2009-05-11

神経細胞がどれだけ“発火”しているか、という事と“脳の適応機能(能力)”とは関係があるのか?

どうも^^;)雅無乱です。

『洗脳支配』の著者・苫米地英人氏は、メディア支配、やアメリカによる情報支配について、優れた検証と考察を行なっているので、非常に高く評価していた。

しかし、最近の著書では、「脳ブーム」に乗って本を売りたいがために、かなりいい加減な事も平気で書いている。人々に「脱洗脳を!」と訴えながら自らが洗脳の片棒を担いでどうするんだ、という気がして、彼には幻滅している今日この頃である。
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例えば、この本『「1日10分」で脳が生まれ変わる-「なりたい自分」になるいちばん簡単な方法』 には、こんな記述がある。

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人間の脳で使われるのは全体の1%くらいだとよく言われていますが、実際は1%も使っていません。その数百分の一程度しか使われていないのです。(中略)脳はフル活動しようとしても、エネルギーが足りないのです。だから、脳は手抜きが「超得意」なのです。

脳というのは、現代科学ではまだまだ解明できないことが多すぎるので、逆にエエ加減な事でもナンでも「言ったもん勝ち」みたいなといころがあるのだが、それにしてもこれはひどい。

「脳は大量のエネルギーを消費するから、すぐに手抜きしようとする…」という所まではいいだろう。実際、使わなくてもいいシチュエーションになれば、すぐに働かなくなるというのは脳の特徴である。

「適応」という観点から見ても、人類の大脳はそれまでの本能では適応できなかったがゆえに、仕方なく後から付け加わり塗り重ねられ肥大化してきたのである。適応できているのであれば、やたらと燃費の悪い器官で無駄にエネルギーを消費する必要は無い。生き続けるために不必要なエネルギーはなるべく消費しないようにする(≒サボろうとする)のは適応上当然とも言える。

人類の脳は特に、他の哺乳類に比べて体重比で異常に大きく、しかもエネルギーの消費が最も激しい器官なので、無駄に頭を使うこと(=無駄なエネルギー消費)は生存上極めて不利に働く。

しかし「脳の1%の数百分の1しか使ってない」はまったく意味不明。何を根拠に言っているのか、データを示していただきたいものである。いったいぜんたいどんな基準で、脳のどんな状態を指しているかさえも分からない。

脳をfMRI で解析すると、広い範囲で血流が増加することが分かる。決して「1%の百分の1」などではない事は子供にだって分かる。

脳は我々がボーっとしている時でさえ、意識していないだけで、リアルタイムで大量の情報を処理している。

光やにおい、触感、温度、重力、気圧、様々な情報を感覚器官で捉えて、適応のためにその情報を解析し、それをフィードバックしている。肉体の運動もほとんどを脳がつかさどっている。こういった大量な情報処理は、意識せずに行なっているので、「頭を使っている」という自覚さえ無いかもしれない。例えば「自転車に乗る」ことなんて、どうってことないと思われるかも知れないが、極めて高度に脳を使いまくって初めて可能なのである。

しゃべったり、言語を理解したり、相手の表情を読み取ったり、「こんなときはこうすべき」と記憶と照合して適切な行動を選んだり、といった人類ならではの知的活動が、その無意識の営為の上にドカっと加わる。これらも脳内で大量の情報処理をして初めて可能なのは当然である。

我々は、これら意識・無意識の情報を全てひっくるめて、脳のあらゆる部分リアルタイムで使いながら「適応」のために動き続けている。

100歩譲って、
大脳のニューロンの数140億個(人類の平均)のうち

参照:http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/brain/brain/10/index-10.html

その瞬間に発火しているのが、100分の1の1億4000万個のさらに数百分の1の“せいぜい100万個程度”である、というのはありうる数字かもしれない。

しかし、脳の神経細胞(ニューロン)のうち例えば2割とか3割も、同時に発火(電気が流れている状態)したとしたら、脳も肉体も確実にパニックを起こすだろう。

ましてや、何を意味してるのかは不明だが「脳を100%使う」などというような事を実際にできるとしたら、気が狂うか死ぬかのどちらかであろう。

大量の神経細胞を備え、その繋ぎ方や信号の流れ方についてほとんど無限の潜在的可能性を持つがゆえに、ほんの一部に情報が流れることで肉体や観念を統合する機能が初めて成立するのである。

