2008-09-06

進化系統樹作成の根拠となっているDNA解析ってどの程度あてになるの?

ひきつづき雅無乱です。

前のエントリーで、進化系統樹の根拠となっているDNA解析の基本概念を押さえなおしたが、よくよく考えてみると疑問も多々浮かんでくる。

ヒトと類人猿の分岐は、研究者の間でも世間でも関心が高かったので、様々な分子で研究され、そこで確認された値がほとんど一致したので、ほぼ正しいと言われている。

確かに、地質年代を測定する様々な手法(放射年代測定など)と化石や地層での分析により、何重にもチェックされている…と研究者は胸を張っているらしいのだが、全てはその解析の前提になっている「分子変化率は一定」(100万年に2%~4%で突然変異が起こる、というのが定説)という仮説の上での計算であって、本来ならその分子変化率が一定かどうかを別に立証しなくてはならない。

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瀬戸口烈司氏の’96年の7~9月にNHK人間大学「人類のルーツを探る」という番組のテキストを見ると、“分子時計の研究者は「複数の手法を用いてチェックされたのだから分子時計は正しい、と錯覚している」”、と批判している。

瀬戸口氏はさらに、塩基置換が、統計学で言う「ポアソン分布」と一致しないことを指摘し、てこうも述べている。

“分子変化速度が一定していない分子変化に、「変化速度一定」の仮説をあてはめる分子時計は、そもそも科学的根拠に乏しいのである。”

たしかに、「分子変化率は一定」=「突然変異は100万年に2%~4%と一定の確率で起こる」、という前提は素人目に見ても「ホンマかいな…その前提自体?」とツッコミを入れたくなる。

点突然変異は、太陽の活動の変化で紫外線量が増えれば増加するだろうし、生物が極度のストレスに晒された場合も転写ミスは増加するだろう。しかも、そもそも点突然変異など日常的に起こっており、修復酵素が働いて正常を保っているのが生命の常態である。修復酵素の機能も外圧状況により大きく影響を受けるはずで、それが世代を超えて点突然変異の増減に影響を与えないわけが無いのでは?と思うのである。

さらに、生物集団としての問題もある。

ミトコンドリアが確実に母系遺伝すると仮定すると、娘が生まれなかったらその遺伝子は途絶える。分岐年代の特定などには集団遺伝学における定義や計算式が用いられるが、本来なら、集団を構成する個体数がどのように変化したか、どれだけの母系が途絶えたかを把握する必要がある。しかし実際、途絶えた母系は計算式においては無視されているらしい。

また、集団規模や集団の生活形態(たとえばオスの方が多く死ぬ…など)によって変異の蓄積速度が異なることもあるだろう。

これらの点からも、解析の前提になっている「時間当たりの突然変異蓄積が一定」には無理があると思われる。

さらに、ミトコンドリアDNAを分析に用いるときミトコンドリアは全て母方の卵細胞由来である(100%母性遺伝しかしない)、ということが大前提となってる(多くのサイトでは確かにそう書いてある)が、(極めて低い確率だが)父由来のミトコンドリアが受精卵内で増殖してしまう事例も報告されているらしい。
父方のミトコンドリアがわずかながらも混ざるということが過去の人類集団で起こっていたとすると、母系を辿っていく計算式の前提は成立しなくなる。

実際に、霊長類よりも豊富な化石や研究対象があるゲッ歯類では、分子時計から推測された分岐年代と、古生物学的な推定とは大きく食い違っているらしい。

逆に、短期間(数万年単位)である、ホモ・サピエンスが生まれてからの解析結果はもっと誤差が大きくなるのではないかという気がする。

これらを考えあわせると、ミトコンドリアDNA解析による進化系統樹は、絶対的な指標ではありえないだろう。もちろん全くあてにならないとは言わないが、解析結果を適用する範囲に注意すべきだというのが、今のところの私の結論である(少なくとも、前提を押さえ直さずに絶対視するのはタブーだろう)。

「多地域進化説」を唱える学者は、彼らの実験結果が自説に不利なので、論争の中でこの解析手法を全否定したりしているが、それはそれであまりに極端だと思う。ボロくそに書いたが、放射年代測定なども併用しながら、あくまで解析手法の一つとして慎重に参考にする…程度に抑えれば、それなりに有効に使用することも可能ではないだろうか。

…という前提で、以下は参考までに

アフリカのグレート・リフト・バレー(大地溝帯)から世界中に旅立った人類の軌跡を見ることのできるフラッシュ。
[Jorney of Mankind]
gj.jpg
再生ボタンを押していくと、約7万4000年前のところで、スマトラ島のトバ火山が大噴火したようすが映し出される。

スマトラ島のトバ湖はこの時の噴火によって形成されたカルデラ湖。ここ10万年ほどでは最大級の噴火とされ、地球の気温が数年間3~3.5度低下した。ヒトのDNAの解析によれば、7万年ほど前に人類の人口が一万人以下に激減し、遺伝的な多様性の多くが失われ現在の人類につながる種族のみが残った「ボトルネック(遺伝子多様性減少)」があったと考えられるが、これがトバ火山の大噴火に関連すると考えられている。(ウィキペディア:地球史年表

おそらく(あくまで仮説だが)、15万年ほどまえにアフリカで生まれたホモ・サピエンスが、海岸沿いにインドを超えて東南アジアに進出し、せっかくはるばるたどりついたのに、7万4000年前に、このトバ火山の噴火の影響で大量死滅した、ということのようである。

ほとんど絶滅寸前まで追い込まれ、そしてほんの一握りの生き残りが繁殖し、現在の我々日本人につながっている…と考えると、なぜか感謝の念がわいてくる。

List    投稿者 nanbanandeya | 2008-09-06 | Posted in 6)“祖先の物語”番外編2 Comments » 

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コメント2件

 ブーケ☆ | 2008.10.25 1:39

これはすごい!
細胞分裂における微小管の詳しい働きってこんな仕組みになっていたんですね!!
大雑把にしかしりませんでした。
こんな繊細なしくみになっていたとは驚きです☆

 nannoki | 2008.10.27 15:24

>ブーケ☆さん
コメントありがとうございます!
微小管の仕組みを調べるほど、よくできてるな~って感心します。鞭毛の骨組みも微小管ですが、これもよくできてますよ~。
またどこかで紹介できればと思います☆

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