2007-12-15

Y染色体の不思議

601622edb10e13db20f31de2aca30be2.jpg
こんにちは 😛
今日は、12月6日の記事「X染色体の不思議」、12月14日「ヒトはY染色体を失ってしまう!?」に続けて、「Y染色体の不思議」に迫りたいと思います。
X染色体に比較して、どのような違いがあるのでしょうか?
非常に気になるところですが、中身に入る前にポチっとお願いします。
ブログランキング・人気ブログランキングへ
にほんブログ村 科学ブログへ

 にほんブログ村 科学ブログへ


①Y染色体の遺伝子数は、X染色体の10%未満!
X染色体の遺伝子数が、1098個あるのに対し、Y染色体の遺伝子数はたった78個、X染色体の7%程度しかありません。更に、このY染色体の遺伝子のうち大部分(約4割)は、有効な遺伝子が存在しない「遺伝子の不毛地帯」(キクナリン染色領域)となっています。X染色体の遺伝子数が少ない理由は、既に12月14日「ヒトはY染色体を失ってしまう!?」の記事でnomuraさんが書いてくれています。
概要をまとめると・・・

Y染色体は、SRYのような精巣決定遺伝子が出現したことをきっかけにX染色体から、すこしずつ姿が異なるようになっていった。これが積み重なり、X染色体との違いが大きくなりすぎた為、ペアになるX染色体との間で遺伝子を交換するための交差が起きなくなってしまった。(ペアになる染色体を相同染色体と言います。相同染色体同士は、減数分裂の際に互いに遺伝子を交換する交差を行い、これによって遺伝上有害となる突然変異や遺伝子の劣化を修復する仕組みになっています。)遺伝子の交換ができないと、突然変異が蓄積していくため、染色体がどんどん滅びていく。こうしてY染色体は、X染色体に比較して遺伝子数が非常に小さいものとなって行った。(将来的にはY染色体は消滅すると考えられている)

