2007-07-19

真核生物誕生の鍵をにぎる原始植物!

日本における真核生物研究の大変興味深い成果を紹介します。
真核生物誕生の鍵をにぎる原始植物「シゾン」のゲノムが解読完了
より転載(一部中略)

 2004年4月、「最小の真核生物」といわれる原始的な植物「シゾン」のゲノムが、日本独自のプロジェクトにより完全解読されました。約20億年前に誕生したと思われるシゾンは、現在の地球で繁栄を遂げているさまざまな真核生物の起源にあたると考えられています。プロジェクトを推進した立教大学の黒岩常祥先生にお話をうかがいました。

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シゾン
単細胞紅藻の一種、Cyanidioschyzon merolae(読み方シアニディオシゾン メロラエ)の略称。硫酸酸性の温泉で成育する。シアニディオシゾンの意味は「分裂するイデユコゴメ」とのこと。シゾンはイタリアの温泉で発見されたが、日本にも草津温泉などに別の種類がいる。
原始紅藻(シゾン)とはどのような生物ですか?
シゾンは、温泉のような高温、高硫黄、酸性の環境に生息し、赤色の葉緑体(色素体)による光合成を行う微生物です。直径は1.5~2マイクロメートルほどで大腸菌程度の大きさですが、細胞核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、ゴルジ体、マイクロボディ(ペルオキシゾーム)を一つずつ、リソソームを数個もっていて、コンパクトながら、真核細胞に共通する基本的な構造をすべて備えています。
 地球の生命はおよそ38億年前に誕生したといわれます。シゾンが誕生したのは、その後18億年を経た、今から約20億年前。シゾンは、ゲノムが核膜で覆われた「核」と、最少の遺伝子をもつ「最古の生命体」であると考えられています。
なぜシゾンのゲノムが解読されたのでしょうか?  
これまでの研究で、原始的な原核生物から、まず真正細菌群と古細菌群が分かれたと考えられています。真正細菌群から分岐したαプロテオ細菌は、古細菌群から進化した真核生物を宿主に共生しはじめ、やがてATPを合成するだけのミトコンドリアになったと考えられます。 
 共生による進化を研究する上でも、細胞そのものを研究する上でも、私はオルガネラの分裂の仕組みを研究することが、とても重要だと考えました。しかし地球の生物界の大半を占める動物、植物、昆虫などは、一つの細胞内に数百から数千ものミトコンドリアをもち、各々がランダムに分裂しているために研究しずらい。その点シゾンは、ミトコンドリアや葉緑体といった細胞小器官をほぼ一つずつしかもたず、好都合でした。私はシゾンを使って、ミトコンドリアの巨大な分裂装置を発見し、さらに葉緑体の分裂装置もみつけました。その後、各々のタンパク質のアミノ酸配列から遺伝子を同定しようとしましたが、タンパク質があまりにも微量なためにうまくいきませんでした。そこで、シゾンのゲノム解読をしたいと思うようになりました。
 このような状況のなか、2001年4月に、日本単独でシゾンの核ゲノムを読むプロジェクトが始まりました。
解読の結果、どのようなことがわかりましたか?
 ゲノムサイズは約1650万塩基対で、ヒトゲノムの約200分の1の大きさでした。遺伝子は5331個みつかり、そのうちの75%は他の生物にもみられる遺伝子、15%はシゾンに固有の遺伝子でした。5331個のなかには、ヒトの遺伝子とよく似た配列も多くありました。
 また、イントロンが26個しかないことがわかりました。ゲノムサイズがほぼ同じである真核細胞の分裂酵母菌が約4000のイントロンをもつことを考えると、非常に少ない数だといえます。さらに、ヒトには3000~4000コピー存在する「リボゾーマルRNAを作る遺伝子」が、シゾンには3コピーしかありませんでした。しかし、それでも核小体を形成しています。シゾンが真核生物としてきわめて単純な生き物であることが、ゲノムレベルでも明らかにされたことになります。
 さらに、シゾンは細胞分裂においても原始的なしくみをとどめていることもわかりました。一般の細胞質分裂ではミオシンやアクチンからなる収縮リングが必要ですが、シゾンゲノムにはミオシン遺伝子が発見されず、アクチン遺伝子は持っていても働いていない遺伝子だったのです。それでもきちんと細胞質分裂がおこるのはなぜなのでしょう。他にもシゾンにはまだ、多くの興味ある問題が残されています。
シゾンゲノムの情報はどのように利用されるのでしょうか?
現在、細胞生物学の研究がゲノム研究に発展し、その成果が生命のさらなる理解のために還元されはじめています。また、各種生物のゲノム情報を比較し、互いのゲノムや現象の共通性をさらに理解しようとする試みがなされています。シゾンで解明されたミトコンドリアや葉緑体の分裂機構および関連遺伝子は高等植物にも存在することがわかっているので、シゾンゲノムはすべての真核生物にとっての基本情報になると考えられています。とりわけ、シゾンにはイントロンがほとんど無いために、1つの遺伝子から「転写→翻訳→代謝」という一連の生命現象をシステムとして追えるメリットがあるのです。
 今回のゲノム解読によってミトコンドリアと色素体の分裂に関わる遺伝子がみつかりましたが、今後はこのような遺伝子を制御して、葉緑体の数が多くCO2をより多く固定する植物や、より収量の多いの穀物を育成することも可能だと思われます。細胞分裂に関わる遺伝子は、がん研究の分野でも注目されています。シゾンが45℃、pH1.5の高温強酸性、かつ高金属という過酷な極限環境に適応して生きているという性質の利用もありえるでしょう。CO2による地球温暖化、SO2による酸性雨は、予想をはるかに越えて進んでいます。シゾンが継承する耐高温や耐強酸性遺伝子を同定し、それを地球環境変動に適応した植物の育成に利用することもできるはずです。
構成・執筆 西村尚子(サイエンスライター)
インタビュー先 黒岩常祥先生(立教大学理学部生命理学科教授・東京大学名誉教授)

引用終わり
すごいですよね!
20億年もの太古の生物が未だに存在し、かつその細胞の持つ遺伝子の中には、現在の我々と似通ったものが存在する事まで明らかになっている!
まさに、進化積層態としての生き字引です。
シゾンが過酷な極限環境に適応している、という性質は、今後の環境変化への適応上もとても有効ですが、それ以上に生物が誕生し進化してきた素地としての環境は、今では考えられないくらい過酷な世界(逆境の連続)であった事を想像させられますね。
この研究をされた黒岩常祥先生の紹介ページも、お勧めです。
「心で観る-しぶとくねばり強く」
研究対象が生物なだけに、「心で観る」という視点にとても共感しました。
以上、かわいでした。
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List    投稿者 kawait | 2007-07-19 | Posted in ①進化・適応の原理No Comments » 

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