2007-06-13

“うつ”のメカニズム③

syusokuhuzen.jpg
雅無乱です。

さて、いよいよ“うつ”のメカニズム③結論。

セロトニンと②ノルアドレナリン、この二つのホルモンの働きから、次のような仮説が浮かんできます。

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外圧(ストレスなど?)がかかった時、生物は適応のために緊張状態になり全身が戦闘態勢になることが必要で、そのような状態になるための一手段としてノルアドレナリンが分泌されます。

セロトニンはと言うと、予期せぬ出来事が起こったり、注意行動をとるときには制御機構を担っているセロトニンは一瞬放出がストップします(①の「セロトニン」を参照)。

言わば、ブレーキを解除してアクセルを吹かして闘争or逃走活動に備えた緊張状態になるわけです。

その外圧に対して、実際に戦ったり、もしくは逃げたりして危機的状況を脱することができれば、セロトニンを中心としたホメオスタシスの機構が働き、脳も肉体も安定状態を取り戻すことになります。

しかし、闘おうにも闘えない、逃げようにも逃げられないような状況が続くと(密室空間「家庭」で、子供にとって母親が評価されたい・愛情を注いで欲しい対象であると同時に、それを与えてくれないorネグレクト、さらにヒステリー・八つ当たりなどで恐怖の対象ともなるような場合。

参照:http://yukitachi.cool.ne.jp/psystory/psect25.html 

こういうのが原体験となり、その後、学校で仲間に受け入れられたいのにいじめられたり、会社で上司に評価されたいのにこっぴどく叱責されつづけたりなどの人間関係において、その過去の記憶が蘇る)、全身が戦闘態勢モードのままでそれが解けず、常に緊張した状態が続くことになります。このような状態は、脳にとっても身体にとっても長くは耐えらないものです。

浜松医科大学の高田明和名誉教授のグループはこんな実験をしています。

ラットの足元に電流を流して刺激を与え、脳でセロトニンの量がどう変化するか、脳に差し込んだ数ミクロンの細い管を通じて調べる。その結果、ラットに電気ストレスを与えると、脳の偏桃体と海馬で、セロトニンの量が増加した。


ここにもあるように、おそらく短期的な解消法として、脳はシナプス間隙のセロトニン量をなんとか増やそうとする
ことで対応するのでしょう。

シナプス間隙では、ある神経伝達物質に特異的な受容体が存在し、その神経伝達物質による刺激を後続のニューロンに伝える役割を果たしています。例えばセロトニンだけがシナプス間隙に存在しても受容体が無ければ刺激は伝わりません。

興味深いことに、セロトニンの受容体の一つである5-HT1A受容体が、うつ病患者において増加しているという報告があります。セロトニン量を増やすとともに、受容体も増やして、セロトニンによる制御を強めようと対応しているように見えます。

こうして、アクセルを吹かしたままでブレーキを思いっきり踏み込んでいる状態が、脳内に現出するわけです。

しかし、いくら受容体は大量生産できたとしても、トリプトファンを前駆物質とするセロトニンの生産スピードには限界があるでしょうし、神経細胞は、セロトニンの再取り込み活性を上げる方向で働きますから、結果的にシナプス間隙のセロトニンは低濃度にならざるを得ないでしょう。

※ちなみに抗鬱剤の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンの細胞内への再取り込み機能を担う膜構造の一部(トランスポーター)にセロトニン分子の代わりに結合することで、結果的にシナプス間隙のセロトニン量を増やす薬です。

セロトニンが枯渇することによって、その「アクセルを吹かしたままでブレーキを踏み込んでいる」状態は破綻すると考えられます。

しかし、セロトニン系が機能不全に陥ったままノルアドレナリン系の機構だけが働きつづけると、心身の“戦闘モード”は解くことができず、不安や恐怖に苛まれつづける状態になります

心拍数の増加体温異常・頭痛・胃痛・十二指腸潰瘍などの消化管異常、不眠血糖値・血圧の上昇などの症状を超えて、ひどい場合には神経症(不安障害や強迫性障害、パニック障害、身体表現性障害、心気障害、解離性障害なども含みます)になってしまうでしょう。

つまりセロトニンの濃度が少ない状態は、抑制のフィードバックが働かない状態であって、常時剥き出しの刺激信号が出つづけているということを意味します。この剥き出しの危機信号こそ過剰緊張の常態化の正体であり、興奮性の物質だけが働いている状態が過剰に膨れ上がった不安の正体ということになります。(http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=45804

これがおそらく、恐怖症や神経症(不安障害や強迫性障害、パニック障害、身体表現性障害、心気障害、解離性障害などhttp://www.utu-net.com/utur/uneasy04.html)の起こるメカニズムです。