すなわち、Y染色体の遺伝子数が非常に少なくなってしまった理由は、「相同性の喪失→遺伝子交差STOPによる突然変異の蓄積→遺伝子の消滅」にあると言えます。
これは仮説ですが、恐らく突然変異によって生じた「変異遺伝子」はいきなり消失するのではなく、ひとまず「使われない遺伝子」として蓄積されていく。そしてなんらかの外圧状況の変化に応じて、発現するのではないでしょうか。この「変異遺伝子」の蓄積こそが、「遺伝子の不毛地帯」(キクナリン染色領域)の正体ではないかと思われます。
キクナリン染色領域の遺伝子塩基配列は、基本的には「TTCCA」の5塩基が延々と繰り返されているようです。これは、突然変異によって生じた塩基配列をひとまず単一コード化して(=遺伝子発現上無害な状態に変化して)蓄積しているのではないかと考えられます。
この、「相同性の喪失→遺伝子交差STOPによる突然変異の蓄積→遺伝子の消滅」の構造は、視点を変えて言えば、「突然変異を誘発する為のシステム」と見ることができます。つまり、X染色体が「安定」をつかさどる性染色体であるのに対し、Y染色体とは「変異」をつかさどる性染色体であると言うことができます。
なお、Y染色体は、「相同性の喪失」によってX染色体と遺伝子の交差組み換えが起こらない為に、次世代にそのまま引き継がれていきます。お父さんのY染色体も、おじいさんのY染色体も、その又おじいさんも、全て同じY染色体を引き継いでいるということです。
これは、変異上は非常に不利に見えますが、この相同性の消失によって、減数分裂による(安定的な)遺伝子組み換えよりも、より変異度の高い突然変異を引き起こすことを可能にしたのがY染色体であると言えます。
②人類のY染色体はチンパンジーのY染色体には存在しない、免疫系に関与する活性遺伝子をもっている
12月6日の記事「X染色体の不思議」でaincoさんが書いているように、X染色体には、免疫機能に関わる遺伝子が多く含まれています。正確には、病原体に対抗する免疫系に不可欠な13個の遺伝子が、X染色体上に存在します。
免疫系の抗体を作る「B細胞」が正常に成熟する為には、X染色体にあるBtk遺伝子と呼ばれる遺伝子の働きが必要です。更には「B細胞」に指令を与える「T細胞」が正常に成熟する為には、X染色体にあるIL-2受容体共通ガンマ鎖遺伝子と呼ばれる遺伝子の働きが必要不可欠になります。
X染色体を一本しかもたないオスは、X染色体の遺伝子に異常が生じると、即座にその影響を受け、免疫機能に障害を生じます。だから、男は女に比べて感染に弱く、熱を出す回数が多くなります。(特に幼児期)
このように、免疫機能はX染色体に大きく依拠していますが、人類のY染色体はチンパンジーのY染色体には存在しない、免疫系に関与する活性遺伝子を持っている。
これはどういうことでしょうか?
ここにも「変異」遺伝子としてのY染色体の秘密があります。
まず我々自身が身をもって知っているように、病原体・ウィルスは、常に変異していきます。その為、肉体の(既存の)免疫システムで対応しきれない状況は頻繁に発生します。これは「固定的な免疫システム」では、適応して行けないことを意味し、病原菌・ウィルスの変異に適応して、免疫機能も塗り替えていく必要があると言うことです。
これも仮説ですが、オスの免疫機能の脆弱性は、この変化していく病原菌・ウィルスに適応していく為のものであると考えられます。すなわち、オスは免疫機能の脆弱性と言うリスクを抱える一方で、病原菌・ウィルスに「感染すること」で、免疫機能を塗り替えていく。その為に、雄は安定的なX染色体の免疫機能の半分を失った。遺伝子的に見れば、安定的なX染色体の免疫機能に対し、変異(活性)的なY染色体に変異を起こすことで、外圧(病原体・ウィルス)に適応する新しい免疫機能を獲得していく。
以上から免疫機能は、「X染色体による安定的免疫機能+Y染色体による変異適応」と言う2段階システムになっていると言えるでしょう。
Y染色体が獲得した新しい免疫系遺伝子は、減数分裂による相同染色体の組み換えによって、X染色体の免疫遺伝子へとフィードバックされ、種全体として免疫機能が塗り替えられていくと考えられます。
驚くことにアフリカでは、HIVに対する抗原をもった種族が存在するそうですが、これもこのような免疫機能の2段階システムによって獲得されたものと思われます。
③チンパンジーと比較した場合の人類のY染色体の違いは、ゲノム全体の違いを大きく上回る。
米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」(電子版)に発表された理化学研究所の研究によれば、人類のY染色体とチンパンジーのY染色体を比較した場合、1・78%の違いが確認されたそうです。チンパンジーと人類のゲノム全体の違いを比較すると、1・23%の違いがあることが解っており、Y染色体の違いは、ゲノム全体の違いに比べると4割以上も大きいことになります。
このことは、直接的にY染色体が「変異」遺伝子であることを証明していると言えます。
なお②のチンパンジーのY染色体に存在せず、人類のY染色体にのみ存在する免疫系活性遺伝子も、この1.78%の違いに含まれています。
このように見てくると、Y染色体とはとことん「変異可能性」に貫かれた遺伝子であり、「安定的」なX染色体と双極をなす遺伝子であることが解ります。
物進化上の最大の重要事項と言える「安定」と「変異」が性染色体においても貫かれているのは驚きです
この記事は、るいネットの以下の記事を参照にまとめました。
遺伝子から見た、オスメス分化=性システムの本質①②
免疫機能に見る雄雌の役割分化
Y染色体に刻まれた、闘争存在であるオスの証し
BY NISHI

List    投稿者 crz2316 | 2007-12-15 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2007/12/354.html/trackback


Comment



Comment