機能の不思議No Comments » 

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