2009-02-17

遺伝子の共同体としてのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA、非コードRNA)

◆小さなRNAが注目されています。
生物の教科書などでお馴染みだったのは、

 生命は、遺伝子の設計図をもとにつくられるタンパク質によって、営まれています。タンパク質合成は、まず、DNA情報がいったんmRNAに転写され、次に、mRNAがタンパク質の合成工場である「リボソーム」と会合し、リボソームがmRNAの情報に従ってアミノ酸をつないでいく(「翻訳」と呼びます)、というものです。これは、すべての生物の基本の仕組みです。

2005年9月2日
哺乳動物のトランスクリプトームの総合的解析による「RNA新大陸」の発見
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2005/050902/index.html
◆「RNA新大陸発見」は、新しいゲノム観の幕開け
>2004年10月、国際ヒトゲノムコンソーシアムにより、ゲノムのたった約2%の領域が、生物の体を作り上げている主要部品である約22,000のタンパク質をコードしていると発表されましたが、これは、一部既存の実験データを入れたものの、コンピューター予測によるところが多く、本当にそれだけが、ゲノムにコードされている情報なのかは、依然として不明でした。(中略)
> このような大規模データをゲノム上にマッピングし解析を行った結果、同一の遺伝子から、複数の転写を制御するプロモーター(転開始点)、選択的スプライシング、複数のPolyA付加サイト(3’端:RNA末尾)など、多様なRNAが生産されることが判明しました。
>また約2,000,000個のマウス完全長cDNAを詳しく分類し、44,147種類の遺伝子(Transcriptional Unit: TU)を発見しました。これは、ゲノムの70%に相当する広大な領域が、一旦はRNAに読まれていることがわかりました。さらにこれらのTUの半分以上が、タンパク質をコードしていないRNA(ncRNA)が23,218個あることが明らかとなりました。それらのエクソン領域は種間(ヒト-マウス)で保存されていないにもかかわらず、プロモーターの配列が保存されていたことは特筆するべき事実です。(中略)
>ncRNAでは、センス/アンチセンス(S/AS)による2重鎖RNAを介したメカニズムが機能しているのではないかと推察され、エクソンの配列よりも、いつどこで発現するのかということが重要であることを示唆しています。これらのデータは、哺乳類の分化や発生での転写制御の比較分析のための網羅的基盤となります。(中略)
> これらのデータは生物医学研究領域において、高等動物のあらゆる生命現象を理解する手段となります。ゲノム配列は、哺乳動物の部品(タンパク質)を作るための暗号であるのみならず、いつ、どの組織で発現するかという情報も含んでいます。(中略)
>今回、FANTOMコンソーシアムは、マウス完全長cDNA(相補DNA)で新たな配列を含む56,722種類のcDNAを見つけました。その中には、リボゾームRNA、トランスファーRNAを除くと従来100個ぐらいしか知られていなかったncRNAが、予想をはるかに超える23,000個以上存在することを突き止めました。さらに、これらが単なる漏れ出てきたRNAではなく、生体内で機能しているということを証明したこととあわせると、従来のタンパク質がゲノムにコードされている最終機能物質であるという常識は覆り、人類未踏の領域である「RNA新大陸」が発見されたことになります。
> 最近まで我々の生物学領域で存在や機能を考慮されなかった大量のncRNAによって遺伝子発現が制御されていることを示しました。ほとんどのタンパク質が哺乳類では類似なので、生物種間に差異を生じさせる理由の多くは、タンパク質構成要素系より、さらに速く進化しているRNA調節制御系の違いに隠されていることを示唆しています。
>もしこの考えが正しいなら、この発見は下に示すような生物学研究、医学やバイオテクノロジーの将来にとって重要な疑問に対し、予測される解答を劇的に変化させます。
 (1) 如何にして遺伝情報が我々のゲノム中に蓄えられるのか?
 (2) 如何にしてこの遺伝情報が複雑な哺乳動物の発生過程を制御するために処理されるのか?
(中略)
◆ゲノムは総体として働いているという新しいゲノム観
> 本研究を通じて、遺伝子とは何か、という基本的概念にパラダイムシフトが起きたと考えています。ゲノムというもののなかに遺伝子がオアシスのように散在するという旧来のゲノム観から、かつてジャンクDNAと呼ばれていた領域は実際には機能しており、ゲノムは総体として働いているという新しいゲノム観が生じたといっても言い過ぎではありません。
> さらに、本研究における「RNA大陸」の発見は、「タンパク質が最終生理活性物質であり、遺伝子とは、単にタンパク質をコードするもの」であるという既成概念を崩す結果となりました。遺伝子から、表現形質を分子レベルで説明するネットワークの中に、新たにncRNAが登場することとなります。これにより、RNAがいろいろなレベルで遺伝子の発現を調節する新たなメカニズムの研究がスタートすることになるでしょう。

