性染色体は変異の模索機構~第87回なんでや劇場より~
図のように、人の染色体は46本あり、内44本22対が常染色体、残り2本が性染色体と呼ばれています。常染色体は、父由来、母由来が対となり、互いに同情報を持ち、補完(バックアップ)関係にあります。ところが性染色体では、相同性を失っているのです。女性はXX(ホモ)型で相同ですが、男性はXY(ヘテロ)型で相異。なぜ1組だけ相同性を失ったのか?というのが本日のテーマです。
相同性を喪失したY染色体を中心に見ていきましょう。
●遺伝子変異はY染色体に蓄積
常染色体は、対となる染色体同士が互いに同情報を持ち、一方の遺伝子が破損したとしても、他方で補うバックアップ機能を獲得しています(≒2倍体の安定性)。ところがY染色体は、X染色体と相異の為、組み替えが出来ません。この為、破損やコピーミス等の遺伝子変異がY染色体に蓄積されていくことになります。人とチンパンジーとの染色体比較を行ったところ、ゲノム全体では1.23%の差異であるのに対し、Y染色体上では1.78%の違いが確認されているようです。
●Y染色体には遺伝子の不毛地帯が存在する
Y染色体には、遺伝子の不毛地帯「キナクリン染色領域」が存在します。不毛地帯と呼ばれているのは、意味を成さない塩基配列が繰り返され、生命活動に有効な発現遺伝子が存在しない為です。人のY染色体の場合、実に4割がこの領域。個体の形質として発現しない領域を創り出すことで、そこに破損やコピーミス等の変異遺伝子情報を蓄積している可能性が高そうです。
●免疫力が低い男性
免疫機能に関係する遺伝子の多くは、Y染色体と対になるX染色体上に多く存在します。女性の場合、X染色体が2つある為、互いに補完し合いますが、男性はX染色体が1つの為、免疫遺伝子が不活性だと、すぐさま発病してしまいます。医学の発達で治療出来るようになってきましたが、昔は、病気で死亡する男の子の割合が非常に高かったそうです。免疫力が弱く病気に感染しやすいと捉えるとマイナス要因ですが、一方で外圧を受容しやすい性質と考えることも出来ます。
Y染色体は単なる造精解除機能(SRY遺伝子)だけでなく、変異情報を蓄積する役割も担っている可能性が高い。さらに男性は免疫力が弱い≒外圧を受容しやすい性質であることを併せると、外圧に対する変異可能性の模索がY染色体の役割であると考えられます。
生命は変化する外圧に適応し「変異」することで、種として「安定」していきます。Y染色体は、相同性のメリットである補完機能≒安定性を、敢えて喪失させることで、変異可能性を模索、促進しているのです。
雄ヘテロ型は、人類だけでなく、実は哺乳類全てに共通した型。哺乳類は、雄に変異情報を蓄積させる(=雌に安定性を担保する)方向に舵を切り、進化した生物であると言えそうです。
参考
Y染色体の不思議
性染色体に騙されるな
なぜ、女性は男性よりもの免疫力が高いのか?
ニュートン2006年2月号 性を決めるカラクリXY染色体
おまけ
ちなみに鳥類は雌ヘテロ型。つまり雌に変異情報を蓄積させる方向に進化しています。鳥類は、雌が変異情報を蓄積しつつ、生殖役割も担うという、雌負担の大きい種です。この為、鳥インフルエンザが一気に蔓延しているように、種としての免疫力が弱く、奇形も多いそうです。それでも、敢えて雌ヘテロ型に舵を切ったのは、乾燥適応する為、卵の殻を進化させる必要に迫られたから(=雌の変異を促進する必要があったから)と考えられます。
参考
鳥類の生殖の秘密
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