これを抑える最後の手段が、エンジンそのものに冷水をかけてしまうこと、即ち、脳の活性全体を抑制することで目先的にノルアドレナリンの分泌も抑制してしまう(すなわち、適応欠乏そのものを根から不活性にして、恐怖や緊張を起こさせなくする)、ということなのではないでしょうか。

こうなると、全てにおいて何をする気力も起こらず…活力も無く…、どんな外圧にも鈍い反応しかできない、まさに「うつ状態」になります。これが、「うつ」のメカニズムだと思われます(素人の仮説なのでツッコミよろしく^^;)。

http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=47433に、興味深い記述があります。

おそらくうつ病の場合、幼児期の母親から刻印された親和欠損による精神不安や恐怖記憶が要因となって、対象から逃避(危機逃避回路による)したいという欠乏が働いている。しかしその対象が例えば原点が幼児期の母親の親和であれば、幼児にとって母親は絶対的な存在であるわけで、もともと存在した欠乏と逃避したいその対象は一体のものである。だからその時点で意識は大きく混濁する。従って対象を否定、封鎖するためには、同時に自身が持つ対象に対する欠乏も否定・封鎖する必要が出てくる。この対象凍結・主体凍結の回路が、周囲の人の評価圧力を前に働き出すと言うことではないか、と思う。


恐怖や不安を生起させる対象と、親和や評価を与えて欲しい対象が同じで、しかもその対象と密室空間=家庭に閉じ込められている。意識が混濁して闘おうにも闘えず逃げようにも逃げられない、だから対象を凍結し主体(欠乏)も凍結してしまう…。これと同じように、脳回路のレベルでも、葛藤を封鎖するために脳全体の活性そのものを低下させる、ということが起こっているのではないかと思われます。

この状態を解消するには、①のセロトニンのエントリーで医者も述べているように薬物だけでは到底不可能で、その葛藤がどのように起こっているのかその状況を構造的に把握すること、闘争すべき現実対象(不安や恐怖を起こさせる原因)を明確にしそのための課題を明確にすること、あるいは潜在思念の奥の欠乏を掘り起こして明確化し(それは人間の場合大抵は共認欠乏である)それを充足できる人間関係を構築すること以外にはないのかな、と思います。

現在悩んでおられる方には、「それができりゃー苦労はせんわ!」とツっこまれそうですけど…(もっとも「自分は病人である→だから仕方ないんだor配慮して欲しい」という所に、確信犯的に逃避しているケースも多々あります。なので上のような見もふたも無いことを言うと怒り出す方もいらっしゃると思いますけど…。自戒も込めて書いてますよこれは^^;)。

もちろん重傷の場合は、脳が反射的に=自動的にパニック状態や不活性状態を作り出し、意思の力ではどうしようもないこともあるでしょうから、そういう場合は一時的に薬物の併用が必要なケースもあるとは思います。しかし、神経症やうつ病の原因構造からみて(先天性の遺伝子の異常などに起因するものはこの限りではない)、現実の課題を明確にして突破したり、現実の人間関係で充足を得たりする以外には、本当の意味で治癒はありえないと思われます。

私自身のブログの「うつは身体の病気と言い切る専門家…」というエントリーでも書いたように、「あなたは病気なんだから薬でも飲んでゆっくり休みなさい、そうすればよくなります」という根拠の無いことを大抵の医者は言ってくると思われますが、実際はそのことで現実からの逃避先をつくってますます現実への対応力を削いだり、本人の共認充足の可能性の場を奪ったりしている場合も多いようです。

しかし事実というのは身もふたもないもので、もし上記のような構造があるとすれば、スネてふさぎ込んでいても、私を哀れんでちょーだいと無意識で望みつつ引き篭もっていても、永遠に精神的苦痛からは逃れられない…ということになります。つまり現実世界に充足の場を構築するしかない、という結論になります。僕自身もかつてうつ病を患ったことがあるので(“仮面うつ”ですが)、このように認識することから逃げたいのはよく理解できるのですが、事実はこういうことなので仕方がないんです^^;)。

というわけで、辛さも苦しさもみんなで分かち合いながらぼちぼちがんばりましょう^^)v

※なお、抗うつ剤による副作用で、依存症になったり自殺したり、最悪の場合、猟奇殺人に走ったりするケースもあるという報告もあり。
 ⇒http://blog.livedoor.jp/nandeya_umeda/archives/50314409.html
 そういう意味でも、薬にはなるべく頼らないのが賢明だと思われます。

List    投稿者 nanbanandeya | 2007-06-13 | Posted in ④脳と適応No Comments » 

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