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2005年9月2日付けの囲み記事の予測通り、タンパク質の合成を規定するだけじゃないncRNAの発見・同定が相次ぎ、新たな知見をもたらしています。
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見直されるRNA Further Look at RNA
http://members.jcom.home.ne.jp/kisono/rna/rna.htm
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RNA干渉とヘテロクロマチン
http://daigakujc.jp/c.php?u=00274&l=05&c=00048
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RNA干渉
http://www.mitils.co.jp/baio/topics/topics02_16.html
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>マイクロRNA」によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明
– mRNAの翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 –
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/070801/index.html
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マイクロRNAはどのようにして遺伝子発現を調節するのか?
How Do MicroRNAs Regulate Gene Expression?

http://www.cosmobio.co.jp/STKE/archive/re_20070102.asp
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◆認識の確かさを示す、サイト情報
そのような意味では、これらの一連の動きに先立つ以下の投稿の確かさを改めて得心します。
   ▼   ▼   ▼

遺伝子の共同体(2001年02月10日) 
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=59
>まず第一に、一個の遺伝子が単独に働くことは在り得ない。どの遺伝子も数十、数百、数千の他の遺伝子群と連鎖的に化学反応を起こしてはじめて何らかの働きを持ったアミノ酸や蛋白質を作り出すことが出来る。しかし、そうして作り出された一つの蛋白質だけでは、生命を維持することは出来ない。結局、十万の遺伝子が緊密に連動し、協働してはじめて生物は維持され、進化してゆく。要するに全DNA(ゲノム)とは、まぎれもなく十万もの遺伝子の共同体である。
>第二に、ある遺伝子が変異を起こした時、その変異遺伝子は残りの十万の遺伝子群と適応的でなければならない。もし他の遺伝子群と不適応ならば、自然環境etcによって淘汰される以前に、まず細胞内部or個体内部で修復蛋白群をはじめとする組換え系の物質群や蛋白質の致死化学反応あるいは免疫細胞によって体内淘汰されて終うだろう。従って、まず一個の遺伝子が在るのではなく、まず共同体的な遺伝子群があり、その中でのみ、かつ全遺伝子と適応的である場合にのみ、一個の遺伝子は存在し得るのである。(注:体内淘汰されない限りは適応なので、ごくまれに個体にとって有害な遺伝子が存在することも在り得る。)
>第一・第二の当然の帰結として、ダーウィン的な自然淘汰は、常に全遺伝子群(ゲノム)に対して働く(正確には、全遺伝子群が作り出す、全形質に対して働く)。それが、全遺伝子の共同体を進化の単位(主体)とする根拠である。

    by びん

List    投稿者 staff | 2009-02-17 | Posted in ⑧科学ニュースより1 Comment » 

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コメント1件

 andy | 2009.05.02 22:14

は~なるほどっ。
サバンナ説(イーストサイドストーリー)って破綻間近な説なんですね。
となると、猿は木から「降りた」のではなく「落ちた」ということなんでしょうね。
今後も追求成果楽しみにしています。

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