2008-08-24

Y染色体とトランスポゾン

以前この生物史ブログで、Y染色体が変異を担う闘う遺伝子であることが紹介されていました。実際に、人のY染色体は、相同染色体であるX染色体に較べて遺伝子数が非常に少なくなっています。相同染色体は進化的には同一の祖先に由来する染色体であり、今から3億年ほど前、X染色体とY染色体がまったく同じ染色体だったのが、進化の過程でY染色体は遺伝子数を減らしてきたと考えられています。
Y%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93.bmp
この画像は「ヒトとチンパンジーで差の大きいY染色体、詳細に解析される!」よりお借りし編集しました
X染色体とY染色体を較べると、遺伝子数はX染色体1,098に対しY染色体は遺伝子数78、塩基対数はX染色体1億6,300万に対しY染色体は5,100万と圧倒的に少なくなっています。(ウィキペディア染色体より)
また、Y染色体は回文配列を数多く含み、そのために同一染色体内で高い頻度の組み換えを起しているようです。既存のヒト集団内でMSY(人Y染色体の男性特異的領域)回文配列の変動を解析すると、ヒトで腕対腕の遺伝子変換が再三起こったことを示す証拠が得られ、最近の進化の過程では、新生児男子1人あたり平均して約600ヌクレオチドでY-Y遺伝子変換が起こっているそうです。(Nature the Ychromosomeより)
それではY染色体はどのようなシステムで、遺伝子変異を担っているのでしょうか。続きを読む前に応援もお願いします。
ブログランキング・人気ブログランキングへにほんブログ村 科学ブログへ

 にほんブログ村 科学ブログへ



■遺伝子の変異を担うのはトランスポゾン

Y染色体の遺伝子変異を担っているシステムと考えられるのがトランスポゾンです。トランスポゾンは移動する遺伝子です。本来、遺伝情報を間違いなく伝えるのが遺伝子の役割ですが、その遺伝子のなかに、自己を改変する機能も含まれているのです。
トランスポゾンには、遺伝子の一部を切り出して別の場所に移動する役割を持っているカット&ペーストのトランスポゾンと、遺伝子の一部をコピーして挿入するコピー&ペーストのレトロトランスポゾンがあります。
%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%82%BE%E3%83%B3%EF%BC%92.bmp
この画像は「転移因子が手繰るゲノム言語の形成と進化」からお借りしました。
Y染色体の遺伝子数が減っていく現象は、カット&ペーストのトランスポゾンの働きで、Y染色体の遺伝子が他の染色体に、カット&ペーストされたと考えることが出来ます。
Y染色体が多くの回文構造を含むことは、コピー&ペーストのレトロトランスポゾンの働きで、同じものがコピーされ、180度回転して貼り付けられたと考えることが出来ます。

■Y染色体ではトランスポゾンが活性化している

哺乳動物では、レトロトランスポゾンの転写活性は低いのですが、生殖細胞や放射線等のストレスを受けた細胞で活性化している例も知られてます。(カイコのレトロトランスポゾンより)
これらのことから、Y染色体は日常的にトランスポゾンを活性化させることで遺伝子変異を担っていると考えることが出来ます。
さらに、Y染色体が日常的にトランスポゾンを活性化させている機能は、外圧がさらに高まった場合には、他の染色体では眠っているトランスポゾンを全て活性化させる、見張り役でありスイッチの役割を担っている可能性もあります。
Y染色体のみがトランスポゾンを活性化させているとすれば、何らかのトランスポゾンを活性化させる機能がY染色体上にあることになります。それは多分、トランスポゾンを活性化させるタンパク質をつくる機能だと考えられます。
遺伝子そのものを改変してしまう機構を始動させるのは慎重に行う必要があり、スイッチが入るためには一つのストレスだけではなく複数のストレスが長期にわたって働くなどの条件が組み込まれていると思われますが、Y染色体にトランスポゾンを活性化させるスイッチの役割が組み込まれている可能性は高いと考えられます。

■スイッチの機能を果たしているのがSRY遺伝子

先に書いたようにY染色体の登場は、今から3億年ほど前だと考えられています。X染色体とY染色体がまったく同じ染色体だった時代に、その一方にだけに性の決定に関わるSRY遺伝子が入り込み、その結果、Y染色体の進化速度が有意に速くなり、現在のY染色体へと進化したと考えられています。(ヒトとチンパンジーで差の大きいY染色体、詳細に解析される!より)
SRY遺伝子が入り込むことで、Y染色体の進化速度が速くなったと言うことですから、先ほどの、トランスポゾンを活性化させるスイッチの役割は、SRY遺伝子が担っていると考えられます。

List    投稿者 nodayuji | 2008-08-24 | Posted in ①進化・適応の原理4 Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2008/08/549.html/trackback


コメント4件

 blogger0 | 2008.10.08 22:57

> Y染色体上にあるSRY遺伝子が、性決定のスイッチの役割をしている
と書かれていますが、本当でしょうか?
雌雄分化が促進されてきた経緯は、あくまで進化段階に応じたものであり、北村氏(http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=169622)の投稿を引用するならば、
> ①共通の性腺から、精巣・卵巣各々を作る指令を行なう遺伝子が発動する段階。
> ②雄性、雌性のホルモン分泌によって体細胞の機能が変化し、雌雄の体細胞が差別化される段階。
> ③脳の神経細胞の差別化が促進される段階。
の三段階があったのではないか、とされています。
わたしも性決定は、SRYなど単一の遺伝子に還元できるものではなく、遺伝子の協働によって実現しているのではないかと考えています。
いかがでしょうか?

 fkmild | 2008.10.09 0:54

もちろん、性決定に関わる遺伝子はSRY遺伝子だけではないでしょう。単一の遺伝子に還元できるような説は前提にしていません。未だ発見されていないだけで、他にもあるでしょうし、性決定は様々な遺伝子の協働によって実現されると考えるのが素直でしょう。

 blogger0 | 2008.10.09 13:45

> もちろん、性決定に関わる遺伝子はSRY遺伝子だけではないでしょう。単一の遺伝子に還元できるような説は前提にしていません。
了解しました。
ところで、変異転写を担っているのは、SRYタンパク質だけなのですか?
もしそうだとしたら、命題の立て方→仮説は理解できるのですが、外圧の変化をDNA変異として組み込む仕組みはこれだけとは考えにくいのではないでしょうか。

 fkmild | 2008.10.13 20:21

おそらく、変異転写を担っているのもSRY遺伝子だけではないでしょう。他にもHMGタンパク質が変異転写を担っていることが分かっています。どのようにして外圧変化をDNA変異として組み込むのか?の全体像を把握するのが追求課題ですね。

Comment



Comment


*