2008-09-22

細胞周期と中心体の複製

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・細胞分裂(⇒「種」の保存)は生物が生物たる非常に重要な機能
・細胞分裂の際に中心となって働くのが中心体。中心体がないと、うまく細胞分裂できない。
・更に、中心体の複製は染色体の複製に先行し、驚くべきことに中心体を構成するタンパク質をコードしている領域はDNAには存在しない。
・これらのことから言えることは、中心体について調べていくことは、現在もまだ明らかになっていない生物の起源(RNAワールド、DNAワールド、タンパク質ワールドetc.)にも大きく関係してくるのではないか、ということ。

  
ということでこの間当ブログでも中心体に関する投稿が続いています。
  
一方細胞分裂に関しては、「細胞周期」という概念を使って、1個の細胞がたどる一連の順序だった出来事(G1→S→G2→M)の追求が進んでいます。
なおこのサイクルの内、中心体の複製(正確には中心小体の解離)はG1期に起こり、染色体(DNA)の複製は次の段階S期に起こります。
細胞分裂という生物にとっての一大イベントを開始させる重要な機能を中心体が担っていることがわかります。
  
ところでこの中心体の複製はどのような 「合図」 をもとに開始されるのか?
その構造を追及するのが今回のテーマです。

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■サイクリン依存性キナーゼ2-サイクリンE (Cdk2-E)複合体
中心体の複製はサイクリン依存性キナーゼ2-サイクリンE (Cdk2-E)複合体の活性を通じて制御されると言われています。
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画像は生化学の基礎からお借りしました
  

増殖刺激によりサイクリンDが合成され,CDK4と結合する。複合体はCAKによりリン酸化され活性化され,次いでRbタンパク質をリン酸化する。Rbがリン酸化されると結合している転写因子E2Fが離れ,サイクリンEなどのS期進行やDNA複製に必要な遺伝子群の発現が誘導される。
サイクリンEはCDK2に結合してRbをさらに活性化して自らの発現を亢進するとともに,p27Kip1(CKIの1つ)をリン酸化してその分解を促進する。これらにより,S期への進行が実現する。幾つかの段階で,CKIはS期への移行を抑制する。S期に入るとサイクリンEはユビキチン-プロテアソーム系*で分解される。

図中pre-RCの活性化とは、DNA-タンパク質複合体=複製前複合体(pre-replicative complex: pre-RC)が活性化することで、DNA複製を開始する起点となる物質です。
これとほぼ同時期に中心体の複製は開始されます。中心体上にあるNPM(ヌクレオフォスミンという酵素タンパク質、核小体の構成要素でもある。)がCdk2-E複合体によるリン酸化を受けて中心体から離れることにより複製が開始されるという実験が報告されています。
なおNPMという物質は、有糸分裂時に再び中心体上に戻ることによって、分裂後の娘細胞の中心体がNPMをもつようになります。このことからNPMが中心体複製におけるある種のライセンス因子ではないか?と注目され始めています。
 
■増殖刺激
ところで上記図の一番起点になっているのが「増殖刺激」です。
多細胞生物の場合細胞周期エンジン(サイクリン・CDK)が完全に機能していてもこの「増殖刺激=増殖因子」が与えられないと全ての複製・増殖は始まらない。
増殖因子としては、1.細胞や抗原との接触 2.細胞外マトリクスとの接触 3.分泌性のタンパク質因子との反応 4.ステロイドホルモンとの反応などがある。このようにひとつの細胞が分裂するには他の細胞からのシグナルがあることの見逃せません。
 
またこれら増殖因子→細胞周期エンジン(サイクリン・CDK)→複製・増殖過程で働く要素は、体細胞、幹細胞、初期胚発生過程でそれぞれ異なります。
細胞増殖の原点である初期胚発生過程では、モルフォゲンというシグナルタンパク質が増殖因子となります。
  
■まとめ
細胞周期と中心体の複製という観点で今回調査を行いましたが、真核生物においては増殖因子が複製の合図を出していることがわかりました。
しかし初期生命に遡った場合これら増殖因子はどこまで存在したのか?原核生物にはこのような因子はあったのか?を引き続き調査することで、細胞複製の起源(=中心体複製の起源)に近づけると思います。

List    投稿者 chai-nom | 2008-09-22 | Posted in ①進化・適応の原理3 Comments » 

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コメント3件

 ruko | 2008.11.14 17:36

なるほど~
アクチンとチューブリンは本質的には同じで、チューブリンはアクチンの進化形ぐらいに考えるとわかりやすいですね!
だとすると、
>原核生物の細胞骨格を研究する学者たちがアクチン派とチューブリン派に分かれて仮設を提起している
のはあまり意味がないことのようですね。

 BAL | 2010.07.21 0:35

分かりやすい説明ありがとうございます。
勉強になりました。

 tsuji1 | 2010.07.24 22:29

ありがとうございます。生命活動の中核である中心体の働きを解明するためにも、チューブリンの仕組みを理解することが重要ですね。
こちらのシリーズもぜひお読みください。
中心体が生命活動の統合役
http://www.biological-j.net/blog/2010/01/000935.html

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