しかし、「脳の1%のさらに数百分の1しか使ってない」という表現で、それがさも問題であるかのように語るというのはひどい。

「脳って実は全然使われていないんですよー」
              ↓
「普段使われていない脳の潜在的な能力をいつでも自由自在に発揮できると、勉強でも仕事でもすごく役に立つと思いませんか!?」
              ↓
「この脳力開発セット(左脳/右脳トレーニング教材)を買って訓練すると…」

ってな具合で、「ラクして手軽に脳力アップしたいなぁ」という怠惰な人の邪心をくすぐって己が金儲けをしようという魂胆なのだろうが、実に不誠実で犯罪的である。
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正直言って、ダマされる方もダマされる方だな、とは思うが…

これまで、脳に関しては様々な迷信がまかり通ってきた。

「脳のしわが多い(表面積が大きい)方が頭がいい」とか「脳容積が大きい方が賢い」だとか。

しかし、扁桃体が大きければかえって不適応になったり、
参照→自閉症の兆候、扁桃体の大きさで判別可能か 米研究
あるいは、サヴァン症候群などの例では、異常な記憶力や恐るべき計算能力、音楽・芸術の特殊な才能を発揮する(つまりは、そういった特殊な分野に限定的に、常人とは異なる大量のニューロンが発火している)にもかかわらず、人との会話や普通の運動さえできず、適切な判断ができないがゆえに、まともな社会生活さえ送れないといった事も起こるのが「脳」というものの不思議なところである。

タイトルに書いたとおりで、「神経細胞を何%使っているか」、などはどうでもよく、極めて多様な可能性の潜在能力を持った脳を、いかに適切な時に適切な方向に働かせて判断するか(現実にはほとんどは、意識でコントロールできる領域には無く、無意識に属するのであるが…)が重要なのである。

脳については、実はまだまだ科学的に解明されている事は少なく、ほとんど未明の領域だという前提をしっかり認識して、特に羞恥心もなく喜んでTVに出演しているようなエセ学者・専門家の安易で無責任な言説(大概はカネ儲けの邪心が絡んでいる)などには、十分に注意する必要があるだろう。

さらに言えば、「脳」に関しても、巷でまことしやかに喧伝されているものではなく、きちんと生物史を遡って「適応」という観点から追求し検証しなおしていく必要があるのではないだろうか。

実は、夢を見てる時だって妄想で頭がいっぱいの時だって、任天堂DSやりまくってる時だって、精神病で悩みまくっている時だって、別に脳はさぼっていない。活発に働いてるし、多数のニューロンが“スパーク”している。

しかし、それで「現実に適応できる方向に考えられてるか?」、っていうとまったく関係がないのは明らかだろう。

現実を対象化して、「どうする?」に応えていく頭の使い方をしない限りは、たとえ何億のシナプスが自我や妄想や解脱で活性化して電気が流れまくっていようと、まったく無意味なのである。

ゆえに、無方向に「脳を活性化しよう!」など叫ぶのはやめて、しっかり外圧・事実を対象化し、現実に答えを出していける「構造認識」を地道に習得していくべきだろう。

…と批判を展開しまくってきたが、ではどうやったらヤル気になって有効に脳を使えるのか?については、

当ブログのココにエントリーしてあるのでよろしければ参考にしてください。

List    投稿者 nanbanandeya | 2009-05-11 | Posted in ④脳と適応2 Comments » 

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コメント2件

 kawai | 2009.07.13 21:51

免疫機能の塗り重ねは、病気の深刻さ、複雑さと関連してそうな印象を受けました。
高機能になる程病気にもなりやすくなり、それらに対する高度な防護機構も必要となってくる。
進化って、常にイタチゴッコな感じですね。

 andy | 2009.07.23 19:01

>kawaiさん
>進化って、常にイタチゴッコな感じですね。
進化は必ずしも前進的ではないということですね。矛盾も孕みながら適応していくのが生物。

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